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心の傷は

遅れて駆けてきたリオネにより、レゼの冤罪は晴れて無事に解放された。

ビンセントと奴の命令を聞いていた元管理人は断罪され、牢へと放り込まれたのである。

そして数日後、無事帰ってきたレゼの元へと見舞いに来た。


「大丈夫かしらレゼったら。ショック受けてないといいけど」

「受けてるよ。だからこうして見舞いにも来たんだ」


一緒についてきたリオネに言葉を返す。

解放されたレゼの傷は治療の名目で『治癒』したが、心はやはり傷ついているだろう。

心の傷は大きなストレスとなり、夜も眠れない程になる。

俺も前世では上司に暴言を吐かれただけで、夜も眠れないくらいストレスを受けたし、会社を辞めて起業した時なんか一ヶ月くらいずっと体調が悪かったからな。

牢に閉じ込められ、ムチで打たれたレゼの心の傷は俺にも計り知れない。

道具へのケアは大事なのである。


そう、道具なのだ。道具が多少傷つけられたからって、あんなにショックを受けるとは……あの時の俺はどうかしていた。

今回の見舞いも純粋にそれだけの行為である。弱っている時に優しくすれば好感度も稼ぎやすいからな。

ただそれだけだ。他意はないのだ。


「んもう、なんて顔してんのよエリアスったら。あなたの方が深刻じゃない。そんな顔でレゼに会うつもり?」

「あ、あぁ……ふまなひ……」


リオネが俺の頬を引っ張り、無理やり笑顔を作ってくる。

どうやら酷い顔をしていたらしい。

あぁくそ、調子が出ないな。


「レゼが住んでるのってここだよね」

「あぁ、203号室だな」


教会から少し離れた母屋ではシスターたちが暮らしている生活棟がおり、そこにレゼの部屋がある。


「邪魔するよ」


ノックをして開くと、

こうして無事に帰ってきたレゼに、俺は改めて見舞いに来た。

ノックをして扉を開くと、ベッドから身体を起こそうとするレゼと目が合う。


「エリアス君にリオネさん……どうしたのですか?」

「見舞いにな。これ、買ってきたフルーツだ。良かったら食べて……って何すんだよリオネ!?」

「何ってあーた、レゼは寝間着姿じゃないの。少しは気を使いなさいよっ!」


ぐいぐい引っ張られて部屋の外に引きずり出されてしまう。

扉の向こうではレゼが困惑した様子で「あ、あの、私は別に……」と言っているのが聞こえた。

むぅ、寝間着姿って駄目なのか? 俺もしょっちゅう適当な格好で応対しているのだが。


「ていうかリオネだってよくそんな格好してるだろ」

「わ、私はいいの! 幼馴染なんだから! お風呂だって一緒に入ったでしょ! 寝巻着くらいなんでもないわよっ!」


顔を赤くして声を上げるリオネだが、あまり大きな声で言う事じゃないぞ。レゼに聞こえたらどうすんだ。

……ま、でも騒がしくすれば少しは元気が出るかもな。リオネを連れてきて正解だった。俺一人じゃこうはいかないだろう。

そうこうしていると着替えを終えたレゼが扉を開ける。


「え、えーと……着替えましたけど……」

「あははーごめんね。もーウチのエリアスってばあんまりデリカシーがなくってさ。やんなっちゃうよねー」

「お前だって人のこと言えないだろ。いっつも半裸で駆けまわってるくせに」

「なにおー!?」

「やるか?」


リオネに乗っかり明るく振舞う俺たちを見て、レゼはニコニコと微笑んだ。


「ふふっ、心配しすぎですよ二人共。私はこの通り、平気ですから」


……少々わざとらしかっただろうか。

くすくすと笑うレゼに俺とリオネは顔を見合わせる。


「何かあったらすぐに言ってね! 呼んでくれたら絶対駆けつけるから!」

「リオネの言う通りだ。俺たちは友達だろ?」

「えぇ……はい。そうですね」


俺たちの手を両手で包み込み、額を押し当てるレゼ。

その肩は小刻みに震えている。俺は何も言えずにその場に立ち尽くすのみだった。



「レゼってば、やっぱり堪えていたみたいだね」


帰り道、リオネがため息と共に言う。


「あぁ、平静を装ってはいたけどな」


俺たちに心配させまいとだろう。一応笑顔を浮かべてはいたがその顔色は悪く、血の気も引いていた。

眠れていないのだろう。目のクマもひどかった。俺たちの見舞い程度ではあまり役に立たなかったようである。


「まぁ時間が解決してくれるのを待つしかないよ。心の問題はエリアスにだってどうこうできないでしょ?」

「それは……そうなんだがな……」

「……ふふっ、優しいよね。エリアスは」


どこか寂しそうに笑うリオネだが、全然優しくなんてないと思うぞ。

ただ道具のケアくらいしなければと考えているだけだ。本当だ。

そもそも俺の責任なのだし、どうにかしようと考えるのは普通だと思う。


「何でもいいけど、あまり一人で思い悩まないでよね。私に出来ることがあったら何でも力を貸すからさ! じゃ、今日も稼がないといけないから!」

「あぁ、気をつけろよ」


リオネに手を振って別れる。

俺たちにだって生活がある。ずっと思い悩んでいる暇なんてないのだ。

だから俺には俺の出来ることをやらなければな。

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