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カラスと、悪魔と呼ばれた聖女  作者: ユライダココロ
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◯月✕日

私は何を痛みととらえているのか、わからない。





昼にギラに呼ばれて、私はお茶会をさせられることになった。向かい側のソファーに座るジャックは、私の隣にずっと目を置いている。


「隣に来たいの?」


尋ねると彼は目をそらす。


「隣に来てダメなんて、誰が言ったのかしら」


わざととぼけるように言えば、彼はそそくさと茶を持ちながらどっかり腰掛けた。黒い大きな羽が私の肩にくっついて離れない。


「もう少し距離をとらないと」


「やはり、俺が隣なのは嫌か」


「違うわ。あなたの羽が当たってるのよ。大事な翼なのでしょう。だからもう少し離れて」


ここの家はソファーの背もたれはない。イスも全て背もたれが小さい。背を預けるということは、彼らにとっては怖いことだ。だから離れてやろうとしているのに、ジャックはお構いなしにひっついた。

太ももも、肩も。


「せっかくレディの私から申し出てるんじゃない。あなたはありがたくとらえて、離れるべきだわ」


「レディである前に、君は俺の妻だ」


「伴侶相手にも、自分の羽を触るのは不快(ふかい)だとギラから聞いたことがあるのだけど」


その途端、私のお茶を組んでくれていたギラへ、彼は(にら)みをきかせた。


「はて、私、そんなこと申しましたか」


「ええ、言ったわ」


「ギラ……今度から鳥人のことは俺が教える。これからルナには、何も言うな」


「そうおっしゃられるのは構いませんが。それですと公爵様、求愛行動についてもご自分でご説明なされることになりますが」


ギラがタカの目を向ける。鋭い彼女の思考に、彼は顔を真赤にした。


「きゅ……求愛については…………お、俺からでもできる」


「よくおっしゃいましたね、お坊ちゃま。それでこそ、私めの当主でございます」


「あなた鬼畜(きちく)ね。私よりずいぶんと鬼だわ」


「ふふふ。そう言われるのは光栄(こうえい)でございます」


当主の赤い顔をいじるのが好きなメイド。私もいつか、彼女に痛いところをつかれてしまうのかと想像すると、身震いする。


「羽が枕にあったときは、どういう意味があったのよ」


「あれは……だな。その………と、共に」


「私、ハッキリ話してもらえないのは嫌なのよ」


「っっ。あれは!君と共に夜を過ごしたいという(さそ)いだ!」


顔がもはやタコのように赤いカラス。取り返しのつかないことを言ったとばかりに顔を手で覆うので、見ていて面白い。

そこで一つ、私は気づいてしまった。人を癒やすということ以外の、生きる幸せ。


「ご自分の羽をむしり取ったの?」


「手入れして出てきたものだ。鳥人の羽はすぐ生える。あれぐらい、俺の大きい翼からは毎日出てくる」


「つまり、あなたは抜け毛を私にくれたと……」


「そう言われると、なにか(きたな)いものに思えるかもしれないが」


「汚いのかしら?」


「いや、ちゃんと綺麗なものを厳選して枕に置いた」


羽をちびちびと分けて、私にくれた彼の姿を想像する。他の人よりずいぶんと肩幅もあり、体の大きい彼が小さな羽を見分けては眠る私を起こさないようにおいていく姿。さぞ、可愛いだろう。


「ふふふっ……私の枕まで羽根に変えるぐらいなのだから。すごく慎重に変えたのね」


「ま、枕?そこまで俺は、していないぞ!」


「コホン。ではお菓子を持ってきますね」


「ギラ、待て。俺になにか隠していることがあるだろう」


カラスは一番賢い鳥だ。

ジャックの黒い目で疑われるギラは、テヘペロと舌を出した。


「そもそも、旦那様は女性経験の一つもございませんからね。ご立派なことですが、お付き合いもなされたことはありませんから。私めが一肌脱がなければと、頑張ったのですよ」


ギラが扉を開けると、廊下からドサドサと足音が聞こえてきた。使用人一同が、扉に耳を当てていたらしい。気まずそうな顔で、ジャックを見る。


「いやあ、奥様と早速愛の巣を作ってほしくって」


「僕たち、頑張ったんですよ」


「ほら、枕を羽に変えるのはワンナイトを申し込むっていう意味で」


ワンナイト……つまりそれは夜伽のそれか。

冷静にふーん、とうなずきながら、私はジャックを見た。


「お、俺は断じて命令していない!」


「では、私とはそういうことはできないということなのね。これはあくまで、獣人と人間の政略結婚で」


「ち、違う!俺は、そういうことは……君とならしたいが」


カラスが可愛い。

目のやり場に困り果て、彼はどう弁解できるかと真っ赤な顔で考える。ツンツンとつついたら、カーカー泣いて助けを求めるような目をしてくれそうだ。


「俺は……俺は………君と…あ、愛を」


「ヒュ〜」


「公爵様、言ったほうがいいですよ!」


「このままの勢いで!」


周りのヤジが飛んでくる中、彼はその声が聞こえないようだった。冷静ではなくて、ジャックはものすごく顔が赤い。


「隊長!」


その時だった。戦闘服を来た兵士が駆け込んでくると、お茶の席を踏み込んでくる。


「今度は東の森から魔物が!町が……町の柵が!」


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