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ピンチと祝福

「どうやらここが最奥みてぇだな」


大部屋の中で周囲を見渡しながらガラハドが呟く。

部屋にいたのはゴブリンが十数匹、かなり激しい戦いだったがどうにか全滅せしめたのだ。

なんだかんだで全員優秀な冒険者だったようで、最後まで俺に危険が及ぶことはなかった。


「ね、心配いらなかったでしょ?」

「あぁ、みんなすごいな。俺の出番なんかほとんどなかったじゃないか」

「なーに言ってるのよエリアス、地味に色々やってくれてたでしょ? 皆もあなたのこと、認めてるよ」


そんな馬鹿な。ただついてきてただけだったのに、認められる理由がないだろう。

……の、ハズなのに妙に生暖かい目で見られているなぁ。よくわからん。


「よぉし野郎ども、調査も終わったし帰るとするかァ!」

「おおおっす!」


調査というか結局攻略してしまったが、まぁこれはこれでいいのだろう。

事前資料によれば制圧したダンジョンはすぐに埋められるらしい。また魔物が住み着いたら敵わないからな。

全員を率いてその場を後にしようとするガラハド。だが俺はその場に違和感を覚えていた。

――僅かな異臭、そういえば戦闘中、一匹のゴブリンが妙な動きをしていた気がする。部屋の隅でゴソゴソと。

武器でも探していたのかと思ったがそんなものはなかったし、一体――


どさり、と考え込む俺の横でシェードが倒れる。

他の者たちも膝を突いて、蹲り苦悶の表情を浮かべている。


「な、んだ……めまいが……?」

「くる、しい……っ!?」


――毒だ。ゴブリンの背丈は人間よりかなり低い。洞窟の上部分に充満するよう毒袋を開いたのだろう。

近づいてみると焦げたガガイモ石が転がってる。こいつは燃やすと有毒ガスが発生するのだ。

まさにゴブリン側の最終兵器ってわけか。くそ、毒ばかり使いやがって、いやらしい連中だ。

激しい戦闘中は呼吸も多くなる。それゆえ皆に毒が回るのも速かったのだろう。


「俺自身は『治癒』で動けるとはいえ……参ったな」


辺りを見渡すと、無数の影が蠢いている。

ゴブリンどもだ。どうやら部屋に毒ガスが充満するのを、岩陰で息を潜めて待っていたらしい。

どうやらこいつら、思った以上に知能が高いようだな。これがダンジョン攻略か。なるほど平地戦とは別物の危険度だ。

今の所ゴブリンたちは俺だけが平気なのを見て戸惑っているようだが、すぐに襲い掛かってくるだろう。

自慢じゃないが俺の戦闘力皆無だし、早く皆を助けなければ命が危ない。やれやれ、こいつは参ったな。

どうしたものかと思案していると、リオネが小刻みに震えながら起き上がってくる。


「逃、げて……ここは、私が……!」

「リオネ、お前……」


大丈夫なのか? と言いかけて止める。大丈夫なはずがない。

顔色は真っ青だし、全身が小刻みに震えている。立っているのもやっとという感じだ。


「私は……エリアスの盾だから……時間、稼ぐから……!」

「ギャア! ギャア!」

「ギィギィギィ!」


奇声を上げながら襲い掛かってくるゴブリンたち。リオネは両手で剣を握りしめ、向かっていく。


「うわぁぁぁっ!」


ぎんっ! がぎんっ! と、鈍い音がしてゴブリンたちが倒れていく。

祝福というのは本人の感情により大きく力を増す、という話を聞いたことがある。

リオネの『勇壮』が強い思いによって力を増し、本来は動かせない身体を無理矢理動かしているのだ。


「りゃあああああ!」


それでも限界はあるのだろう。先刻までの流麗な剣技とは真逆の、力任せの乱雑な攻撃だ。

相手の攻撃も避けず、ダメージ覚悟で斬りかかる。

片手で剣を握る力もないのだ。攻撃を躱す体力もないのだ。

自身の流血と返り血でリオネの全身は瞬く間に赤く染まっていく。


「だぁぁぁりゃぁぁっ!」


咆哮と共に繰り出される一撃にて、最後の一体が両断される。

と同時にリオネもまた膝を折った。最後の力を振り絞ったのだ。思わず駆け寄り、抱きしめる。


「リオネ! ……くそっ! 無茶しやがって……!」


即座に『治癒』を発動させるが、あまりにダメージが深い。くっ、間に合うか……!?


「守っ……たよ……エリアス……約束……通り……でしょ……?」

「馬鹿野郎! 守ってくれとは言ったが、ここまでしてくれなんて一言も言ってないぞ!」


大体俺は何かあったら逃げる気でいたんだ。命を懸けてまで守られる筋合いはない。

全力で『治癒』をかけ続けるが、どんどん生気が失われていく。

最後の力を振り絞っていたのだ。くそ! 俺の『治癒』じゃあ間に合わないのか……?


「エリアスは……もっとすごいことが出来る人だもの……私が命を懸けて守る価値はある……よ……」

「おい! しっかりしろ! リオネ! 俺の道具が勝手にいなくなるんじゃない! お前にはまだやって貰うことが沢山あるんだぞ!」

「あはは……ごめんね……今まで……ありが……と……」


ゆっくり目を閉じるリオネ。心臓が握りつぶされるような感覚に、俺は――


「うわぁぁぁぁーーーっ!」


声を上げると同時に、眩い光が辺りを包み込む。

光の中心、リオネの傷が瞬く間に癒えていく。な、なんだこれは? 一体何が起きたんだ?


「……あれ? エリアス?」

「リオネ……平気なのか……?」

「う、うん……さっきまで死に掛けていた気がするんだけど……」


呆然とするリオネ。俺もそうだ。考えられるとすれば先刻と同じ現象……つまり『治癒』が俺の思いに答え、増した力でリオネを回復させた……ってところか。

つまり俺の心がリオネの死にそこまで強く反応したってのか……? い、いやそんな馬鹿な。そりゃ確かにリオネとは付き合いも長いし、助けて貰った恩もあるが、俺にとってはあくまでもただの道具である。

俺の心が、たかが道具相手にそこまで揺さぶられるなんて、ありえない話だ。


「……? どうしたのエリアス、顔が赤いけど」

「な、なんでもない! それより回復したなら皆を運び出さないとダメだろ!」

「あ! そうだったね」


慌てて全員を抱えて駆け出すリオネ。

と、とりあえず俺の『治癒』には何の言及もなかったし、気づいてないと思いたい。


「えへへ、私ってばエリアスの道具……か。ふふ、ひどいなぁ……ホント。全然優しくないんだから」


だがそれとは別の問題が発生した気がする。

リオネは何やらブツブツ言いながらニヤニヤしている。もしかして俺、すごく恥ずかしいことを言ったんじゃないか?

……まぁ何にせよ結果的にリオネを助けられたのは事実。

折角リオネが役に立ち始めたところだったのに、こんなところで死なれたら大損だからな。大事な道具が壊されそうになって、思わず感情的になっただけだろう。うんうん。

多少モヤモヤする気持ちを納得させながら、俺はリオネに続いてダンジョンを出るのだった。

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