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第7話 大人(笑)のデート

 タイムリープしてから初めての週末


 朝起きると、携帯に千波からメールが入っていた。


 「夫婦水入らずで週末に外出でもどうですか?」

 というお誘いだった。


 現在俺は、駅前の広場で待ち合わせをしていた。

 

 「外出」なんて言ってるけど、ようはデートだよなこれ。

 千波はデートって言うのが気恥ずかしくて、デートって単語は使わなかったのだろう。

 

 しかし、デートの待ち合わせなんて何年振りだろう。

 この、相手が来るまで待つまでの静かな興奮。

 久しく味わっていない感覚だ。


 とは言え、小学生を待ちながらドキドキするとか、幸也の言うとおり犯罪者の謗りを免れない。



 「お待たせ~、待った~?」


 「いや。俺もさっき来たとこ」


 千波は無地の薄手のパーカーにジョガーパンツ、キャップという動きやすい格好だ。

 長い黒髪は後ろでポニーテールにして束ねている。


 「何かこのやり取りなつかし~。若い頃を思い出すね」


 「小学生が若い頃って言ってるの変だな」


 「それはお互いさまでしょ」


 グイッと体を傾けて、頭部を俺の胸に預けて千波は俺にツッコミを入れる。

 両手が塞がっているからだ。


 「それ貸して。持つよ」

 「ありがと」


 俺は千波の持つピクニックバスケットを受け取って、気づいた。


 「あれ?これって」

 「気づいた?付き合いたての頃にも、よく持ってきてたからね」


 「ああ。覚えてる。この頃にはもうあったんだな」


 千波とのデートでは、お弁当を持って色んな公園に行くというのは定番だった。


 「そしてこれ~~~」

 「懐かし!!フリスビー!!」


 公園でお弁当の後にフリスビーやバドミントン等で遊ぶのも定番だった。

 ピクニックバスケットの他にもリュックを担いでいると思ったらこれか。


 「という訳で、今日は大森公園へ行きましょ」


 「うん、いいな。公園でなら小学生と遊んでても怪しまれない」


 「前、平日仕事お休みの日に、雪広くんがメグちゃんと公園で遊んでたら、不審者と間違われて通報されて、警察来ちゃったことあったよね。」


 「あれな。近所の公園だからと小銭とスマホしか持ってなくて、千波に電話して迎えに来てもらってことなきを得たんだった」


 日本の治安は世界一と褒めたたえたいが、当事者にされかけたのは笑えなかった。


 「そうそう懐かしい。あ、そろそろバス出るよ。行こ」


 千波が差し出した手を、一瞬躊躇したがいつもより優しく、包み込むように握った。




―――――――――――――――――――――――――




 大森公園は、遊具は置いていない都市公園だ。

 ただし敷地は広大で、とても広い芝生がある。


 「あ!!わりぃ。ちょっと右それた」


 「OK!!」


 千波は軽やかなサイドステップでフリスビーの軌道に回り込んでキャッチする。


 「ナイスキャッチ!!しかしフリスビーやるの久しぶりだな」

 「まだメグちゃん、ユズちゃんには早いからね。この公園も久しぶりだね」


 子供を連れて休日に大きな公園に行くことは多いが、まだうちの娘たちは遊具やアスレチックのある公園のほうが楽しいので、こういう都市公園はあまり行かない。



 「ほいっ!!」

 「お、正面まっすぐナイススロー」


 子供を連れての公園では、子供から目を離せないので、こうして夫婦で遊ぶのも本当に久しぶりだ。

 広い緑と青い空の下で思い切り体を動かすのは気持ちがいい。



 「あ~、久し振りの運動だけど大して息が上がらないね」

 「さすが子供の体。何て言うか自分のイメージ通りに体が動くな」


 公園に到着してから休憩なく遊び続けていたので、二人とも汗をかいて上気した顔だ。


 「そろそろ休憩がてら、お昼ごはんにしよ雪広くん」

 「ああ、わかった」


 レジャーシートに座って、ウエットティッシュで手を拭っていると、千波がお弁当を広げてくれた。


 「お~、美味しそう。エビチリに磯辺揚げ、ベーコンアスパラ巻き、ピーマンのお浸し

  何だか最近はあまり食卓にお目見えしないオカズたちだね」


 「ほら、いつもは子供たちに合わせたオカズになっちゃうから。ついね」


 「あ~、いつもの弁当ならタコさんウインナーやミートボールとかだもんな。

  辛い味の料理や、ピーマンもシンプルな味付けなのは子供たち食べないからな」


 「あ、でも卵焼きだけは甘く作っちゃったんだ。つい、いつもの癖で」


 「メグちゃんもツムちゃんも好きだもんな。お母さんの卵焼き」


 「「 …………。 」」



  二人ともお弁当を頬張りながら無言になる。


 「なんだか私たち、子供の話ばっかりしてるね」


 俺は苦笑いして


 「この年頃の子どもがいる夫婦は、どうしてもそうなるよな」

 「今は私たちが子供なのにね」


 千波も同じく苦笑した


 「メグちゃんが産まれるのは、これから10年以上先か~遠いな……」


 20年という時は、過ぎてみて振り返れば光陰矢のごとしに感じても、そこを目指して走り続けるにはあまりに長く感じる時の長さだ。


 「それまでは夫婦二人の生活を楽しもうぜ」


 「うん…。ね!!今度さ、辛い料理のお店に食べに行かない?」

 「いいな。子供たちがいない時じゃなきゃ行けないもんな」

 「あとね~、ジンギスカン屋やモツ煮が食べられるお店に~」

 「なんだかチョイスが、大人っていうかオッサンくさいぞ」

 「少女に向かって酷ーい!!」



 寂しさを振り払うように、俺たち二人は明るく今後のことを話しながら、お弁当を再度食べ始めた。


 大人のオカズが多いせいか、卵焼きだけはやはり際立って甘ったるく感じた。


デートとか何年してねぇんだ……(遠い目)


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