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第23話 バーベキュー

 夏合宿バーベキューでのノンアルコール飲料については、他の部員にも話したら歓喜の声で迎えられ、部員全員での顧問の先生への熱心な説得がなされた。


 結果、本物の酒を絶対に持ち込まないこと、目立たぬように缶のままではなくコップに注いで飲むことを条件に黙認されることとなった。


 俄然、夏の部活にやる気が出てきた。


 今、俺は母の持っている料理レシピ雑誌を、家のリビングのソファで寝そべりながらウキウキで読んでいる。

 俺はお酒を飲む時は上手い酒の肴が無いとダメな性質だ。

 そのため、バーベキューのメニューには拘りたいので、企画の発起人であることをいいことに、バーベキューのメニューと買い出しは俺に一任されることになったのだ。



 「なんだか楽しそうね。雪広くん」


 風呂上りで、髪をタオルドライしながら、千波が話しかけてきた。


 「ああ。テニス部の夏合宿のバーベキューのメニュー考えてるんだ」


 「雪広くん、そういうの好きだね。ホームパーティとか」


 「大学生時代に友達の家でツマミ作ったりで鍛えたからな」


 「雪広くんの作る料理、大人は好きだけど、お酒のツマミっぽいのばっかだから、子供達には不評だったもんね」


 「それを言われると痛いな………」


 俺はあくまで自分好みの料理しか作れない。


 「子供たちが大きくなって、一緒にお酒飲むときに作ってね」


 「娘と一緒にお酒呑むのは夢だな」


 「親の私達がまだ当分はお酒が飲めない年齢だけどね」


 「夢が遠のくな」


 「その前に家に彼氏を連れてくるイベントの方が先じゃない?」


 「アーアー聞こえません、聞こえません」


 俺は耳に手を当てて嫌な想像を頭の中から追い出した。


 「あ。そう言えば、千波もバーベキュー来るか?

  部員外の参加者も別途参加費払えば参加できるようにするぞ」


 「うん。楽しそうだし行こうかな」


 「勉強も毎日頑張ってるからたまの息抜きはな」

 「今年は受験生なんだからしょうがないよ」


 「けど、大人なら中学受験の問題なんて楽勝だろ?」

 「それが、あくまで小学生の範囲で習う知識や解法で解かないと大減点になるって、先日、私立中学側が発表したのよ」


 「例えば、角度を求める問題で三角関数使ったりしちゃ駄目ってことか」


 「多分、知識量よりも、思考力やひらめきとかを重視した問題がより多く出されるんじゃないかな」


 あー、俺そういうの苦手だったわ。

 公務員試験にもその手の問題が出るけど、俺は苦手だった。


 「あ、でもその日は塾の夏期講習があるかも」


 「そうか、夏休み中は塾に行くんだもんな」


 「20年前も行ってた塾にね。一緒の中学に行った友達もいるから楽しいよ」


 「塾が楽しいって、変わった小学生だよ」


 「う~ん、私は元々、自分から希望して中学受験したようなものだからね。

  でも、たしかに当時は親に無理やり塾に通わされてたって子が、今の塾には来てないかも」


 「遅れてきた反抗期か……」


 「かもね。まぁ、自分の人生なんだから自分で選ぶべきだから良いことなんじゃないかな」


 そう言って、ドライヤーをかけに千波は洗面所の方へ向かった。


 最近は、千波が終日勉強で塾の自習室に行っているので、夏休みとはいえ気軽に遊びに出かけたりが出来ないが、今年はしょうがないと割り切っている。


 娘の受験の頃の予行演習みたいなもん……

 いや、こんな聞き分けよく自主的に勉強する子じゃなさそうだから、娘の時は何倍も苦労するかもな。


 そこら辺は、父親の俺じゃなくて母親の千波に似て欲しかったんだけどな。





 ―――――――――――――――――――――――――





 さて、テニス部の合宿が始まった。


 先ずはサーキットトレーニング

 いつもよりキツイが乗り切る。


 地獄のフットワーク練習

 インターバル中に吐きそうになるが乗り切る。


 基本ストローク練習が終わる頃には皆グッタリ


 合宿一日目は身体を苛め抜く


 合宿二日目は、ゲーム形式の練習

 前日の疲労が残る中、いかにして力を発揮できるか、ペース配分や折れないメンタルを鍛える。


 最後はクールダウンのラン


 幹事の俺は一足先にランを抜けて、バーベキューの準備だ。

 合宿所の玄関で履物をテニスシューズから持ってきたサンダルへ履き替える。


 「雪広。私も手伝うよ」


 聖良が、ハァハァ息を弾ませながら同じく玄関に駆け込んできた。


 「聖良。ランさぼりたいだけだろ」


 「バレた~。けど一人じゃ準備大変でしょ?」


 「正直たすかる」


 「よし、行こう」


 俺と聖良は合宿所に置いているバーベキュー器材等の荷物を持って砂浜へ向かった。


 俺と聖良が砂浜に着くと、すでに助っ人がいた。

 母さんがちょうど車のトランクを開けているところだった。


 「母さん、食材とかありがとうね」


 「おばさま。車出してもらってありがとうございます」


 「あら、聖良ちゃんじゃない。久しぶりね」


 「ご無沙汰してます」


 聖良は高校時代に、時たま我が家で試験勉強会をやっていたので、うちの母とは顔見知りだ。


 「ひょっとしたら、聖良ちゃんが雪広のお嫁さんになってくれるのかな~って当時は楽しみにしてたんだけどね」


 「ちょ!!母さん何てこと言うんだ!!」


 こんなの千波が聞いたら、嫁と姑関係が一発で崩壊する。

 俺はせわしなく、車の後部座席やらを見やるが、


 「あ、千波ちゃんなら後から遅れて来るわよ。塾が長引いてるみたい。

  私も千波ちゃんがいなきゃ、こんな冗談言わないわよ」


 ケラケラと笑う母

 まったく……心臓に良くない


 食材や飲み物やらを下ろしたら、母は帰って行った。


 「ごめんな聖良。母さんが変なこと言って」


 「相変わらずね、雪広のお母さん。

  高校生の当時も『いつ二人は付き合うの?』って言われてたわ」


 それは初耳だった。

 

 「それ千波に絶対言うなよ。今日来るんだから」


 「わかってますよ。昔の女は草葉の陰で大人しく泣いておきます」


 「誰が昔の女じゃ」


 最近は、聖良の危うい言動を適当にあしらうのにも慣れてきた。


 まぁ、聖良は匂わせのような言動に終始しているので、必ず逃げ道が用意されている。

 そのため、そこにツッコミを入れれば、それ以上の追撃は聖良から来ない。


 俺と聖良はタープとテーブルを広げて、バーベキューの仕込みを開始した。 





 ―――――――――――――――――――――――――




 「この漬けた肉旨いな~おかわり」


 「鮎の塩焼き追加よろしく~」


 「あいよ~」


 俺は追加の肉をクーラーボックスから取り出し、鮎に串を打って塩をふる。


 「アボカドのホイル焼きおいしい。明太子マヨが合いそう」


 「椎茸には塩もいいけど~おろしポン酢はマストじゃろうが~い!!」


 「はいはい。雪広。こっちは私がやっとくから」


 「頼む聖良」


 きっつい合宿を耐えられたのは、このバーベキューが最後に控えていたからである。

 みんな食べっぷりが凄い。

 普段の部活動には、あまり参加率の高くない先輩部員も、今回の合宿の出席率は高い。

 間違いなく、このバーベキューが目当てだったのだろう。


 とは言え、食材の消費が早い。

 高校生の胃袋だから当然か。


 そして、待望のノンアルコール飲料も入り、気分は酒盛りバーベキュー

 先輩の何人かはノンアルなのに雰囲気酔いでもしている様子だ。



 「こんばんわ~」



 そんな状況で、塾帰りの千波が顔を出した。


 「お~?なんだ女子小学生。飲みたいんか~?よし飲め~」


 「え、武藤くんの奥さん!?え~~美人さんじゃな~い。

  ちょっと、お姉さんたちとお話しましょ~」


 後輩の小学生奥さんというオモチャがみすみす酔っ払いの餌食になりかけた寸前のところで、こちらに回収した。


 「先輩たちがすまんな千波」


 「あれ、本当にお酒じゃないのよね?」


 千波が疑惑の目を向ける


 「母さんに買ってきてもらったからな。間違いないはず」


 「私もお酒あんまり強くなかったからわかるけど、飲みの場ってだけで気が大きくなったりするもんなのよ」


 聖良はそう笑いながら、次のアボカドホイル焼きの準備をする。


 「けど、これなら本物のアルコールの方がマシよね。

  厄介な酔っぱらいを酔いつぶす手が使えないわ

  飲みっぷり良いですねって言えば、勝手にピッチ上げて黙ってくれるのに」


 「聖良、お前コワイことやってたんだな」


 「そうとなれば、腹いっぱい食べさせるしかないですね。私も手伝います」


 千波が腕まくりした。

 

 「ありがとう千波ちゃん」


 「助かる、千波」


 先輩たちのボルテージはさらに上がっていっていた。





 ―――――――――――――――――――――――――





 「ふぅ、終わった終わった」


 日がそろそろ沈むかというところで、ようやくバーベキューはお開きになった。

 先輩たちは先に、重たいお腹を抱えて合宿所へ戻って行った。


 「千波ちゃんごめんね。せっかく来てくれたのに、ほとんど食べられなかったでしょ」


 「いえ、終盤に少しは摘めましたから」


 紙食器やらをポリ袋にまとめて、テーブルを拭く千波。

 実際は、料理の準備に忙しく、俺と聖良と千波はほとんどありつけていなかった。


 「あ、聖良。そこに焚火台あるから、そこにバーベキューグリルの炭入れといて」


 俺はタープを畳みながら、バーベキュー台の残った炭を集めていた聖良に頼んだ。


 「あ~、焚き火するんだっけ。でも先輩たちみんな帰っちゃったよ」


 「そいつは好都合だな」


 俺はニヤリと笑って、クーラーボックスの奥をゴソゴソと漁る。


 「じゃーん」


 「「 そ……それは!! 」」


 「俺達のバーベキューはこれからだ」


 俺は、手に持ったお高い、霜降り肉と厚切り牛タンを二人に見せつけたのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんというか青春のやり直しみたいな雰囲気ですねえ こういうのって、時間とかもそうだけどがつがつ食える時期じゃないとどうしてもね [気になる点] >小学生の範囲で習う知識や解法で解かないと大…
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