すれ違う7-9
「本当にユティンなのか」
ふいにラフスは尋ねた。悴む両手をぎゅっと握り締める。
「あぁ。良くも悪くも、な」
二人は狭い洞穴の中で目を合わさずそれぞれ違う方向を向いていた。笑顔で涙を流しながら抱きしめ合う感動の再会シーンなんて空気ではない。
「あの事件については事が収まってからゆっくり話す。まずは無事に帰ることが優先だ」
「なぜボンさんが?本当にボンさんの仕業なのか?」
「そうだな。認めたくもないだろうが彼の企みだ。ただ彼も駒の一つに過ぎない」
「組織的な計画ということか。まさか私が狙われる事になるなんて」
「今回の狙いはラフス、君だったが本当の標的は私だ」
「ユティンの存在を他にも知る奴がいるのか」
「多くはないがな。私が生きていては都合が悪い連中がほとんどだ。君がどちらかは分からないが」
「私自身でも分からない。現時点では」
ユティン同様、私の事もよく思わない奴らが居るという事だ。今の立場上、敵となる連中は予想以上に多いだろう。
「これから、どうする」
ラフスは敢えて曖昧な聞き方をした。どう捉えるかはユティンに委ねようと。
だがユティンは答えなかった。その代わりに手の平を広げた左手をラフスの顔の前に差し出した。静かにしろ、と言う事か。
「この辺りで足跡が消えてるぞ。まだ近くに居るはずだ!探せ!」
洞穴の外から叫び声が聞こえた。雪を踏み締めるザクザクとした音が無数に聞こえる。もう追手がここまで…どれほどの人数だ。
ユティンは入り口をずっと睨みつける。息を呑む時間がしばらく続く。見つかれば二人とも命の保証はない。頼む…このまま通り過ぎてくれ。
だがその思いも虚しく声が挙がる。
「居たぞ!見つけたぞ!」
逆光でよく見えないが数人が洞穴の入り口に立ちふさがった。ユティンも人数を確かめ勝てないと思ったのか、静かに両手を挙げた。




