思惑6-3
バス国の北側、ミューイの街にガンプー軍第三駐屯地がある。ここは五番隊、六番隊、九番隊が駐屯し、更にバス国海軍基地も併設されている。海軍は通称[ネプチューン]と呼ばれ海戦において数々の奇跡を起こしている。
ミシェルは五番隊宿舎に居た。
「スマツ隊長。マーク大将からの使者が参られております」
「わかった。通せ」
隊長室の扉を開くとそこには上半身裸のスマツが汗を垂らしながら指立て伏せをしていた。
「大将より任を受け本日よりお世話になります。ミシェルです」
スマツはミシェルを見ずにトレーニングを続けながら言った。
「そうか。悪いがあと70回分待ってくれ」
スマツの雄々しい背中と筋張った腕を見てミシェルは気圧された。
「もうひとつ。これも悪いんだが、私は座るのがあまり好きでなくてね。この部屋に椅子はないんだ。申し訳ない、すぐ終わらせる」
部屋を見渡すと確かに椅子はない。ミシェルは気まずいながら何も出来ずにただ待った。喋りかけるような雰囲気でもないし部屋を一旦出る勇気もない。
スマツは一回一回感覚を確かめるように、しっかりとゆっくりと指立て伏せをする。体からほんのり立ち上る湯気がオーラにも見えた。
「すまない。待たせてしまったな。大将からは大方の話は聞いた。ミシェルと言ったか。私は五番隊隊長のスマツだ。宜しく」
スマツは隊服を着直し背筋を伸ばした姿勢でミシェルに握手を求めた。ミシェルは握手に応えながら身長以上に感じる大きさと力強さ、紳士の様な立ち居振る舞いに恥じらいを少し感じた。
「凄惨な事件があって間もない。気持ちの整理もまだ完全にはついてなかろうと思う。が、軍に所属する以上はこの国、国民、軍の同志の為に責務を全うしなきゃならない。その為には自力をつけなきゃいけないんだ」
ミシェルは頷く。
「兵士をやっているといろんな場面で究極の選択を迫られる。例えば傷付いた仲間を置いて自分だけ生き残るか。それとも仲間を抱えて逃げるか。本当に逃げ切れるか。自分も死んでしまうのではないか。生き残るために沢山の命を奪う事にもなる。その責任も負わなきゃならない」
スマツは腕を組んで窓の外を見ながら続ける。
「まずは自分を守るために必要なものを身に着けろ。基礎的な能力の底上げだ。剣を振るには腕や胸筋、背筋。それを支える下半身。併せて走り続ける体力。作戦を瞬時に立てるための知識。相手を説得する事も時には必要になる。あらゆる能力をしっかりと伸ばし基礎を磨けば負けない戦いが出来る。勝っても死んでは意味がない。生き延びろ」
「…言わんとしている事は分かります。ただ、ガンプーの教えとしては長所を伸ばす事ですよね。私はまだ自分の長所を知りません。満遍なくバランス良く基礎から作り上げると言うことでよろしいでしょうか」
「理想はそうだな。だがやってくうちに気付くと思うが誰にでも得手不得手がある。全て均等に能力を伸ばすことは難しい。劣る部分があれば優る部分がある。それが長所を伸ばす事だ。そうする事で劣りを補い、結果バランスが取れる」
ミシェルは理解した。出来ないことをただやらなくていい訳ではない。その分、出来ることを出来る以上にやらなくてはいけないのだと。
「腑に落ちました。ありがとうございます」
スマツはキリッとした顔のまま姿勢良くゆっくりと頷いた。
「さて、アミーユへ向かう前に一度メンバーと面通ししておこう。今日はゆっくりしていってくれ。部屋は用意してある」




