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理不尽な死

――リスクを取らねばリターンは得られない。

理不尽な暴力に抗うには傷つくのを覚悟して戦うしかないし、勝利を得るには試行錯誤が不可欠だし、告白する勇気がなければ女とは付き合えない。

普通に就職すれば安定は得られるが、きつい仕事を強いられる上に安月給でこき使われる。

新しく事業を立ち上げれば無職どころか借金まみれになるリスクがあるが、成功すれば大して働かずとも巨万の富を得られるだろう。


かつて前者だった俺は日々の仕事に絶望して後者を選び、そして成功した。

ブラック企業で働いていた時は毎日十時間働いて年収二百万、安いアパートで休日は寝るだけの生活だったが、今は労働時間四時間程度で年収は五千万を超え、タワマンの頂上に住居を構えている。

昔は夢にも思わなかったような生活、溜めていたゲームもやり放題、漫画も読み放題、旅行にだって好きに行ける。

金と時間の有り余る生活。俺は人生に勝利したのだ。


だがそんなある日、日課のランニング中に俺は刺された。

犯人は俺が前に働いていた会社の社長だ。

かつての面影はなく、まるで浮浪者のような恰好で、髭は伸びっぱなしで目はギラついており、不健康そうな汚い肌をしていた。

薄れる意識の中で理由を探すと、少し前に業績が悪かったこの会社を買収したことを思い出す。

数年ぶりに会社に顔を出した俺は、当時無茶ぶりをして働かせていた上司たちをいい気分で煽り倒した後に、全員のクビを挿げ替えてやった。

当然社長も追放、しかもそのあと俺の適当な指示で業績も回復して最終的には黒字化して多額の金が手に入ったのである。

俺の適当な指示以下の仕事をしていたのかと思うと本当に呆れ果てながらも、これが力を持つという事かと笑いが止まらなかったものだ。


「野郎! よくも俺の会社を乗っ取ってくれたな!? 面倒を見てやった恩を忘れたか! それを仇で返しやがって! このっ! このっ! 死ねぇっ!」


倒れ伏す俺の頭を何度も踏み付けながら、元社長は罵詈雑言をまき散らす。

放っておいても倒産を待つばかりの会社だった。自分の経営手腕が悪かったのに、俺に当たるのは筋違いだろう。

そう言葉を返そうにも喉の奥から血があふれ出し、喋れない。


「お前のせいで俺の人生おしまいだ! 借金まみれになるわ、女房には愛想尽かされるわ、子供はグレるわ、おまけに胃がんまで見つかっちまった! 余命半年だとよ! くそぉ! 全部お前のせいだッ!」


貯金しなかったのは自分が悪いし、家族も病気も俺とは全く関係ないだろう。

なんという理不尽、一生遊んで暮らせる金を持っていても、ただの暴力にあっさり屈するというのか。

くそぅ、力が抜けていく……俺は、死ぬのか……? 折角人生に勝利したというのに……


「いや、だ……」


ふと、死んだ父親の言葉が頭をよぎる。

力を持つ者は嫌が応でもリスクを負う。特にその振るい方には細心の注意を払わねばならない。でなければ身を滅ぼすだろう――と。

今更遅いが俺はあまりにも容易に力を振るい過ぎたのかもしれない。

いくら法治国家と言えど、追い詰められた人間に理屈など通用しない。

やるならもっと警戒すべきだった。人知れずクビを切るとか、警備会社を使うとか、もっと権力を使うべきだったのだ。

後悔しても仕方ない。受け入れてまた、次に繋げればいいだけの話だ。そうして俺はここまで成り上がってきたのだから。


「くそぉ……次は必ず……上手く、やる……!」


拳を握り、土を噛み、血を吐きながら声を漏らす。

そんな決意と裏腹に、俺の意識は徐々に薄れていくのだった。


よろしくお願いします!

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