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いじめられてみた  作者: ケト
自白してみた
55/65

55話 準備期間(六)

 五月十七日、日曜日。

 この日、夫は午前十時から市内の不動産会社を巡り始めた。

 自宅周辺に、現在空き家となっている、あるいは空き家になる予定で、尚且つ賃貸可能な物件があるかどうかを確認するためであった。


 午後五時半。

 帰宅した夫は浮かない顔をしていた。どうやら収穫ゼロだったらしい。

 聞くと、自宅周辺はここ最近も開発が進んでいるためか人気の土地らしい。賃貸ではなく一戸建ての販売しかしていない、という状況らしいのだ。


「もし空き家を借りれなかったら……どこかの家族に、少しの期間だけどこかに行ってもらえばいいんじゃない? ほら、うちも表向きには旅行するみたいに」

「そう、だな。うまい口実を考えて、一家全員どこかに行ってもらって、家の鍵も手に入れて自由に出入りできるようにする……か」

「うーん。そう聞くと難しいかな……? やっぱり、他人の家使うのはあんまりかな」

「考えたんだけど……ほら、前に恵子が言ってた『他の人に頼る』ってやつ」

「あぁ。あたしの完全なる使い魔となった仁井田を教祖とした『ケイコ教団』を設立して、信徒たちに信託を下して都合良く行動してもらう――ってやつ?」


「いや、それじゃなくて……えっ?」

「ごめん、いつもどおり聞き流して。あれでしょ? いじめ被害者で協力してくれる人探そうか、ってやつ」

「うん。例えばさ、この家の周りは結構住宅があるし、子供も多い。だからさ、いじめの被害者だって一人くらいいるんじゃないかと思うんだ」

「そんな家族を見つけて、わたしたちの計画を伝えて協力を仰いでみる……?」

「これも現実的じゃないか……」

「どうだろうね。とりあえず、少しでも可能性があるものは試しておこうか」



 とりあえず、Kの使い魔である仁井田に電話をしてみる。

 使い魔とは言え、いくら何でも頼り過ぎなのは理解している。

 今回は、他の探偵に依頼しても良かったのだが――やはり仁井田が扱いやすいし、何よりも有能なのだ。

 あと、ここ数回はちゃんとした報酬の請求が無いため、『まとめてお金を支払いたい』という思いもあった。

 

 今回の依頼は、息子が通っていた氷山第二中学校の学区内調査だ。

 いじめが原因で自殺した、あるいは現在進行形で引き込もっている子供がいるかどうか。

 さすがの仁井田も、「なんでそんなことを依頼するのか?」と疑問を持ちそうだが。

 まぁ、K子様が理由を付ければ、何でも信じるだろう。



 電話をかけると、相変わらず一回目のコールで応答する仁井田に向け、破壊神の神託が始まった。


「この前さ、バスで氷山二中の近くを通ったの。ずっと外見てたんだけど、とある小道でね、中学生か高校生くらいの少年四人がたむろっているのが見えたんだ。

 あたしのボンヤリングケイコアイで見たから間違いない。あれ、いじめの現場だった。

 運転手さんストップ! って叫んだんだけど――あのハゲ頭、停まってくれなくてさ。次の停留所で降りて現場に行ったら、もう誰もいないわけ。

 はぁ……あたしの領域なわばりで、しかもあたしの目の前で悪行を為すのは絶対許さない。ていうか、いじめは吐き気がするほど大っ嫌い。

 ねぇ――何してほしいか、わかるよね?」

「け、ケイコ様……」


 仁井田が言葉につまる。さすがに無理があったか。

 しかもボンヤリングケイコアイって、ただぼんやりしてたやつの虚ろな目じゃない?


「ケイコ様の家って二中の近くですか? も、もしかして、二中出身だったりします? 僕、二中なんですよ!」


 すごいはしゃぎぶりだ。

 本当は氷山市出身ではないのだが、さすがのK子も空気を読んだのか、


「ふふっ。さて――どうかしらね、こ・う・は・い・君」


 色っぽく囁くと、電話先では『ドスン』と大きな音がした。

 仁井田が卒倒したのか、応答が無い。

 どうやら軽い脳震盪を起こしていたらしく、回復すると、すぐに依頼の話に戻った。


「いやぁ、ケイコ様、さすがです! 学区内のいじめ調査ですか」

「さすがのあんたでも難しい?」

「いえ、先生の知り合いが多いので。先生たち、たぶん自分のクラスのことは言いにくいでしょうけど――他のクラスとか学校のことはこっそり教えてくれそうですから、たぶんいけますよ。

 ほら、停学処分とか、引きこもりとか、最悪、自殺とか。他校にも噂が立つでしょうからね」

 

 何とも頼もしい使い魔だ。

 今回はちゃんと、報酬のことにも触れておく。


「じゃあ、お願いするね。前回までの依頼、何やってもらったか忘れたけどさ、やったことはちゃんと請求書出してよね? お金じゃなくてもいいから――ちゃんと、それ相応の対価は払ったげる」

「えっ――い、いいんですか? えっと、あっ……すみません、鼻から出血が……」


 また卒倒しそうな雰囲気を察したのか、「じゃ、ヨロシク」と最後に色っぽく囁くと、電話を切った。




 ――時は過ぎ、西暦二〇三五年。 

 人工知能の発達により、機械が人間、ひいては世界を支配し始めていたこの時代。

 いじめという概念は、機械が人間を強いる事象へと変化していた。


 いじめっこへの制裁を計画していた富田家。十五年という時を経て、今や中津江家とも力を合わせ、機械との戦いの日々に明け暮れていた。


 次回『背を向けた戦友に沸き上がる怨恨』

 

 絶対に観てくれよな!




 とある日の午前三時。

 意識の薄れた恵子の指だけが、Kの言葉を紡いでいた。

 Kは、こんな世界観が好きなのだろうか。

 

 よし、今日はSF映画でも観てやるか。

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