火種8-5
「スティル王子。本日のご予定はお決まりでしょうか」
執事はスティルに尋ねた。
「うん。今日は城下に降りて街を一周しようか。地道に名前と人柄を売ろう」
スティルは強かだった。国を治めるには国民の信頼が第一だ。力で捻じ伏せるのは簡単だ。恐怖による支配は反乱を生む。今までの歴史からそれは明白だったーーー
幼いながら兄の勇敢さに惚れていた。
兄は何にも怯まず立ち向かっていたのだ。強い者にも弱い者にも正面からぶつかった。時には抱きしめ包みこんだ。
兄は常に笑顔を見せた。追い込まれた時こそ微笑んだ。
兄は生きとし生けるものを愛した。人間然り、動物然り、植物然り。そして彼に家族は特別であった。
そして兄は失望した。信じた父の裏切りを知った。当然のように兄は父に立ち向かった。相手が父である事は関係ない。誰であれ立ち向かっただろう。
兄は絶望した。家族に追い込まれる事になるなんて想像もしていなかっただろう。失意の中、兄は身を投げた。
当時の護衛隊長[ロベルト]は父から絶大の信頼を得ていた。忠実かつ冷徹だった。ロベルトは兄と正反対の性格であったが父は兄よりもロベルトを好んだ。次期マルベス王として名前が幾度も挙がった。長年世襲が続くマルベスの王を虎視眈々と狙っていたとの噂も聞いたことがある。実際のところは今やわからないが、ロベルトの企てに気付いた兄は彼の命を奪った。表向きは次期国王の座を奪われまいと兄が阻止した事になっているが、恐らく小国の植民地化を推し進めたのがロベルトである事を兄は突き止めたのだろう。だがそれは想像の域を出ないーーー
内輪揉めこそ何の成果も得られない。それによって滅亡する事は多々起こってきたのだ。大国ほどその確率は高い。大国であるメリットは何だ。国民の多さ、資源の豊かさ。まずは人だ。信頼と実績を持ってこの国をより良い方向へ導く。父のような王にはならない。スティルは情熱の炎を燃やす火種を蒔き始めた。




