四月十三日(四)
「動画を投稿するタイミングもよく考えないとな。もしも先生とか、いじめっこに動画を観られたら、ケッチャンの仕業だってことが間違いなくバレるだろうから」
「いじめられてから一週間か二週間後くらいかな。いずれにしても停学処分とか、あとは損害賠償請求の手続きやらが終わってからじゃないとね」
「損害賠償請求の方が問題だろうな。俺も詳しくないけど、弁護士通して、何か手続きとかするんだろ? 裁判にだってなるのかもな」
「でも、私たちに必要なのは賠償金じゃなくて、損害賠償を請求したっていう事実だよね。弁護士がいじめっことその両親に請求の話して脅して、それで終わりでいいんじゃない?」
「だな。じゃあそれも、法律とかを詳しく調べるだけでいいか。弁護士に依頼しなくても、俺か恵子が弁護士に変装するってのも考えられるしな」
「わたしは恵介に変装するんだから、いじめっこに接触するのは危険じゃない? そこはあなたがやってよね」
「――わかった。で、いじめっこは停学になったり、親からひどく怒られたり、散々な目に合う、と。そして、その後に動画が投稿されたら、よくわからないケッチャンとかいうやつの仕業だって知る」
「どう思うんだろうね。損害賠償は実際には請求されないってわかって、いじめっこの親は安心するかも。いじめっこどもは――まぁ、ロクな奴らじゃないだろうから、ただただケッチャンへの怒りを募らせるだけじゃない?」
「うん。でも、動画でぼかしとかかけたとしても、おそらくどこかの誰かがいじめっこの素性を晒してくれるだろうな。世間からの目は冷たくなるだろう。いたずら電話とか、手紙とか……いや、今はメッセージか?」
「学校への連絡とか、損害賠償請求とか、そのときの様子も撮影してさ――それも、動画として投稿すればいいんじゃない?
ほら、投稿したときにはおそらく停学処分になってるはずでしょ。クラスメイトとかがもし動画観てたら『きっとアイツらだ!』って、SNSで拡散してくれるでしょ」
「うんうん、そうしよう。そうだな、いじめられてみるだけじゃなくて、その後の対応までやってみるか」
「なんだか、いじめ問題に対するひとつの対応動画みたいな、大きな話になりそうだね。『いじめられてみた』でいじめの事実を伝えて、『映像と言う証拠をもって、対応をしてみた』で世のいじめられっこ、いじめっこ、ひいては第三者に向けたメッセージを発信する、とか」
「俺たちの目的を果たして、結果、そうなってくれたら良いかもな。恵介の死も無駄にならないだろう」
「なんとなく、やることは決まってきたけど……いじめっこが死ぬほど反省するかっていうと、どうだろう?」
「ここまでのやり方だと、結構、精神的ダメージは与えられると思うけど」
「例えばだけど――停学処分で一〇〇のダメージ、損害賠償請求で六〇のダメージ、世間の目で一四〇――合計で三〇〇のダメージを与えたとせる。でも、いじめっこのHPが一〇〇〇もあったら――ね、あんまりじゃない?」
「例えが極端だけど……メンタルが強すぎて反省しないパターンもあるってことか。じゃあ、そのパターンも考えて――いじめっこにダメージ与えられる何かを考えるか?」
「……動画の最後に、恵介の自殺映像を流すとか――」
「いじめっこ三人なら、それが本人だとわかる――か。それに、動画を観てくれた人達のいじめっこへの反応も過激になりそうだしな。それもいいかも」
「あとさ、殺しちゃいけないんなら、せめて誘拐くらいしない? 監禁か軟禁か、失禁でも良いよ! いじめっこ三人のうち、一番反省しなそうなやつだけでいいからさ。それで、残りの二人には『次はお前だ』みたいな脅しをかけてやる」
「いいかもな、軟禁」
Kの過激な提案も、ここではナイスアイデアになってしまうらしい。
「この家か、あるいはいじめの舞台に使うかもしれない空き家か――とりあえず、何日間かそこに閉じ込める。だけど……他にも法に触れることがあるかもしれないけど、これは立派な犯罪だよな」
「行方不明になるから、警察の捜査も入るよね、きっと」
「あぁ。動画に関係するってわかるから、ケッチャンの素性を調べるだろう。あと、ケッチャンに関わったと考えられる人への聞き取りがされるか」
「当然、恵介のところにも来るよね。ケッチャンが変装したとはいえ、主人公だし。わたしが恵介に変装して対応……は、無理だよね」
「あぁ。俺たちにも聞き取りするだろうし、さすがに一人二役は厳しいだろう。とはいえ、恵介が死んでるとは言えないし……」
「警察が動くとしたら、いじめっこを誘拐してからだよね。じゃあ、そのときには――わたしたち、既に死んでればいいんじゃない?」
「誘拐してすぐに死ぬ、か。でも、もしもだけど。動画を投稿してすぐに、何らかの理由でケッチャンの素性捜査が始まる――ってことも想定した方がいいかもな」
「そうすると、動画投稿のあとにすぐ死ぬ? そうすると、いじめっこの誘拐はできなくなるか。なんとかして身を隠す……だと、容疑者扱いされちゃうかな?」
「俺たちはあくまでも、ケッチャンに巻き込まれた、っていう立場でいたいからな。とすると――ほら、いじめっこがこの家に来るときに考えた『慰安旅行に行く』ってやつを長引かせたらいいんじゃないか?」
「一か月とか、それよりもっと長くってこと? そっか……思い切って、世界一周旅行とか行ったことにする?」
「あぁ。恵介のために環境を変えるってことにして、連絡もとれない状況つくれば、警察の捜査から逃れることできそうだよな」
「でも、ケッチャンにとってそんな都合の良いシチュエーションが次々に……あぁそうか。わたしたちが準備したことはケッチャンが準備したことになるんだから、いいのか。なんか、準備することが山積みね……」
「でも、大筋は立てられたな。あとはその時々で必要なことを追加していこう」
四月十三日、午後十一時半。
二人は話を切り上げると、息子に『おやすみ』と言い、寝室へと向かった。
余命半年、限られた時間。
やりたいこと、やらなければいけないことを死ぬ気で考えて行動すると、一日がなんて長いことか。
そして、なんて充実することか。
こんな感覚で、普通の人生を必死に送ることができるのなら……きっと、時間を無駄にするようなことはしないだろう。
いじめなんて、つまらないことは絶対にしないだろう――




