夜明け9-6
「今の話を聞いて良く分かったけど、良く分からないな」
「なんだそれは。自問自答か?自分を見つめ直すには良い方法だが他人には良く分からないぞ」
「結局ヴィーノを国王にしたいのかしたくないのか良く分からないんだ」
「まぁな。正に矛と盾だ。分かりやすく言えば父上は私を国王にしたいが、兄上は私を国王にしたくないのだ。世に言うモテるという奴か」
「それは意味が違うと思うけど。でもその話を聞いた上でますますレノの存在が気になるんだ」
「先程から良く云うそのレノという奴は何者なのだ?私と関係あるのか」
「それを確かめなくちゃいけない気がするんだよ。なぁ、ヴィーノ。俺の頼みを聞いてくれないか」
「聞きたいのは山々だが、私も追われる身だ。下手な事は出来ないぞ」
「多分だけど、俺の頼みは下手な事になると思う」
ヴィーノは更に悩んだ。
「その頼みとは何なんだ?」
「俺と一緒に王城へ行ってほしいんだ」
ヴィーノは真顔だ。
沈黙。
「何故王城へ行く。私を連れ戻すのか。やはり追手の息がかかっていたのか」
ヴィーノは持っていた盃をノヴァに向けながら二、三歩後退った。
「違う。そうじゃない。レノは王城に居るんだ」
「でまかせを。そんな奴の名前聞いた事もないぞ。私を舐めるな」
「本当なんだ。レノは王族なんだ。彼が言うにはだが」
「嘘に決まっている。私も王族だ。正真正銘のな。私を連れ戻せば賞金が出るのか?上手く懐に入り込んだと思っているやも知れぬがここまでだな」
「本当かどうか確かめるためにレノに会いに行くんだ」
沈黙。
「正気か。真実か。それを証明しろ。今、この場でだ」
ノヴァは考えた。最善の答えは何だ。
「わかった。俺はノアの安否をこの目で確かめたい。親友だからだ。でもヴィーノは王城に戻りたくない。自分の安否の為だ。でも良く考えて欲しい。この場で一人になった後、どうする」
「それは…分からぬ。ノヴァの様な者に出会える保証は確かにない」
「俺と来れば王城までは確実に見つからない保証はする。王城に入った後は君の庭だ。監禁されていたとしても王城の配置関係は分かるだろう。ここまで逃げ出したんだ。抜け道も知ってるはずだ」
「それはそうだが、衛兵の行動や何かも平常時にどう動くかまでしか把握出来ない」
「君はそんなもんじゃないだろう。万が一、君が逃亡中に見つかった場合の予測もしている筈だ」
「…」
ヴィーノは黙りこくった。彼は行き当たりばったりの行動をするような人物ではない。でなければ監禁中に何度も逃亡を試みた筈だ。今日この時でしか決行しなかった。最善のタイミングを見計らっていたのだろう。その為の研究を仄暗い地下室で眈々としていたに違いない。
「確かに今、この知らない城下町で一人、逃げ回るリスクは高い。この場にいつまでも忍べる事はないだろう。君はレノに会った後、どうする」
「レノの意見にも寄るが、最悪この国を出る覚悟もある。一生この国、いや、この街から出られなくなる覚悟もある」
ヴィーノは目を見開いた。そこまでして友人と一目会い、人生をかけられるのか、と。
「君たちの友情はとても深いのだな。私は羨ましい。そんな生き方、考えてもみなかった」
「今からでも遅くはない。俺は君の敵じゃない。君が危険になれば助けに行くぞ。君が王族だろうと平民だろうとね。短い時間だけど俺は君に魅入ったんだ。それ以上もない」
ヴィーノは俯いてしばらく動かなかったが、足元の土が濡れて変色していくのは見えた。
そしてヴィーノは意を決してノヴァに鋭い眼光を向け言い放った。
「良いだろう。このヴィーノ。ノヴァに加担する。レノという奴ともしっかり話し合わせてもらうぞ」




