笑う2-1
「そこからエルボーを首に入れてロックするか?いつもいつもワンパターンなんだよ」
ガレオンは左手と左膝を地面に着き首に向かって肘を突き出すガンタの攻撃をかわしながら右足を相手のみぞおちに狙い定めた。しかしワンダはその蹴りをいなすようにくるりと反転、右周りに体を一回転しもう一度肘を片膝着いたガレオンの首にめがけ振り下ろす。
「これはワンパターンなどではなく相手がこの攻撃に対してどの様な反撃を仕掛けてくるか判断するための準備動作なんですよ。現にあなたは沢山の反撃動作を私にインプットしてくれてるの、気付いてないですか?バリエーションが無くなればこちらも余計な動きが減り戦略を立てやすい。受け止めるもかわすも容易に出来る。ガレオンさんとは非常に戦いやすい」
ワンダは早口で論理的にまくしたてた。ワンダの肘がガレオンの額にヒットしよろけたところをそのまま抑えつける。が、ガレオンはレスリングの様に腰を思い切り浮かせブリッジ状態になりながらここから脱した。店内がグチャグチャに荒れるのを恐れた店主のベンダーが常連客に指示を出して迅速にグラスやテーブルは店の片隅に移動され店内はさながら闘技場と化していた。
「はぁい、そこまでにしてくれ」
ゆっくりギィと音を立てて開かれた。店の入り口にマークが頭を掻きながら怠そうに現れた。
マークはそのままベンダーに近付き、
「いつも迷惑をかけて申し訳ないです。これ、ほんの気持ちですが受け取ってください」
そう言うと小袋をベンダーに差し出した。
「いや、マークには息子も世話になっとるし、義理はそれだけで充分だ。しかし、受け取れというのなら断るのも失礼だな。」
ベンダーが袋を受け取り中身を確認した。表情を変えずそのまま袋を受け取りエプロンの前ポケットにしまった。
「お前らホントに酒癖が悪いな。毎月事を起こされる身にもなってみろ。禁酒令出すぞ。親父さんにもテスにも常連さんにも迷惑がかかる。そろそろ終いにしろや」
未だに戦闘態勢の二人の間に入り終戦を促した。荒い息遣いの二人はファイティングポーズを解き、バツが悪そうにその場を行ったり来たりした。
ワンダが言う。
「マークさん。ガレオンはいつも俺の事…まだ認めてくれないんですよ」
「そうじゃない。お前がもっと強くなるために自分を見つめる事も大事だって言ったんだ」
「その上から目線が気に食わないん…」
「まぁまぁ。もう落ち着け。その話は毎月聞いてる。決まって給料日の翌日にな。酒を入れると説教じみた言い方になるもんだ。それにはあまり説得力がないし、言われる方も酒を飲んでれば不満がちになる。そういうのは演習でやってくれ。ここは演習場じゃあない。お前らを酒の肴に見世物になってるぞ」
我に返ったガレオンとワンダは周りを見渡し、もともと酒で赤くなった顔を更に少しだけ赤らめた。
ベンダーがタオルを肩に掛けながら言った。
「まぁ店を荒らされちゃあこちらも問題だがな。それを目当てに来る客が出始めてるのも事実だ。その分、売れ行きが上がるのも事実。しかし、喧嘩はやはりよろしくないよな」
三人はその場にいた客も含めて全員に頭を下げ、避けられたテーブルを元の位置に戻した後、店を出た。
「マーク。お前には迷惑ばかりかけてすまん。だが、さっきの禁酒令だけは勘弁してくれないか」
「はっはっは。冗談のつもりで言ったが、その気にしたなら手段としてはそれも悪くなさそうだな。検討しておこうか」
三人は笑い合いながら宿舎を目指した。




