光5-1
「ライト!走れっ!走り続けろ!」
爆煙に包まれた街並みを[ライト]は目指す当てもなくただ走り続けた。四方から罪もない人々の断末魔が聞こえる。だがライトの脳はその声よりも走る事を優先した。生きるのだ。生存本能に従いこの場を逃げ切る為に走るのだ。
上がった息が落ち着き、思考が蘇ったのは海岸にある小さな洞窟の中だった。悪夢だ。ライトは夢の中ではなく現実で悪夢を見た。冷静になればなるほど理解出来なかった。何が起こった?この街で何があった?奴らは誰だ?自分はなぜこんな所に身を潜める?
次第に体が震え始める。なぜ自分は生きている。その価値はあるのか。未来はあるのか。自責の念に駆られる。この場には自分しかいない事が俯瞰的に見えてくる。もしかするとこの世界には自分しか居ないのではないか。正確には、今までは居たが今となっては自分だけなのではないか。段々と頭上に黒い靄がかかる。そのまま靄に呑み込まれてしまいそうだった。縮こまり震える体を両腕できつく抑え込んでいた。
カラン。
石が転がる音にライトの震えていた体が一瞬で硬直した。誰か、居るのか。呼吸さえもうるさく感じた。耳を澄ませる。
「はぁ。はぁ」
微かに息遣いが聞こえる。誰か、居る。
意を決してその場に転がる鋭利な石を持って近付こうとしたが止めておいた。リスクを冒す必要は微塵もない。ただ石だけは選別して右手に握りしめた。
「くそぅ。酒が足りねぇ。震えが止まりゃしねぇ」
中毒になった浮浪者か?こういう連中は何をしだすか分からず達が悪い。
「欲を言やぁ、つまみになる血も足りねぇ」
急に声が鮮明に、そして右耳元で囁くように聞こえた。それもそうだ。奴はいつの間にか背後に居た。
背筋が凍った。が、ライトは咄嗟に石を持った右手を後方目掛けて振った。だが、何にも当たらなかった。
「出来れば血まみれで悶える様を見ながら、煽るように酒が飲みてぇなぁ」
今度は左耳に向かってしっかりとした口調で喋ってくる。ライトは恐怖で我を失いそうになった。
「っああああ!」
自分を取り戻すように、だが一心不乱に右手を振り回した。だが、何にも当たらない。そして右手は掴まれ動かせなくなった。
「冗談だ、小僧。お前をいたぶったりはしない。落ち着いてくれ」
彼は落ち着いた口調で話した。右手は少しも動かせないほど強い力で掴まれていたが不思議と痛みはなかった。
「驚かせて悪い。俺もこの街のもんだ。お前と同じ被害者だ。そして、臆病者だ」
その声は冷え切った洞窟の中でも温かく感じた。少しずつ力が抜け、持っていた石を落とした。
「ありがとな。俺はブライって言うんだ。お前は?」
「…ライト」
「そうか。ライトか。俺とお前でブライト。光だな」
ライトは意図せず涙を零した。




