61話 対処してみた(二)
登録者を増やしたおかげか、配信を終えるまでの視聴者数は六万人を超えていた。
「おいっ、残り四万人の登録者は何処に?」
Kがぼやいていたが、リアルタイムでこの人数なら十分だろう。
あとはアーカイブとして残るから、目標としていた『百万人以上に視聴される』の達成も十分あり得る。
そのために、半年間も準備してきたのだから。
十月二十一日、水曜日。
午前三時。Kのテンションが高まっていた、その時だった。
自宅の監視カメラ映像を常時映しているパソコン画面が、赤く光っていた。
寝室に向かい夫を起こすと、一緒に映像を確認する。
赤く光るのが『火』であるとわかったが、しかし、すぐに消えていく。
防火、耐火仕様の外壁が燃えるはずが無く、スプリンクラーが作動したのであろう。
四時を過ぎるのを待ち、データとして保存された一時間分の映像を確認し始める。
三時四分、正面の道路に現れた赤い光が、家へと一直線に走るのが確認された。
外壁に設置したカメラ映像を観ると、自転車に乗った人物が何かを投げる姿を捉えていた。
自宅の正面側の市道には、もともとは外灯と呼ばれるものが設置されていなかった。
だが、防犯工事で敷地内ギリギリに防犯灯を設置していたのだ。
その灯りが照らしたその人物は間違いなく『中津江将太』であった。
「なに? わざわざ罪を重ねてくれたの? ……よし、軟禁環境をより良くしてやるとしよう。ゲームとか漫画とか、いっぱい用意しとくから、期待して待っててね!」
十月二十三日、金曜日。
午後八時半、ケッチャンネルの登録者数を確認してみる。
一週間前、十万人を超えて喜んでいたその数は、なんと二百万人を超えていた。
そして、動画の視聴回数はなんと、一千万回を超えていたのであった。
「バズったわ。教団できちゃったんじゃない? ほらっ、コメントに『神!』ってあるよ?」
「教団つくるっていう目標は無いからね?」
「しかし、みんなの素性バレちゃったねー。あの人が頑張って編集したのに」
「引きこもってた少年が十月二日に登校して、十月五日に三人が停学処分になった、とある高校のとあるクラス――さすがにわかっちゃうよね。まぁ、本当は素顔晒したいくらいだったし、隠す気は無かったけど」
「さてさて、今日の生配信終わったらどうなるかな? もうさ、あいつら、外なんて出歩けなくなるよね? でも、少なくとも中津江将太はちゃんと学校行きそう。あれは大物だ!」
「興味無いわ。とりあえず誘拐するときに生きててくれれば良いよ」
「あんた……なんか、あたしより口悪くなってない?」
「そりゃこんだけ話してれば感染る……はい、5秒前」
「だから! 今度は10秒前からカウントしてって――」
午後九時半。
Kの二回目の生配信が始まった。
夫が頑張って編集した『対処動画』を流し終えると、Kは、これから『自殺する』ことを宣言する。
そして、Kは、最初で最後の真面目話をした。
後に語り継がれる、スーパーウルトラマジメケイコである――というのは冗談だが。
実際、このときに喋ったのがKだったのか、恵子本人だったのか、今でも思い出すことができない。
予定どおり、Kが、自殺までの五分間の準備時間をつくると、作成しておいた動画を流した。
真っ黒い画面にカウントダウンだけが表示される画面から始まったその動画。
カウントが0秒を表示すると、恵介が映し出された。
半年前の、息子の自殺映像である。
何度も観たその映像。
マイク機能が既に機能していないパソコン画面に向かい、Kは、またしても息子に声をかけていた。
この動画で――恵介の自殺を最後に、世の中のいじめが無くなってほしい。
恵子は、ただ、それだけを強く望んだ。
「いじめは無くならないよ。でも、これで自殺する人が一人でも減ったら――それだけで、いいよね」
Kのぶっきらぼうで優しい言葉が、恵子を包み込んだ。




