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番外編2 幼稚園児までタイムリープしたら

 快晴の朝


 二人の親子が電動自転車に乗っている


 前方のカゴに大きめのヘルメットを被った男の子

 年の頃は3歳くらいだろうか


 自転車を運転しているのは作業着姿の20歳後半くらいの父親と思しき男性

 自転車の後ろのカゴには、アニメのキャラクターがプリントされた布地の手提げ袋。


 朝の保育園へ息子を送る子育て真っ最中の父親

 平日の朝によく見られる光景である


 しかし、3歳頃というヤンチャざかりな年齢の割に、前のカゴに座る男の子は随分と大人しい。無言で、ただ真っすぐと前を無感情に見つめている。



 「なぁ、おい颯太ソウタ


 父が3歳の息子にかける言葉としては少々乱暴であるが、


 「なに?」


 息子の方は意に介さない、相変わらず無感情な返答を父親に返した。



 「成人してから自転車の前カゴに乗る気分ってどうなんだ?」


 「最悪な気分に決まってんだろクソ親父!!」


 振り返ってギッと父親を睨み返す男の子


 「おお、こわ。第一次反抗期ですか~?」


 ヘラヘラと笑う父親


 「こなくそ……力さえ…力さえあれば……」


 保育園に到着し、前カゴから降ろすため父親が男の子を抱っこする。



 「3歳のお前じゃ何もできんよ。大人しく俺に抱っこされてろ」


 「ぐぬぬ……」


 3歳児の目線から見ると、父親はとてもデカく見えた。


 元の世界では、身長をとうに超えているというのに……

 なんというか分厚さが違う。


 この頃の父って25、6歳だろ?

 本来の俺が23歳で……


 俺と大して変わらない年齢なのに、あと数年であんな分厚さ醸し出せる自信ねぇぞ


 「颯太君おはよ~ございます」


 担任の保育士の先生が元気よく朝の挨拶をしてくる。


 「おはしゃす……」

 「子供なんだからちゃんと大きな声で挨拶せい」


 ベシッと親父に頭をはたかれる

 こういうガサツな所が俺は嫌いだったのだ。


 「んじゃ、夕方また迎えに来るからな。いい子にしてろよ」


 ワシャワシャと頭を撫でられる。


 やっぱり俺は父が苦手だ……




―――――――――――――――――――――――――




 保育園での時間は地獄であった。


 童謡を歌うとか、オルガンに合わせてお遊戯とか、成人にやらせるとか勘弁してほしい


 一人で本を読もうにも、あるのは絵本ばかりで暇つぶしにもなりゃしない


 近々、本については選定が見直されるそうだが、納入されるのはいつになることやら……


 仕方がないから、園庭で走り回るくらいしか楽しみがない。


 けど、子供の体ってのは何でこうコントロールしにくいんだ。

 ちょっと足がもつれただけで、すぐにすっ転んじまう。


 (ズベンッ!!)


 こんな風に




―――――――――――――――――――――――――




 「すいません、お父さん。私たちの目が行き届いていなかったばかりに……」


 「いえいえ。子供は転ぶもんですよ。これくらい平気平気」


 父がガハハッと笑う。


 「ほれ帰るぞ」


 差し出された父の手は大きくて分厚かった。


 「なぁ颯太」


 「なに?」


 朝の登園時と同じく自転車の前カゴに乗せられた俺は、夕陽を眺めながら、朝と同じようにぶっきらぼうに答えた。


 「バンド、まだ続けてるのか?」


 「………やってたけど、鳴かず飛ばずだったよ」


 俺は元の世界で、デビューを目指してバンド活動を続けてきたが、結果は出ていなかった。

 無論、バンド活動で食べていくことはできず、バイトで食い繋ぐ先の見えない日々だった。


 昔気質の父のことだ。

 未来の結果を知ったら、無駄なことはやめて、別の堅い道を選べと諭すのだろう。



 「そうか……けど、音楽好きなんだろ?じゃあ、こっちでも続けりゃいい」


 「けど、この世界で音楽がどうなるかなんて想像もつかないよ。

  この後は、この先20年間で流行った名曲たちが一気に短期間で消費されると思う。

  そして、その後には全く未知の曲が出てくるんだと思う」


 予想外の父の答えに、つい弱気ともとられる返しをしてしまう。


 「そんな未知の世界でお前はどうしたい?」


 「俺は……」


 少しの逡巡の後、しかし毅然として


 「戦うよ。そんな誰も見たことのない世界……

  ワクワクしちゃうじゃないか」


 好戦的な炎が自分の眼に宿っていることに、自分自身わかった。


 それを見て、父は口元をニカッとさせて、


 「そうか。戦う気概があるならいいんだ。

  ふ抜けてんならカツを入れてやらにゃと思ったが心配ねぇみたいだな」


  こぶしを掲げながら

  父はガハハッと笑った。


 自転車は角を曲がり、夕日が射して眩しかった。

 この角を曲がれば、もう家が見えてくる。


 「今度は、俺が生きてる間にデビューするところ見せてくれよ」


 「そう言うなら、酒の量は程々にしとけよ。肝臓こわして早死にしたんだから」


 「そうだな。今回の人生では、息子と酒を酌み交わすって俺の夢を果たさないとな

  お前のバンドのCD聴きながら」


 俺が高校生の時に亡くなった父


 また会えた父


 父はやはり記憶にあるとおりの昔気質で分厚い人だ。


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