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いじめられてみた  作者: ケト
自白してみた
63/65

63話 ショータイム(一)

 午前五時。

 独りになった恵子は、クローゼットからとあるモノを取り出した。

 両手で抱えたそれは、恵介の制服を身に付け、顔は恵介に似せた、等身大の人形『恵介君人形』であった。


 椅子を使い、天井のフックに縄をかけると、人形の首に巻き付ける。

 手を離すと人形は天井から吊り下がり、『首吊り恵介君』をつくりあげた。


 当初は恵介本人を吊り下げる予定だったが、実に半年間も冷凍庫に入っていたのだ。

 思い描く体勢を保つかわからないし、何よりわたしが一人で吊るすには重過ぎた。



 次に、ドアに向かうと、目線の高さに設置した小窓に手を伸ばす。

 部屋の外側から見るとただの頑丈な小窓であるが、内側には追加でガラスをスライドできる構造になっていた。

 薄く白いガラスを一枚スライドさせると、結露でもかかったかのように見える。

 外から見れば、部屋の中の光景はぼんやりと映ることだろう。

 恵介君人形もきっと、本物に見えるに違いない。



 午前九時。

 家の中に設置した監視カメラ映像を観ていると、リビングで寝ていた少年に動きがあった。 

 少年は時間をかけてまずは一階を探索すると、階段に向かい、二階へと上がる。


 部屋の中では、全員が既に所定の位置に着いていた。

 恵介(ただの人形)は部屋の中心で天井から吊り下がり、夫(ただの屍)はベッドの奥側で仰向けになっている。

 そしてわたし(美巨乳)は、ベッドの手前側で仰向けになり、顔は入り口の小窓を向いていた。

 目は開けており、小窓と、監視カメラ映像を映したモニターをしっかりと確認していた。



 少年は、まずは手前の寝室、わたしと夫の『愛の巣窟』に入ったようだ。

 少年にとって有益となるものは何ひとつ置いていないためか、すぐに出てきた。


 そして、真ん中の部屋の前に立った。

 鍵がかかっていることを認識すると、小窓を覗く。



 小窓から覗く少年と目が合った。

 驚いた目がすぐに視線を外す。

 廊下の映像では、少年がドアから距離をとる様子が見られた。


 

 小窓から覗く少年の目と再会する。

 今度は、少年は驚かなかった。わたしが死んでいるモノと思ってくれたようだ。


 すぐに目線が外れると、今度は、天井から吊り下がるモノへと目を向けたようだ。

 さっきよりも目が大きく開かれると、すごい勢いで少年が消えた。


 映像から、少年が二階のトイレに駆け込んだことがわかった。


 きっと、昨夜食べた睡眠薬入りのカップラーメンを吐き出したのだろう。

 出てくると、残った一番奥の部屋へは向かわずに、一階へと下りていった。

 きっと、もう二度と二階には来ないだろう。



 少年の動向を確認しながらベッドから下りると、ドアへと向かう。

 小窓にもう一枚、ガラスをスライドさせた。

 そのガラスはさらに白く濁ったもので、先ほどのガラスと合わせると、ただの真っ白いガラスへと化す。

 これにより、部屋と外界とは、完全に遮断されたのであった。




 天井から吊り下がる目障りな人形を取り除くと、夫をお手製の大型保冷バッグで包んだ。

 息子が入った冷凍庫から保冷剤をいくつか取り出すと、保冷バッグの中に入れる。

 この密室で、死ぬまで一緒に暮らすのだ。少しでも腐敗を遅らせたい。



 二度と出ることのないこの部屋には、わたし一人なら優に三か月は暮らせるほどの、食料と水分を備蓄していた。

 

 一つ悩んだこと――それは、トイレだった。

 少年の睡眠サイクルを把握し、気付かれないように二階のトイレを使うことも考えた。

 だが、万が一にでも気付かれてはいけない。


 そこで、以前飼っていた猫『ケト』のために準備していた、猫用のシステムトイレを使うことにした。

 三日から四日に一度、汚物を袋に回収して冷凍庫に入れておけば、臭いもさほど気にならないと思われる。



 初めて猫用トイレで用を足すと、ふと、子猫のことを思い出した。

 小さくてふさふさで、顔が少し夫に似ている、愛らしく可愛い猫だった。

 

 急に、涙が溢れだした。

 猫と夫を思い出したからだろうか。

 いや…猫用トイレで用を足す自分を客観視した結果か――

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