夜明け9-1
「ミロイ大将、お久しぶりです」
「おやおや、これはマークさん。ご無沙汰してます。[陸軍大将]と言ったほうが正しいですかな。ははは」
高笑いをするのはバス国海軍、通称ネプチューンの大将[ミロイ]だ。嫌味ったらしい口調は相変わらずだなとマークは苦笑いした。
「少しばかりお願いがあって来たのですが、お話だけでも聞いていただけますでしょうか」
マークがそう言うとミロイの顔から笑顔が消え、眉間に皺が寄ったのをマークはしっかりと確認した。
「はて、改まった物言いですな。いいでしょう。お聞かせ願おう」
「率直に申し上げると、この海軍北基地の配備を少しばかり厚くしていただきたい」
ミロイは眉間に寄った眉の片方を上げ、訝しがった。
「それは何故だろうか。今警備を強化するのはむしろ南基地の方ではないか?アミーユでの革命が起こりいずれその矛先がこのバス国に向かうやも知れぬのだぞ」
「承知しております。だからこそこの北基地の防衛を強めていただきたいのです」
「さっぱり分からんな。少々時間を無駄に過ごしてしまったようだ。おい、パウロ君。陸軍大将がお帰りになられるぞ。お見送りして差し上げなさい」
「ちょっと待ってください。お願いします。見誤れば取り返しが…」
「パウロ君。くれぐれも頼むぞ。この基地は広いし陸軍大将も来慣れない場所だから迷ってしまわれては大変だ」
「ミロイ大将、最後までお話を…」
「陸軍大将殿。さ、こちらでございます」
[パウロ]は無理矢理マークを部屋から押し出した。抵抗虚しくマークは海軍兵士に囲まれるようにゲートまで歩かされ、敷地外に出るまでちゃんと睨まれ続けた。
マークはそのまま第三駐屯地へ向かった。取り仕切るスマツはもう暫く戻らないだろう。アミーユの状況によっては世界規模の混乱が巻き起こる可能性がある。その際に防御を固めるのは北なのだ。北なのに…
根拠を示せば受け入れてもらえると思っていたが門前払いを食らってしまった。防衛戦になった場合、海軍は一番の要所だ。準備不足によって隙を突かれそのまま敗戦した例はごまんとある。むしろ戦いにおけるセオリーだろう。どうする。今からでも遅くはないが、いつ奇襲をかけられてもおかしくないかも知れない。
マークは脳にびっしりとこびれついたあの風景から逃れられないのだ。今は背負うものがある。緊急事態なんだーーー
「ミロイ大将。ただいまお帰りになられました」
「そうか。ご苦労であった。マークめ、一丁前に物を言うようになって…」
ミロイ大将はパウロの伝令を背中越しに聞きながら窓の向こうに煌めく水面をじっと見つめていた。
「マーク大将の言うように守りを強めますか?」
ミロイは微動だにせずまだ海を眺めている。
「いや、その必要はない」
「は。ではやはり南基地に増援を…」
パウロは出しかけた言葉を呑み込んだ。
「その必要もない。どちらも万全の態勢だ。小僧に助言を貰う程、私も落ちぶれてはおらぬよ。ネプチューンの名の下に勝ち星をまた一つ夜空に輝かせようぞ」




