すれ違う7-7
ふと目が覚めると薄明かりが窓から差し込んでいた。いつの間にか眠ってしまったようだ。あの酷い吹雪の中を歩いたのだ。思った以上に疲れていたのだろう。
「ボンさん。すみません気付かぬ内に寝てしまったようで。ボンさん。どちらですか」
各部屋のドアを開けたがボンの姿はどこにもなかった。出かけたのだろうか。しかし、何か異様で嫌な雰囲気に感じた。
特に違和感を感じる部分はないはずだ。物音はせず、静まりかえっている事くらいか。雪の所為で静寂に拍車がかかる。今は何時だろうか。外はどうだ。雪は止んだか。
気になって玄関のドアを開けようとした。ドアノブに手を掛けたが開かない。外から錠前でも掛けたのか。やはり出かけたのだろう。玄関横の窓から外を見ようとカーテンを開けた。ガラスには結露が酷かったので手の平で拭き取った。今見る限り雪は止んでいるようだ。よかった。今日は帰れるだろう。御者はどこに居るだろうか。迎えに来るのか。昨日ボンさんが言っていた事も気になる。何かの企みに嵌っているのか。
玄関前に降り積もった雪。その中にある足跡がふと目に留まった。やはりボンさんは出かけたのだ。薪でも取りに行ったのだろうか。しかしすぐに戻って来るだろう。
リビングのソファに腰を下ろして色々と考える。御者の事。今日戻った後の仕事の内容。ユティンの事。ボンさんがまだ戻らない事。
やはり何かおかしく感じる。なんだろう。
ダンダンダンッ!
急にコテージのどこかを激しく叩く音がした。玄関ではなさそうだ。ラフスはビクッと驚いたが音の在処をすぐに探した。
「ボンさん。ボンさんですか。どこですか」
勝手口でもない。リビングの窓でもない。私が寝ていた部屋か。ラフスは早足で来客用の寝室に向かった。扉を開けると正面に窓がある。縦横1mほどの窓だ。その向こう側で窓を叩く人が居た。フードを被り顔は見えない。ボンさんではなさそうだ。私を狙いに来たのか。丸腰のラフスは急いでキッチンに戻り包丁を探し出した。いざとなれば致し方ない。
その時、パリンと窓ガラスが割れる音が聞こえた。まずい、侵入された。ラフスは両手で包丁を握りしめ、寝室の入り口をじっと睨んだ。
フードを被った侵入者がこちらに近寄る。
「誰だ。何しに来た」
ラフスは包丁を構える両手が震えているのを自分でも認識していた。
「私を襲いに来たのか。攫いに来たのか。狙いはなんだ」
侵入者は寝室の入り口あたりから動かない。
「もうすぐ家主が戻るぞ。どうするつもりだ」
「家主は戻らない」
侵入者は口を開いた。男だ。よく見ると大柄で寝室の扉と同じくらいの背丈だ。
「どういう事だ。家主と何かあったのか。家主を知っているのか。まさか、殺してはいまいな」
戻らないと断言したと言う事はそういう事だろうとラフスはより強く包丁を握り直した。
「殺してはいない。家主と面識はないが誰かは知っている」
どういう事だ。ラフスは混乱し始めた。
「お前を狙っているのはその家主だ」
侵入者は落ち着いた声でラフスに言った。ボンさんが私を?
「な、何の事だ。なぜ私を。どういうことかさっぱり理解出来ない。そもそもお前は誰だ」
ひとつ沈黙を置いて侵入者はフードを脱いだ。
「私だ。ラフス」
その男は紛れもなくユティンだった。




