始まりの渦3-8
昨日の予想とは裏腹に今日は雨雲がさっぱりと無くなり晴れ渡った。急いで干した洗濯物を改めて日光に当てる。
マークはバス城に向かうまではそこまで暗い気分はではなかった。ミシェルの件をどう処理するか、どう報告するかで悩んではいたが新たな希望に少し胸を弾ませていた。だが、バス城に着いた途端に気分は真っ逆さまにドン底まで落とされた。
城門をくぐったマークに気付き、駆け寄って来たのはガレオンだった。マークはガレオンの向こうに出来ている人だかりが気になって仕方がない。
「お、おはよう。ガレオン。いきなりで悪いがあの人だかりはなん…」
「ここではなんだ。とりあえずお前の部屋へ行こう。気になるところ悪いがオレも気になってんだ」
ガレオンに右腕を捕まれそそくさとマークの部屋へ二人は向かった。向かう途中に何回か振り返ったがガレオンに制止され歩みを止められなかった。
部屋に入るなりマークはガレオンに椅子へ押し付けられながら座った。
「マーク。一昨日の第二駐屯地の件だが相当厄介だ。早々に動かないととんでもない事に巻き込まれちまう」
一呼吸置いてマークは言った。
「いや、あれは昨日一旦解決したと思ったんだが。何があった?」
ガレオンは右眉を上げ、左眉を下げ、訝しげにマークを見た。
「解決したと?犯人でも捕まったか?全部吐いたのか?」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ。一度整理したい。まずガレオンから話してくれ」
マークは両手を額に当てトントンと叩いた。
ガレオンはふぅと一息吐き、机に腰を下ろした。
「まず昨日の昼過ぎ、アカシア孤児院のサジーさんが亡くなった。彼は死に際に配給されたスンを食べさせないようにとオレに言った。机には木箱に入った大量のスンと一つ食べかけのスンがあった。おそらくつまみ食いしたんだろう。そのスンには毒が盛られていた」
マークは俯いたまま両手を額から顔面に下ろした。ガレオンは続ける。
「幸か不幸か、アカシア孤児院の被害者はサジーさんだけで子供達は無事だ。だが…」
「だが?」
マークは顔を覆ったまま返した。
「ライラック孤児院は全員死亡しているのが見つかった。みな中毒死だ。おやつの時間にライラック孤児院でもスンを食べたらしい」
マークは絶望した。何も言葉が出なかった。
ガレオンはマークに聞いた。
「リリア孤児院は特に報告が上がってないが全員無事か?あの泥棒猫がいるとこの」
マークは両手を今度は足の間にだらんと下げ、背もたれにドンと寄りかかって天井を見上げた。
「今度はオレが話そう。昨日あった事を」
「ん?お前、昨日非番じゃなかったか?」
「いや、そうだったんだが呼び出されたんだ。第二駐屯地に。備品を盗んでいた犯人はミシェルだった」
ガレオンはダンッと勢いよく机から立ち上がった。
「正にその泥棒猫か!?」
「あぁ。盗んだ備品は一昨日の段階で他二つの孤児院に運ばれていた…それによって更に被害が出てしまった」
二人は少し黙った。
ガレオンが沈黙を破る。
「って事はミシェルが運んだ備品の中にスンがあって、そのスンは毒入りで、孤児院の奴らを殺そうと?」
「確信ではないがその可能性は低いだろう。殺す動機がない。そもそも第二駐屯地から盗まなければこの事件は軍内で起きていたとも考えられる。どの段階で毒が盛られたかによるが」
「あーごっちゃになってきやがった。まとめると?」
「まずはどの段階で毒が盛られたか。アミーユから輸入した時点か。第二駐屯地で保管されている時点か。盗まれた後の時点か。孤児院に運ばれた後の時点か。それによって捜索範囲が変わる。輸入した時点であれば狙いは我々ガンプーだ。戦力を奪う目的だろう。保管されている時点であれば可能性は二つ。我々を狙うか、もしくはミシェルが盗みを働いている事を知っていたか。となると盗まれた備品の行き先も把握していたはずだ。孤児院をわざわざ狙うのは考えにくい。目的はなんだ…」
ガレオンは頷きながら人差し指を立てた。
「そうだ。ミシェルはどうしたんだ?捕らえたのか?」
「いや、オレが軍に入隊を勧めた」
「…あぁ?事の運びは分かんねぇがまずリリア孤児院も安全を確保せにゃならんよな」
部屋の外が騒がしくなった。
「こ、こら!君!待ちなさい!勝手に入り込むな!」
バンッと勢いそのまま扉が開いたその向こうに息を切らしたミシェルが立っていた。
「全部聞いたぞ…騙しやがったな。マーク」




