火種8-2
「あれ。早いじゃないか。時間に正確なのは素晴らしい。そうか、いち早く情報を手に入れたって訳か。さすが元泥棒…」
「…」
「どうした。元気がないな。走り回って疲れたか。そりゃそうだよな初任務ってのは僕も気合入れすぎてヘロヘロになった記憶が…」
「…」
「あー。その、何だ。もしかしてずっとここに居たの?」
ナジャの問い掛けにミシェルは無言で俯いたままだった。
「うん。そうか。えーっと…とりあえず皆が集合するまで待機、かな」
数分後にはジャン以外の班員達は再び広場に集まっていた。各々集めた情報を共有したが手掛かりになりそうなものはなかった。ナジャが言う。
「さて、これからどうするかな。もう少し範囲を拡げて聞き込むしかないか」
「あれ、揃ってるな。全員いるようだ。収穫が有るにしろ無いにしろ、とりあえず船に戻るぞ」
ジャンはゆっくりと班員の元に寄った。
「ジャンさん。戻るという事は何か有益な情報が見つかったんですか」
ナジャは歩みを止めないジャンに聞いた。
「当たり前だ。お前らがどこでどんな情報を得たかは知らねぇけど」
「ジャンさん、そんな急がなくても。僕たちはまだほとんど情報を集められていません」
ジャンは急に立ち止まった。振り返らず後ろ姿のまま後頭部をポリポリと掻いた。
「こちとら知りたくもねぇ事知ってちょっと苛ついてんだ。事を起こされたくなかったら黙ってついてこい」
班員は驚きと疑問、ピリッとした威圧感で硬直した。が、ナジャは食い下がる。
「それで僕らの班は任務終了ですか?そんなのあんまりだ。それに…」
「それに、なんだ」
振り返ったジャンは遠くを見るような半目でナジャに聞き返す。冷たい視線の奥に何か憎しみのようなものが見えた気がした。
「そ、それに得た情報を共有しないのは何故ですか。そんなに僕らが信用できないですか」
パンッ!
ジャンは突然ナジャの左頬を殴った。ミシェルはこれまでのやり取りもずっと直視出来ないでいた。他の班員が駆け寄る。
「ちょっ、どういう事ですか!ナジャはそんな変な事言ってないですよ!」
「こんなの八つ当たりじゃないですか!」
「いきなり殴るなんておかしいですよ!」
倒れたナジャを庇いながら数人の班員がジャンを睨む。ジャンは拳を握ったままナジャ達を見下ろす。
「何も知らないで…まぁその方がよかったかも、な」
ジャンは庇っていた班員を押しのけナジャの胸ぐらのを掴み右手を振りかぶる。
「やめてください!ここはジャンさんに従って船に戻りましょう!」
ミシェルが意を決して叫んだ。その声にジャンは拳を振りかぶったまま静止している。
「ミシェル!?怖気づいたか?お前この人を庇う気か!」
「ち、違います。違いますけど、その、えっと…」
言い淀むミシェルをちらと見てジャンは拳を下ろした。そしてそのまま何も言わずに港へ向かった。




