始まりの渦3-6
「大将!お待ちしておりました。お休みのところご足労いただきすみません」
そう言うのは八番隊隊長のテス。やはりお調子者だ。昼夜を問わず、場の空気を察せない。しゃしゃり出ては手柄を自分の物のように、より一段と饒舌になる。
「ささっ!こちらのお部屋でございます」
デスはコンコンッと素早くノックし扉を開けた。
中にはフォールとスマツが居た。
「大将、ご苦労様です」
スマツは敬礼しながら言ったが、その表情は浮かない。その表情のまま、右肘でフォールを突いた。フォールは右手で顔を覆っていたが、ハッとなりマークに敬礼した。
「ご、ご苦労様です。夜分にすみません」
「いや、構わないよ。眠れる気配もしなかったもんでちょうど良かった。しかし、また面倒になったな」
フォールはマークの言葉を聞き、「はぁ…」と溢れる汗を拭きながら困り顔で部屋の中央に置かれた椅子をちらちらと見て言った。
その部屋にはもう一人いた。そう、今回の一連の事件を引き起こした犯人だ。備品を横流ししていた者が部屋の中央に置かれた椅子に座らせられ手足を縛られていた。
「またお前の仕業か。ミシェル」
マークは縛られた犯人の頭に右手をポンと乗せ顔を見た。[ミシェル]は17歳の少女だ。身寄りは居ない。バス国には孤児院がいくつかある。戦争孤児を中心とし、決して裕福ではない家庭が多い。ミシェルもその一人だ。ミシェルはこの第二駐屯地からほど近い[リリア孤児院]で生活している。
テスは鳩が豆鉄砲を食らったような顔で言った。
「え!?大将、この子知ってんすか?またって、常習犯?」
「いや、2度目だ。正式には2度目だ」
「正式じゃないのいくつあんのよ。それ常習犯でいいでしょ」
マークはテスから向き直り、ミシェルを見た。ミシェルはずっとマークを睨んでいる。
「今回は誰に唆された?いくらでやったんだ?他に仲間は集めたか?」
ミシェルはどれにも答えなかった。
スマツが言った。
「大将。調査した中で国外に流出したものはありませんでした。不法入国もありません」
「結構。自国内で済むならそれに越したことはない。盗品の在処は?」
フォールが答える。
「は、はい。一部はすでに消費されていましたが、各孤児院に搬入経路不明の日用品類及び食品を確認してお、おります」
マークはフォールに頷き、再びミシェルを見た。彼女がようやく口を開いた。
「前より上手くいったと思ったのに…」
テスが割り込む。
「あのなぁお嬢ちゃん?上手い下手はともかく盗みはやっちゃいかんのよ?それが貧しい人の為であっても罪になっちゃうのさ。配当も配給も各孤児院にあるでしょう?」
バス国では孤児院に全面援助を行っている。18歳になるまでは食事、宿泊、生活補助金を支援し、18歳を迎える時期には就職先の案内も実施。滑らかに自立を促す。
ミシェルは反論する。
「それじゃ足りないんだ!自立してったやつも自分の生活で手一杯で帰ってこないし。今いる奴らはヤンチャ盛りでケンカばっかり。虐められるやつもいる。世間体では均等に、平等に人権が守られてる様に見えても中身は弱肉強食だ。最近は孤児院をわざわざ狙って盗む強盗も出てきた。だからもっと必要なんだ」
「だから君も強盗になったのか?ミシェル」
マークはミシェルの背後に回った。
「君も数日で18歳になる。行き先は決まったのか?」
「特には…なければ孤児院で働く」
マークは後ろからミシェルの両肩をパンと叩いた。
「それなら軍に来なさい。君なら…」
「軍人なんて命捨てに行くようなもんじゃないか!そもそも私は女だぞ。居場所なんて…」
マークはミシェルの捕縛を解いた。ミシェルはマークを驚いた目で見た。
「いくつか答えよう。まず君は同じ境遇の子供たちをおもってわざわざ軍から物資を盗んだ。命を賭けてな。次に軍人は命を拾うことはしても捨てたりはしない。少なくとも我がガンプーにそんな奴はいない。最後に軍人に性別は関係ない。体力、身体能力の面で男に劣る部分もあるが、その逆も大いにある。ガンプーのモットーは短所の克服ではなく長所の鍛錬だ。短所は誰かにとっての長所だ。補い合えばいい」
マークは更に続ける。
「盗まれた備品については調査によってほぼ100%所在確認が取れている。また、余剰発注分との差異もほぼ一致しているため他の者の介入は考えにくい。そして犯人は自立前の17歳、保護者もいない」
スマツは腕を組み俯き加減でにやりとし、フォールは両手を握りしめ満面の笑みを浮かべ、テスはまだ把握しきれない状況に戸惑いながらマークを見つめる。
「もうすぐ建国祭だ。各孤児院には軍からの贈り物として処理してくれ。頑張って盗み出した者には悪いがな」
ミシェルは零れそうになる涙を堪え、下唇を噛み締めた。
「ミシェル。他人を思いやれるお前なら軍に歓迎するぞ」




