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7/30

番外編1 赤ちゃんまでタイムリープしたら

本編のキャラは出てきません

この世界観での短編みたいなお話です

 俺の名は達也タツヤ


 元の世界では20歳になったばかりの大学生だ。


 我が人生は「平凡」という一言に尽きる。


 平凡な両親に育てられ、平凡に進学したし、この先きっと平凡な会社でサラリーマンでもするのだろう。


 そう思っていた。


 そんな俺に大転機が訪れた。


 朝目覚めて見上げた先には、子供をあやすメリーゴーランドのように回る玩具と、俺を覗き込んでデレデレした顔をする若い両親の顔だった。


 (これは……タイムリープだ!!)


 平凡に生きてきた主人公に、こういった機会が巡ってくるのはお約束だ!!


 見たところ、俺は寝返りがやっとの乳児

 ということは今は0歳児

 つまり20年のタイムリープが起きたんだ!!


 俺は自身や周囲の状況を見てそう判断した。


 覗き込んできた両親の服装が貴族っぽかったり、部屋が洋館っぽいなら異世界転生の線もあるが、両親の顔は若いが面影があり、部屋の雰囲気も実に普通のアパートっぽいので、現実世界なのだろう。


 うーん、欲を言うなら、せめて本を読んだり喋っても違和感のない3歳くらいにタイムリープしたかったな。


 そうすれば、習ってもいないのに本が読めたり、難しい単語を知ってたり、難関お受験小学校の問題を簡単に解いたり、神童ムーブをかまして大いに期待されるだろう。


 まぁ、それは数年後の楽しみとして取っておこう。


 いずれは未来知識を利用して、


 便利グッズを発明して特許を取ってガッポガッポ

 大ベストセラー小説を出版社の賞に出してガッポガッポ

 株式投資でガッポガッポ

 小学生時代クラスのマドンナだったあの子と大人の余裕で惚れさせてウヘヘ

 将来、大女優になるあの子の売れない時代に親しくなってウへへへ


 いや~夢が広がるな~


 我が人生始まりましたわ~~

 皆なんかゴメンね~~~~~

 俺だけこんな主人公やらせてもらっちゃって~~~~

 俺ってばやっぱり、こっち側の人間でしたわ~~~~


 高揚感から選民思想のようなものに支配されそうになる


 おっといけない


 ここで調子に乗っていると、足下を掬われるな


 謙虚に誠実に


 これこそが勝ち確の主人公ですわ。


(それにしても……)


 俺は先ほどから覗き込んでいる両親に意識を向ける。


 なお、本来のこの頃の乳児はまだ視力がそこまで高くないのだが、ご都合主義か転生ボーナスなのかハッキリと見える。聴力などもそうだ。これは、脳自体はタイムリープ前の性能であるので五感もそれに引っ張られて成長済みなのだろう。


 両親は相も変わらず、俺の顔を見てデレデレしている。


 「可愛いわね」

 「ああ、本当に可愛いな」


 「この頃のマシュマロみたいな太ももの肉割れ」

 「プニプニのホッペ」


 「「 本当に愛らしい 」」


 やれやれ。

 まだ何もしてないのに、両親はもう俺の魅力にメロメロか。

 自分の可愛いのポテンシャルの高さに俺自身、怖れを感じずにはいられないよ。


 ここは俺の可愛いレベルの検証をしてみるか。





 「 だぁ♪だぁ♪ 」




 キャッキャと笑うと


 「 はぁ~可愛い。たっちゃん、ママ ママ 言えるかな~? 」


 「 マンマ♪ マンマ♪ 」


 「きゃあ!!!喋った喋った!!可愛い!!」


 「あ、ずるいぞママ。たっくん パーパ パーパ 言えるかな~?」


 「 パーパ♪ パーパ♪ 」


 「「 きゃあああ 」」


 ふっ、こんなもんかな。


 しかし、父と母は、俺が小さい頃はこんな子煩悩だったのか。

 意外だな


 両親に愛され順風満帆な人生

 そんな息子がチートで超優秀

 これからも笑顔が絶えない家庭になるだろう。




―――――――――――――――――――――――――




 あれから数か月が経ち、俺はハイハイが出来るようになった。


 しかし、常に可愛い可愛いと、日々の成長を喜んでいた両親が何故か


 「あ~、ハイハイ出来るようになっちゃったか……」

 みたいに微妙な反応であったことが気になるが、とりあえず今はどうでもいい。


 ハイハイが出来るようになったことで、格段に俺ができる事が増えたのだから。


 深夜、両親が寝静まったのを見計らい、俺はハイハイで布団から抜け出した。


 そしてリモコンを探し、テレビの電源を入れた。

 両親に気づかれないように音声を極小にしてと。


 うちのテレビは何故か国営放送の子供向け番組を録画で観せる以外、テレビを一切つけない。


 うちの両親がこんな教育意識が高いとは知らなかった。


 ただ、同じような教育番組を観させられるのは中々に苦行だった。


 こちとら中身は成人してるんだ。


 とにかく俺は情報に飢えていた。

 ニュースなどで20年前の社会がどんなものだったのか知りたい。

 自分が生まれた年に何が起きていて、どんな物や番組が流行っていたのか。

 純粋に興味もある。


 俺はワクワクしてチャンネルを変えていく。


 すると、深夜だがニュースをやっている局があった。


 『 全世界・全人類タイムリープから数か月 今までの動きをフリップにまとめました 』





?………………



!?……………………………



!!!!?????



 「は?」



 思わず声を発してしまい、慌てて口をつむぐ。


 今何て言った?


 全世界・全人類タイムリープ?


 え?ちょっと待って……ちょっと待って……え?


 ちょっと横にな…あ、ハイハイの体勢だから、もう横になってるわ


 信じたくない気持ちで、震える指先で他局にチャンネルを変える。




 『 人類一斉タイムリープ ここが困った悩ましい ランキング10 』


 『 全世界全人類一斉タイムリープ時代を生きる 経済への影響は? 』


 『 20年後にはゴールデン番組MCですが、今はただの若手芸人のMAX西川ですよ~ 』



 嘘だ


 嘘だ嘘だ嘘だ


 嘘だ!!



 ドッキリ……

 そう、これは素人をターゲットにしたドッキリ番組でしょ!!


 そうだよ、そうに決まって……



 0歳児がターゲットのドッキリ番組って何だよ!!



 いや、でも20年前のTVマンのセンスなら或いは……


 隠しカメラが無いか探すため部屋を見渡そうと、ハイハイで方向転換すると






 いつのまにか起きていた両親が真っ暗な部屋で無言で立っていた



 「 ヒッ!! 」



  心臓が飛び跳ねるかのように驚き、思わず声をあげてしまった。





 「ああ……バレちゃったのね。残念ねパパ」





 「ああ……残念だねママ」





 うつろな目をした両親が俺にゆっくりと歩み寄ってくる。



「 ヒッ!! ヒイィィィィ!! 」


 俺は恐怖のあまりオシッコを漏らした。






―――――――――――――――――――――――――






 「あ~あ。もっと、たっちゃんとの純真無垢な赤ちゃんタイム楽しみたかったな~」

 「そうだねママ。やっぱりこの頃の赤ちゃんの可愛さは他に変えがたい」


 部屋の電気は点けられて、母が俺のオムツを変えている。

 父は洗面所で、オシッコが漏れて濡れた産着を手洗いしていた。


 「子は三歳までの可愛さで親孝行の全てを終えるって言われてるものね」

 「まさか、この幸せな時をまた味わえるなんて夢にも思わなかったね。

  タイムリープさまさまだ」


 母はウェットティッシュで俺の患部をキレイキレイしている。

 俺の目は死んだ魚のような所謂レイプ目になっていることが自分自身わかった。


 「たっくん。もう解ってると思うけど、今は世界と人類の全ての時が20年巻き戻ってるの」


 「俺たち家族だけじゃない全員だからな。ここ、勘違いはするなよ」


 「大丈夫よ、たっくん。そのままのたっくんでいてくれたら、それでいいんだから」


 「そうそう、可愛い可愛い、一人じゃ何もできない赤ちゃんのたっくんのままでね♪」



 走馬灯のように、ここ数ヶ月の愛らしい赤ちゃんムーブをしていた自分(成人済み)が思い出される。


 羞恥で死にたい気分だ


 この赤ん坊の中身が20歳の成人した息子なんだって、父と母は解っていたんだ。

 解っていた上で、俺を泳がして……


 なんて度し難いんだ……




 体が熱い……頭がクラクラする



 「あら、知恵熱かちらね~?この頃はすぐお熱上がっちゃいまちゅからね~」


 「懐かしいね本当に。脇に挟む保冷材とってくる」


 「あ、たっくん。今の話わかった?わかったら返事してね」



 「はい」と答えるつもりだったが、知恵熱で朦朧としていて、ここ数ヶ月染み込んでいた赤ちゃんムーブにより、無意識に俺は一言


 「だぁ……」


と力なく答えた。


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