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いじめられてみた  作者: ケト
自白してみた
53/65

53話 準備期間(四)

 五月十三日、水曜日。

 中津江家に隠しカメラを仕掛ける予定の時間。夫はいつもどおり仕事、恵子は市内のペットショップを巡り、可愛い子猫を探し始めていた。

 今回は、了承したはずの嫁が疑いを持って待ち構えている――などという最悪の展開も想定し、他人に頼むことにしたのであった。


 遡ること三日前――恵子は久しぶりに仁井田に電話をかけると、前回までの依頼の続きと称し、隠しカメラ設置の依頼をした。

 嫁からカメラ設置の許可を得ていること、鍵を貸してもらえること、何ならカメラを設置する部屋も打ち合わせ済みであることを伝えると、

「さすがケイコ様ですね!」

 相変わらずの崇拝ぶりを見せたのであった。


 ただし、仁井田には隠しカメラを設置したり、その映像データを外部からも観れるようにする技術は無いという。

 そのため、仁井田からその道のプロに設置依頼をしてもらうことになった。

 その道のプロとは、そう――須藤車すとうかー用品店の店主である。ということはもちろん、ない。


 

 その日の夜。

 仁井田からのメールで、カメラの設置が無事完了したという報告を受けた。

 メールには、映像を観ることができるというアドレスが二つ貼られていた。

 試しにクリックしてみると、一つは中津江夫婦の寝室、そしてもう一つはリビングが映し出される。


 リビングには、何も知らずにテレビを観てくつろぐ旦那、そして詳しい設置場所を知らないためか自然体の嫁の日常が映し出されている。

 予定どおりの場所に設置されたこと、リアルタイムで映像を観れることを確認すると、

「こんな胸糞映像観てられっか!」

 というKの発言とほぼ同時に、その映像を消したのであった。

 

 仁井田からのメールには、中津江家の鍵をどうすればいいか、という質問もあったため、

『カメラを撤去するときにまた依頼すると思うから、しばらく持っていて。

 依頼の切れ目が縁の切れ目。これでしばらくは縁が切れない――ね?』

 と、K子様口調で返しやった。

 

 仁井田が依頼人の、加えて崇拝する人物の素性を明かすことは無いと思うが、念のため接触は避けたい。

 今後、空き家を借りる予定なので、その住所宛に返してもらうことにした。




 五月十五日、金曜日。

 午後二時、有給休暇を取った夫と恵子は、氷山駅から新幹線に乗り、約三時間かけてライブ会場近くのホテルへと向かった。

 この日やるべきことは、『嫁と片桐がホテルの部屋に入る瞬間の写真を撮ること』であった。


 ホテルの広々としたロビーのソファに座り、二人でイチャイチャしていると、ほぼ予定どおりの時間に嫁と片桐がホテルに入ってきた。

 同じ部屋と知ったためか、チェックイン時に多少動揺する様子も見られた。

 だが、ライブで激しく意気投合したのだろう、他の部屋やホテルを探すことはしなかったようだ。 

 ルームキーを受け取るのを確認すると、夫から嫁への電話で、『部屋に入る瞬間の写真を撮るから、意識しないでほしい』ことを伝える。


 写真を撮るのは恵子の役割だった。

 電話の相手が男性であると思っているはずなので、女性である恵子がカメラマンになったほうが意識が薄れるだろう。

 

 ロビーに戻った恵子は、夫と写真を確認する。

 よく撮れてはいるのだが、割とフォーマルなホテルのためか、どうも浮気感が薄い気がする。

 よって、念のため考えていたもう一つの計画も決行することにした。



 嫁と片桐が、夕食のためホテルを出るのを見送った夫は、またもや嫁に電話をかける。

『部屋にカメラを仕掛け、一晩中、何も無かったことを証明するための映像を撮りたい。

 部屋に忘れ物をした。八手やつでを名乗る女性に取りに行ってもらうから、鍵を渡してくれないか。そう、ホテルに電話をしてほしい』


 ホテルの近くで待機していた恵子は、夫からの電話でホテルに戻る。フロントで鍵を借り、部屋の中に超小型のカメラを仕掛けた。

 嫁へのメッセージで、カメラを設置した位置を知らせる。同時に、カメラの回収と処分を嫁に任せると、本日の任務は終了した。


 


 この日は、恵子達も別のホテルを予約しており、久しぶりに外泊をした。

 恵子がコンビニで買っておいた夕飯を食べながら、持参したパソコンで動画を投稿する。

 その後はベッドの上で肩を寄せながら、今後の計画について話をした。


 息子が永眠してからは、二人は新婚の頃か、あるいは付き合い初めた頃に近いほど仲が良い。


「あと半年、できる回数も限られてるし、大介の体力が続く限り交尾しておこうぜ!」


 というKの下品な提案に恥じらいを持ちつつも、二人はここ二週間、毎晩のように交わっていた。


『性行為』というよりも『行為』という表現が適切だな、というのがここ最近の恵子の考えだ。



 夫の温もりを直に感じると『生きている』ということを強く実感できた。

 死んだら冷たくなるのだから。恵介のように。


 夫の愛撫で熱く蕩ける体は、『生きている』ということを強く実感させた。

 死んだら何も感じなくなるのだから。


 体はもちろん、心もまだ死んでいない。

 生きている限り燃やし続けよう。そして、最後は燃え尽きても構わない。



「ねぇ、あなた。良いこと思いついたの。最後の最後、心も体も燃え尽きたら、ね」

「……?」


「文字通り燃え尽きようか。三人、そして家も、全部、燃やしちゃお?」

「……」



「イッツ、しょうタイム! なんちゃって――」

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