第6話 同窓会かな?
「はぁ……憂鬱だ」
俺、武藤 雪広は高校一年生(36歳)のどっからどう見ても少年だ。
気持ちはおっさんだが少年ったら少年だ。
俺は高校生たる本分を果たすため学び舎へ向かっているが、気が重い。
政府発表でもできるだけ時間軸に合った行動をするよう心がけるようにとのお達しなので、一先ず登校はするのだが。
一昨日前は、何の変哲もない高校生を装っていたが、中身が中年であることが周囲にバレているとなると実に恥ずかしい。
今思うと、あのタイムリープ初日の校内はおかしいことだらけであった。
登校している生徒や教師が少なかったり、おかしな行動をとる生徒がいたり。
あの時は、自身だけがタイムリープしたと思い込んでいた高揚感と、バレないように高校生を演じなければという緊張で、盲目的になっていたようだ。
クラスの教室の前まで重い足取りで来ると……
妙にザワザワと騒がしい雰囲気だ。
意を決して教室に入ると、
「久しぶりだな~。高校卒業以来じゃないか?」
「今…っていうか20年後は何してんの?」
「え、外国支社で駐在員!?すご~い」
「若~い。昔と変わんないね。あ、昔に戻ったんだから当たり前か」
そこかしこで、まるで何年かぶりに開催された同窓会の様相を呈している。
同窓会を開くのは基本的に三年生の頃のクラスでだから、高校一年生時代の同級生とは、本当に卒業以来会ってない奴もいる。
今日は多くの生徒が登校しているようだ。
ただ、逆にタイムリープ初日に痛い行動をしていた彼らの姿は見えない。
きっと自室の布団に頭を突っ込んでのたうち回っているのだろう。
「よう、おはよう。雪広」
「おう、幸也。あらためて久しぶりだな」
登校してきた俺を見咎めて、話しかけてきた幸也とガッチリ握手をかわす。
「タハハッ。一昨日は取り繕うのに必死だったよな~」
「ホントホント。俺、お前と話してる時に何度かバレたかと思ったもん」
なんだ、みんな同じようなこと考えてたのか、良かったと俺は胸をなでおろした。
「で、雪広は昨日はどうして休んでたんだ?自分ひとりだけのタイムリープじゃないのが残念で不貞寝してたからか?」
「違うよ。政府の発表後、まっ先に千波の所に会いに行ったんだよ」
「奥さんの千波さんか。あれ?千波さんって今いくつになってんの?」
「……12歳」
「は……犯罪者だぁぁぁ!!!みなさ~ん!!
ここにとんでもない犯罪者がいますよ~!!」
「バッカ!!でかい声でなんちゅうことを!!」
後ろからチョークスリーパーをかけて幸也が俺の腕をタップする
こういうバカ騒ぎが出来るのが若い奴の特権だ
その失われた特権がまた戻ってきたのだ
使わなきゃ損だ
「楽しそうね雪広、幸也くん」
笑顔で話しかけてきたのは聖良だった。
紺色のスカートに真っ白なセーラー服に紺色のスカーフ
改めて見ると本当に懐かしい。
「お~、聖良。久し振りだな」
「うん。幸也くんも元気だった?
雪広も改めまして久し振り。こうやって会うの何年ぶりかな?」
聖良とは高校卒業後も定期的に、少人数の同窓会的な飲み会でも顔を合わせていたが、お互い結婚してからは、異性友達ということであまり会う機会が無かった。
「ね、ね。聞いてよ幸也くん。
雪広ったら、一昨日の下校の時に私から逃げるように帰っちゃったのよ。
失礼しちゃうわ」
「なんだ雪広。久し振りのJK聖良に興奮したのか?」
雪広が茶化す。
「違うよ。あの時は自分だけタイムリープしたと思ってたから、ボロを出さないためだ。
幸也と喋ってる時もバレそうだったからさ」
「そうなんだよ聖良~。一昨日はお互い探り探りのおっかなびっくりで雪広と喋ってたんだよ。さながらあれは、勘違いコントみたいだったな」
「何それ超見たかった~~」
ケラケラと笑う聖良
チャイムが鳴り
担任の加納先生が教室に入ってきた。
50代のベテラン日本史教師だ。
「おはよう。ホームルームはじめるぞ」
「おはようございます。加納先生ってもう定年退職されたんじゃないんですか?」
「ああ、そうだよ。退職後は交差点の旗振り当番や少年補導員をやるボランティア爺をやってた。
また教壇に立てて嬉しいよ」
「せんせ~い。積もる話も多いから、授業辞めにして、酒でも酌み交わしながら語らいあいましょうよ」
「お、いいな……って、お前ら体は未成年だから飲酒駄目だろうが!!
そもそも、授業はちゃんとやらなきゃいかん」
「先生。私、史学科で大学院まで行きましたから、多分、今の私のが先生より詳しいですよ」
「うむぅ……しばらくは先生も睡眠時間削って勉強のし直しだな。
間違いがあったら遠慮なく言ってくれ、ディスカッションしよう」
「はい!!」
どうやら授業はかつてのように行われるが、内容は様変わりしそうである。
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「いや~、授業が楽しいな~」
昼休み
俺と幸也、そして聖良の三人でランチだ
なお、購買は今日からちゃんと開いているそうだ
「各科目、単元分野で、その業界で働いてる奴がいたりするから、業界裏話とか聞けて楽しいよな」
「海外での化学プラントの新規造成プロジェクトやってた子の話とか面白かった。
私、当時は化学苦手だったけど、今回は頑張れるかも」
今の授業は、基礎部分をサラッとおさらいしてから、ちょっと脱線して、その分野について専門に勉強した生徒が、自分の仕事などについて語り、質疑応答したりというスタイルを多くの授業でとっている。
皆、36歳
社会人を10年以上やっていれば、人前で話す機会もそれなりに多く経験しており、皆嫌がるどころか張り切っている。
「そういえば、雪広は昨日は何してたの?」
「妻の実家に行ってた」
「あ~、千波さんだっけ?」
「そうそう。確か、俺の結婚のお祝い会に聖良も来てくれたよな。
お祝いの品がベタな夫婦茶碗と湯呑で笑ったな」
「あはは。私の結婚のお祝いの時にもくれたから、そのお返し」
「聖良の旦那の隆正君とは連絡とったのか?」
「ん……いや、まだよ。
ほら、うちの旦那は今は飛行機の距離の実家住まいだからさ……」
「そうか、それは寂しいな」
「そ…うだね」
急にトーンダウンした聖良に被せるように
「家庭のあるお前らが羨ましいな~30半ばでまだ独身の俺の侘しさったらねーぞ
オ~イオイ」
と泣きまねをして語る幸也
「30くらいまではうちの両親、結婚しろ結婚しろってうるさかったのよ。
けど、30半ば超えると半ば諦めたのか、うるさく言うことは最近無かった訳。
そんな中、今回のタイムリープだろ。
今回は早めに相手見付けて結婚しろって、昨日からうるせぇの何の。
どこの世界に、高校生の息子に見合いを勧める親がいるんだっての」
「ガンバ、幸也くん。独身なら気兼ねなくモテモテ生活目指せるじゃん」
「婚活マスターだったもんな幸也は。婚活パーティーに婚活サイト
あ、この時代には婚活って言葉まだ無いな」
「てめぇら好き勝手言いやがって……みんな記憶あるんなら前の人生と変わんねぇだろ」
「そんな事ないよ幸也君。皆、この20年で色んな酸いも甘いもな経験積んできてるんだから、当時とは異性を見る時の基準は変わってるんじゃないかな」
そう言って遠い目をする聖良の言葉は、幸也に対してというより、どこか自分にも言い聞かせているようであった。
「よし!!来た来た!!
それなら、俺の大人の魅力で女の子を落としまくってやる!!」
そんな上手くいくのか?
と思いつつ、親友の決意に水を差すのも無粋かと思い、雪広は弁当の自作の卵焼きを頬張った。
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日間ランキングにちょうど前作と本作が一画面に並んでて、思わずスクショ撮りました。