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第3話 え!!全員!?

政府の発表は衝撃的な物だった。


まだ正確に全てを把握している訳ではないがと前置きされたが、

世界が、そして人類の恐らく全ての時間が20年遡っていることが明らかにされた。


人々にはこの先20年の記憶があるが、紙媒体なり電磁的記録媒体なりの、未来に関する記録やデータは一切、存在が見当たらないこと。


科学技術についても同じく20年遡っていることが判明したとのことであった。


いや、世界の時間が20年分巻き戻っていたことは、今日色々と出歩いてわかっていた。

問題なのは、俺だけではなく周りの全員が漏れなくタイムリープしていたということだ。


色々と予定や計画……していた訳ではないが、前提にしていた基盤の部分がもろくも砕け散って茫然自失だ



夕食中なのに完全に箸が止まる俺と母さんと父さん

二人ともあんぐりと口を開けてテレビに釘付けだ。

さっきまで俺もこんな間抜け面をさらしていたのだろう。


あれ?ニュースで言った通りだとしたら……



「ねぇ。俺の娘の名前は?」



唐突に両親二人に向けて質問を投げかける。


「「 恵美と紬 」」


二人は間髪入れずに答えた。

間違いない。


三人で頭をかかえた。


「みんなでタイムリープ……やっぱり政府の発表の通り本当なんだ」


「お父さん!!何で正直に言わないのよ!!」


「母さんだって黙ってたじゃないか!」


「20年若返ったなんて言ったら頭おかしいと思われるじゃないの!!」


「ワシだってそうだよ!!とうとうボケちまったのかと不安でしょうがなかったわ」


今日の両親の行動が妙に精彩を欠く感じだったのは、タイムリープに動揺していたからか。

まぁ普通はそうだよな。


「ちょっと待って!!そうすると恵美と紬はどこにいるのよ!?」


「ワシのかわいい可愛い孫たちは!?」



はたと気づいた母さんと父さんは、小言の言い合いをサッと止めて俺に詰め寄り、俺の肩を片方ずつ掴みガックンガックンと揺さぶった。


「そりゃ、まだ産まれてないから、どこにもいないだろ。俺今は高校生だぞ」



「「 そんなぁぁ!!ジイジ、バアバの楽しみがぁぁあ!!! 」」



孫バカの二人は大層落ち込みガックリと肩を落とした。


我が家は俺の一人っ子なので、他に孫はいない。

なので、うちの両親は産まれた当初からそれはそれは、孫であるうちの娘たちを可愛がった。


元の世界では、何かにつけて孫の顔を見に来て、孫と会えない時には、俺や千波が画像・動画共有アプリで送った、孫たちの写真を愛でていた。実家の至る所には孫たちの写真が飾られていたが、当然今は何もない。


「じゃあ千波さんは!?あんた連絡取ってみなさい!!」


「そうだな。こういう状況なら連絡してみるか」


 妻の千波の実家は俺の実家から車を使えばすぐの場所だが、市が違う。

 そのため、高校生時点の俺は千波と一切の接点が無い。


 まだ自分だけタイムリープしていると思っていた頃、もちろん自分の家族のことが気がかりであったが、娘たちはまだ産まれてもいないし妻の千波とも出会う前。


 いきなり初対面の俺が、今の千波に接触を図っても相手を困惑させるだけで、下手したら俺たちが結婚するという未来がねじ曲がってしまう恐れがあると思い、一先ず棚上げだと考えていた。


 ただ、千波にも20年後の記憶があるなら話は別だ。むしろ直ぐにでも連絡を取り合うべきなのだが……



「しまった。俺、千波の携帯番号覚えてない……千波の実家の番号も」



携帯電話が普及してからの弊害

電話番号なんぞ一々覚えていない

そもそも、今の時点では千波と知り合っていないので、手帳に電話番号が控えてあるなんてこともない。



「何してんのよ!!早く千波さんに連絡して、とっとと再婚…ん?この場合初婚でいいのかしら?って何でもいいわ。早く結婚しなさい。そして早く孫を…」


「そうだぞ雪広。どうせまた結婚するなら早い方がいい。そして早く孫を…」


「それが本音かよ!!っていうか千波は俺より4歳下なんだから、今の千波は12歳で小学6年生なんだぞ!!結婚なんて出来るわけないだろ!!」


 孫に会いたい、メグちゃん、ツムちゃんに会いたいと泣く両親を宥めるのに時間を費やし、こうしてタイムリープ初日が過ぎて行った。




―――――――――――――――――――――――――




 「ふわぁ……」


 昨晩は両親と、今後のことについて話し合うので随分と寝るのが遅くなってしまった。


 その会議の結果、電話で連絡ができないので千波の実家に行ってしまおうということに決定した。

 そして今、家族三人自家用車で千波の家へ向かっているところだ。


 なお、親父は仕事を、俺は学校をバックレているわけだが、今は世界全体が混乱のさなかなので大した問題ではないだろう。


 「親子三人でドライブなんて本当に久しぶりね」

 「そうだな。それにこの車も久しぶりだ」


 ようやく孫にはしばらく会えそうにはないという現実を受け入れた母が、ポツリとつぶやいた。

 父が運転しながら感慨深げに、運転席のインパネを指でなぞった。


 「この頃はそういえばセダンタイプだったわね」

 「そうだな。この頃は、まだセダンタイプの車が主流だったな。

  最近はうちも7人乗りのワゴンタイプだったからな」

 「雪広一家も一台でお出かけできるように、メグちゃんが生まれた時に買い替えたのよね」


 「はぁ……」

 「はぁ……」



 「「 メグちゃん、ツムちゃんに会いたい…… 」」


 すでに涙は枯れ果てたようだが、何かにつけて孫たちのことを思い出して溜息をつく二人


 「久しぶりに会えた高校生の愛息には、何か言うことないん?」


 「「 ん~~ 」」


 両親は頭をひねりながら唸ると


 「「 特にないな 」」


 と同じ答えをはじき出した。

 今世ではグレちゃうぞ、ちくしょう。


 「高校生は手はかからなくなるが金がかかるようになるんだよ」


 「食べる量も半端ないから食費もかかるしね」



 よし決めた。

 今世では、でっかい暴走族の団体に入って成り上がって幹部になってやる


 とか考えていると、


 「あんた。今回は大学留年すんじゃないわよ」


 「あの時は父さん、生涯一の大説教かましたな~」


 「その節は本当にすんませんでした」



 俺に芽生えたレジスタンスの炎はあっけなく吹き消され、後部座席で小さくなっていた。

 お金のことを盾に子供を完封するなんてズルいよ……


 単位の計算ミスをしでかして卒業できないことに気づいた、あの大学四年の冬

 あの、背中が冷たくなった感覚……


 思い出すだけで身震いする。


 卒業できなくて内定取消しになったので、慌てて公務員試験の勉強をしたり、当時は本当に大変だった。

 間違いなく人生で一番頑張っていた頃だと思う。



 まぁ、けど……



 当時留年したおかげで、千波と出会うことになったんだけどな。


 己の人生を省みながら、外の情景に目を向けると、そろそろ千波の実家の近くであった。




―――――――――――――――――――――――――




 千波の実家に到着した。


 しかし、何も相手方にアポは取っていない。


 行けばなんとかなるという、割と勢いで来てしまった。


 今更ながら緊張してきたが今更だ。

 ままよ!とばかりに「今井」と表札がある玄関のインターホンを押す。


 「は~~い」


 玄関のドアを開けたのは千波の母親。俺からすると義母の、今井 春香ハルカさんだ。


 千波のお父さんは、千波が物心がつく前に事故で亡くなっており、春香さんは女手一つで千波を育てたのだ。


 「突然すいません春香さん。わかりますかね?あの……雪広です。」


 俺が玄関口で名乗ると、春香さんはちょっと呆けた顔をした後、すぐに得心がいった様な顔をした。


 「高校生バージョンの雪広くんか~!!わぁ~~若~い。大学生の頃の雪広くんの面影あるわ~~」


 「ハハハッ。すいません突然押し掛けちゃって」


 「いいのよ~気にしないで~。あら?

  後ろにいるのはもしかして……和俊さんと早苗さん!?」


 「どうも御無沙汰してます春香さん」

 「あらまぁ、和俊さんも早苗さんも若々しくて羨ましいわぁ」

 「何言ってるんです。春香さんも同じように若返ってるじゃないですか」

 「あら、そうだったわね。アハハハハッ!!」



 かしましく親同士が挨拶する。

 こういう時って、なんか子供の方は気恥ずかしいんだよな。


 気恥ずかしい空気を吹き飛ばすため、俺は本題を出した。


 「それで春香さん。千波は今どうしてます?」


 「ああ。あの子なら、今日は学校へ登校したわよ」


 「 え!?学校って……小学校に?」

 「そう、小学校。ちゃんとランドセルまで背負って」


 千波の奴、さては結構この状況を楽しんでるのか?


 「今日はまだ学校側もバタバタしてるから午前授業らしいから、もうすぐ下校時間だと思うわ」


 「春香さん。千波の通ってる小学校の場所教えてください。迎えに行ってきます」


 俺は曇りなきマナコで千波の小学校の場所を訊ねた。



 純粋な願い……



 千波のランドセル姿を目に焼き付けるためだ。


次回、ようやく小学生妻が登場


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