始まりの渦3-4
「今日"大将"は非番でしたね」
「そうだなぁ」
「今日は雨、降らなそうっすね」
「そうみたいだなぁ」
「アミーユは大混乱らしいっすよ」
「そうかぁ」
「ちょっと、空返事ばっかじゃないっすか。ガレオンさん」
「そうかなぁ」
ガレオンは二番隊副隊長の[ジャン]と共にバス城内の食堂で昼食をとっていた。
「調査、明日からっすか?」
ジャンは切られたバゲットをクリームシチューにくぐらせながらガレオンに問うた。
「いや、明言はしてなかったな。抜き打ちでやるんだと思うけども。順番も日程も範囲も何も言わなかった」
ガレオンはグラスに入ったレモン水を見つめながら言った。流石に勤務中は飲酒厳禁だ。その眼差しは思い更けるような、物足りなさのような色々を含んだものだった。
「そうですか。しかしそこまで大事な案件なんですか?軍内には意図して横領だの窃盗だの横流しだのをするような奴がいるとは思えないですけど、ガレオンさんはどう睨んでます?」
ジャンはクリームシチューに入った人参を避けながら再び問うた。
「単なる報告ミスなのか、部外者が狙って備品を盗んでるのか、関係者がうまくちょろまかしているのか…」
レモン水をぐいと飲み干しガレオンは立ち上がった。
「俺にも見当はつかないな。あと、人参残すなよ。避けた分一気に食わせるぞ」
ジャンはギクッとしてスプーンを持つ手が止まり、避けた人参をそっと戻した。
「どこ行くんすか」
「中庭で日光浴でもするわ。まだ時間あるから、ゆっくり食え」
「うす。食い終わったら伺います」
ガレオンは歩き出し、背中越しに手を挙げジャンに挨拶した。しかし心中は今日の天気さながらに晴れない。曇り空で日光浴なんてバレバレの嘘を吐いた自分が恥ずかしくなった。ガレオンはそのまま城外へと向かった。
一方、第二駐屯地は騒がしかった。再度、帳簿とにらめっこしなければならなくなり各担当が忙しなく走り回っていた。そんな中でフォールももれなくバタバタとチェックに追われていた。
第二駐屯地は義勇兵も含めおよそ500人が在席している。日によって違いはあるが関係者、部外者の出入りはそれなりの数がある。入場・出場のチェックもより一層強化された。監視体制のレベルが上がったことで兵士たちの緊張感と疲労感も比例して上がってきている。精神的疲労が蓄積されると通常業務や本業、私生活にも影響する懸念はあった。しかし軍議で方針が決まった以上、騒動が収束するまで維持するしかない。フォールは葛藤しながら膨大な書類を漏れなく確認していた。
「フォール隊長、五番隊のスマツ隊長がお越しです。お通ししてよろしいでしょうか」
隊長室の警備係が申し出た。フォールは書類に目をやりながら答えた。
「そうですか。ありがとう。中に入ってもらってください」
警備係は扉を開け、スマツを部屋に誘導した。スマツは腕組みをしながら部屋に入った。フォールは書類に目をやりながら話した。
「やぁ。今日はどうしたんだ?申し訳ないけど、ゆっくりもしてられないから仕事をしながらでもいいかな」
「あぁ。そのまま続けてくれていい。いつも忙しそうだがそれ以上に忙しそうだな」
フォールは椅子に座らず入口横の壁に寄りかかった。
「座ったらいいのに」
「いや、俺はここでいい。長話をするつもりもないしな」
フォールはちらっとスマツを見たが、書類をめくる手は止まらない。
「そうなのか。で、どうしたんだい?暇つぶしか冷やかしか、激励か。手伝いに来てくれた訳でもないだろう」
スマツは表情変わらず答えた。
「そのどれでもない。報告という程でもないが、一つ気になる情報を伝えに来た」
フォールは書類に目をやりながら聞いた。
「それは今回の騒動に関する情報?全く別の情報?」
「真相はわからないがそのどちらにもあてはまるかもな」
スマツは寄りかかるのをやめ、フォールに近付きながら続けた。
「第二駐屯地内で妙な動きをしている者が見つかった。そいつは備品を盗んだりはしていないようだが、情報を流している可能性がある」




