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いじめられてみた  作者: ケト
自白してみた
50/65

50話 準備期間(一)

 四月十四日、火曜日。

 インターネットで市内の探偵事務所を調べ終えた恵子。『迅速対応』を強く謳う事務所に決めると、始業開始時間ぴったりに電話をかけた。


 電話に応対した『ニイダ』と名乗る男性が、そのまま担当者となるらしい。

 早速、「夫がナカツエという女性と不倫しているかもしれない」と、話を切り出す。


 夫のスマホ画面をチラっと覗いた――

 今度いつ会うとか会わないとか、メッセージのやりとりがされていた――

 画面で確認できたのは『ナカツエ』という名前だけ――

 不倫はほぼ確定だが、相手のことは全くわからない――

 珍しい名字だし、素性を調査できないか――


 そんな、端的な内容で懇願する。

 

 氏名、住所、職業、家族構成はもちろん、趣味など、得られる情報は何でも欲しい――そう伝えると、とりあえずは調査内容をふんだんに盛り込んだ見積書を!メールで送ってくれることになった。


 メールアドレスは、探偵とのやりとり用としてけーが五秒で考えた『nakatsue-bukkorosu@……』とする。

 仮名でも構わないとのことだったので、対外的なものとして考えた『八手やつで実華みか』とした。

 ちなみに夫の仮名は『八手やつで三太さんた』である。


 約十分後――恵子のパソコンがメールを受信した。

 送信者は、先ほど電話対応してくれた担当者の仁井田にいだ。見積金額は、なかなかの高額だった。

 ただし、必要な出費であるし、何より半年後に死ぬのだから、貯金など気にしても仕方がない。

 仁井田に電話をかけると、金額について快諾するとともに、出来る限り早く調査してほしい、とお願いした。



 ちなみに、二回目の電話のやりとりは全てKに任せていた。

 今後の動画撮影のため、安定して出現できることを確認したかったのと、意外と話術に長けているのでは――という期待からであった。


 結果、担当者の仁井田に大はまりしたのか……時に鞭打つ軽壊けいかいトークに、仁井田からは意味のないところで「ありがとうございます、ケイコ様!」という謎の感謝の言葉が連発された。

 八手を名乗らせたにも関わらず、名指しで崇拝されることになったのには訳があった。


「夫のスマホ画面をちらっと見ただけ、ですよね……? 見間違えた可能性もあるんじゃないですか?」


 という仁井田の意見に対してKは、


「あたしのスーパーウルトラケイコアイを疑うって言うの? あぁ?」


 と、よくわからない、そしてダサいスキル名で啖呵を切ったのだ。

 二度見ならぬ二度聞きをする仁井田に、Kは、


「スペシャルワンダーケイコアイ」

「ロイヤルホスティングケイコアイ」


 と、その度に異なるスキル名で返したのだが『ケイコ』という固有名詞だけは耳に残ってしまったらしい。


 なお、よほど暇だったのか。はたまたK子様への忠誠心からか、このあとすぐに調査を始めてくれることになった。

 報告を待つだけとなったので、恵子は動画撮影にとりかかることにする。


 

 過去の息子の動画を確認し、カメラの角度を合わせると、第一回目のK子劇場の試し撮りを開始する。

 お決まりの『こんばんわー! ケッチャンです』から『では、バヒバヒ!』まで約八分。

 伝えたい内容は全て盛り込み、そしてKの軽壊トークが突き刺さる、会心の出来栄えとなった。


 明日の夕方くらいまでに、計画が変わるような重大な情報でも入らない限り、この動画で問題無いとすら思える。

 とりあえず夫が帰ったらこれを観せてやることにして、今後の動画のネタを考えることにした。




 四月十五日、水曜日。

 午前十時、探偵事務所の始業時間ぴったりに、仁井田からのメールを受信した。

  

――ケイコ様、ご依頼の素性調査の速報です。


 中津江なかつえという名字のお宅は市内に一件のみということが判明しましたので、今回ご報告する人物が調査対象で間違いないと思われます。


 氏  名:中津江なかつえ沙妃さき

 生年月日:一九八六年七月二十八日

 年  齢:三十四歳

 家族構成:夫(大悟三十九歳)、長男(将太十五歳)の三人家族

 住  所:氷山市○○町○ー○

 職  業:主婦

 趣  味:KPOPアイドルの追っかけ


 KPOPアイドル全般が好きなようですが、特に『側方神起』という三人組男性アイドルグループにどはまりしており、ファンクラブにも入会しているようです。

 五月十五日に行われる大規模ライブのチケット抽選に外れ、四か月経過した今でもショックから立ち直れないと周りに漏らしているようです。


 今回の報告は以上となります。いかがだったでしょうか――



 まず思ったのは、『依頼主をちゃんと八手と呼べ』というのと、最後の『いかがだったでしょうか?』にK子様のご機嫌を伺う様子が感じられることだった。


 よほど暇だったのか、はたまた腕利きの探偵なのか。たった一日にしては予想以上の情報量であることには正直驚いた。

 

 恵子の勝手な考え、そして偏見であるが――母親が比較的に若いことから、この息子のヤンチャ気質は高そうだ。

 他のいじめっこのことも調べるつもりだが、今のところは『中津江将太』を誘拐のターゲットとして計画を進めても良いのではないだろうか。

 また、将太の誘拐を計画するうえでも、嫁の沙妃に近づいておいて損は無いだろう。

 そう判断すると、仁井田へのメールの返信で、二つの依頼を追加した。


 一つ目は『中津江沙妃のSNS利用状況と、ユーザー名の調査』。

 二つ目は『三人組アイドルグループのライブチケットを二枚入手すること』であった。

 後者のチケットについては、『費用に上限は設定しない。せいぜいあたしの役に立ってみせなさい』と、K子様口調でコメントを付け加えた。


 その後、Kからの提案で、ライブ当日のホテルを予約することにした。

 よほど大規模なライブなのか、近場のホテル――特にビジネスホテルなどのリーズナブルな部屋はほとんど満室であった。

 ただ、少し値の張るホテルにはまだ空きがあったため、利便性の良いホテルの『ダブルルーム』を一部屋予約することができたのであった。

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