火種8-4
「ゴッグ。レノの奴、どうだった?」
「アイツはいつも通りだよ。王族なのにこの事態を何とも思っちゃあいない。能天気な奴だぜ。まったく」
ゴッグは四男[アラン]の部屋に居た。ゴッグとアランは双子だ。王位継承の件で彼らと次男スティルは睨み合っていた。アランは笑いながら窓越しに夜空を見上げて言った。
「そっか。そりゃあよかった。はなから当てにはしてないし。やっぱり俺達でやるしかないね」
「そうだな。まずは父上が本当に王位を譲るかどうかだけどな。五日後のお楽しみだ」
ゴッグは腰を下ろした椅子を傾けながら答える。ジャスティン王から息子達四人は呼び出しをされていた。その日は五日後の夕食時の予定だ。ここのところジャスティン王は部屋からあまり外に出ておらず、限られた使用人しか実情を知らない。そして口外しない様にと王からの命令があったのだそうだ。いくら王子とは言えその事は誰からも決して教えてもらえなかった。
「スティル兄さんはどこまで知ってるんだろうな。最近上機嫌らしいじゃないか」
アランが立ち上がりゴッグに近寄りながら言う。ゴッグは相変わらず椅子を傾け前後に揺らしている。
「さぁな。王位継承はあくまで噂だし、情報量は俺等と同じはずだぜ。兄さんも王になると思い込んでるだけだと思うが」
アランは笑いが堪えきれない。
「いや、だってよぉ。くっく。それならあんなに露骨に態度や行動に出るかね?ぷはは!これで全然違う内容の話だったらとんだ笑い者だぜ?仮に王位継承が本当だとしてもスティル兄さんになる保証なんてどこにもないのに。いー!腹が捩れちまうよ」
ゴッグはアランに誘われて吹き出す。
「ぶふっ。ほ、本当だよな。あっはっは!そう思うと笑えるな!だーはっは」
夜更けに双子の王子の笑い声が響く。
レノは地図を描いている途中、ふと筆を止めた。
「王様か。考えたこともなかったけど、それはそれで冒険には有効か」
世界を知るのはもちろん、この国はおろか城下町、更には王城だって知らない、行ったことのない場所がたくさんある。王しか入れない秘密の部屋だっていくつもある。王になればそれら全てが自分の手中に収まるのだ。さらに王家の財産が手に入れば世界中どこへでも旅が出来る。国政なんて旗を振るような性格じゃあない。しっかりとした組閣、人事を行えばうまくまとまるし、自分の役目は最終決定さえしていればあとはなんとかなるだろう。そんな未熟な考えが脳内を支配し始めた。世界にはどんなワクワクがどれほどあるのだろう。今回の冒険を記した地図はどれほどちっぽけなのだろう。こんなものに時間を費やすのが急に勿体無く感じた。ただの地下室じゃないか。恐れる事はない。そこにどんな秘密が隠されていようともこれからの人生を考えれば一つの思い出くらいにしかならないだろう。やはりすぐにでもあの地下室の謎を解き明かしたい。これは自分にとっての青春なのだから。
思い立ったが吉日だ。ノヴァはまだ起きているだろうか。今思えば忍び込むなら夜の方が圧倒的に人目に付かずたっぷり時間が取れるじゃないか。皆が目を覚ます前に戻ればいい。それまで何時間あると思う?
「あぁ、こうしちゃ居られない。すぐに準備をしよう」




