すれ違う7-8
「な、なんで。いや、いやいや違う違う。はぁ、そんな事無い。そんな、いや、違う」
「ラフス。まずは此処から逃げ出す事だ。後で話す。話せない事もあるが説明する。だから早く外に出るんだ」
「待て。待て待て待て。お前は誰だ。違うだろ。ユティンな訳が無い。まだ夢の中か。ボンさんが気を遣って起こさずいてくれたおかげでこんな夢を」
理解し難い、いや、正確には理解したくない現実にラフスは目を背ける。理性を保てないでいる。ユティンは見かねてラフスに近寄る。
「ラフス。今この場で理解するのは無理だろう。理解しようとしなくていい。私をユティンだと思わなくていい。ただ黙って付いてきてほしい」
「何だと?そんな事言われてはいそうですかと付いていく奴がどこにいる。昨今の子供でも分かっていることだ。ボンさんは何やってるんだ全く」
一向に聞く耳を持たないラフスに痺れを切らしたユティンは無言でラフスの右腕を掴み強引に連れ出そうとした。強気な発言をしていたラフスだが、ぶつぶつと「おかしい。どういう事だ」と呟きながらも案外素直に付いてきた。思考と行動が乖離していた。
寝室の割れた窓から二人はコテージの外に出た。雪は止んでいるが相当降り積もったようだ。一歩ごとに足が雪の中にすっと沈みなかなか思う様に進めない。だがこの頃にはラフスも逃げなければならないんだと自分に思い込ませて出来る限り急いだ。
ふと振り返るとコテージは木々に隠れて、隙間から小さく見える程度まで離れたのだと分かった。何が起きているんだ。
ドォォォォォン!
目の前が閃光に包まれ耳鳴りで何も聞こえなくなった。すぐに熱風が押し寄せ二人は数メートル吹き飛ぶ。何秒かしてやっと起き上がったラフスの目には燃え盛るコテージだったものが映った。
「くっ。急ぐぞ、ラフス」
ユティンはそう声を掛け再び歩を進めた。ラフスも少し遅れて後に続く。
どれほど歩いたかわからないが両手足の指先に感覚はない。鼻先は寒さでジンジンと脈打つ。
「あそこで少し休むぞ。身も隠せる」
ユティンが指差す先には川が流れ、その先は滝になっているようだ。二人は急斜面を降りて滝つぼの横にある洞穴に入った。あまり大きくはないが二人なら十分に入れる広さだ。呼吸を整える間、二人に会話はなかった。




