47話 四月十三日(二)
「なら、あたしが代わりに『ケッチャン』を演じてやろうか? 投稿王になる、なんて向上垂れたのもあたしだし。
まぁ、急にしゃべれって言われても、面白いこと言う自信はあるけど……ネタはあんたに任せるわ」
なんということだろうか。どうやら、Kとの会話ができるようだ。
口の奪い合いなので、当然だが同時にはどちらか一方しか話せない。
「じゃあ、あなたにお願いするけど……動画撮るときにだけ現れるなんてできるの? 今までは恵介のこと考えたり、見たりしないと出てこなかったよね?」
「うん、本当はいつでも出れるんだけどね。でも、ほら、あの人の絶望的な顔、あんまり見たくないじゃない? 二回も見ちゃったけど。
だから、よっぽど表に出て言いたいことが無い限り、出ないようにしてたの。これでも一応、我慢強いんだからね」
「もしかして、体も乗っ取れたりする?」
「あぁ、あれはあのときだけだったみたい。あんたがよっぽどショックを受けたからか、ぶっ壊れてすぐだったからか。まぁ、そのおかげで金曜の映画ショーを録画できたけどね!」
「いや、あのとき、視聴予約しかしてなかったよね?」
「ガーン! ……まぁ、いいや。でさ、実はあたしもネタ考えてるんだ。ほら、見損ねたコナム君関連でさ、今まで遭遇した事件数と死体の数を数えてみようよ。漫画全部に目を通して」
「なるほどね。数えてみた、ってやつね。でもそれ、かなり大変そうじゃない? だってあの漫画、百巻くらい出てなかった?」
「まぁ、限られてるとはいえ、時間はたっぷりあることだし。それに、ちゃんと読まなくても数えるだけだからね。
あ、あとさ、カネダイチハジメちゃんの方も数えてさ、どっちが多いか、ってやればいいんじゃない?」
「そのネタもらった! じゃあ、早速漫画買う……のは大変か。よし、電子書籍にしよう。早速購入じゃ!」
その後も、恵子とKは一つの口で喋り続けた。
いったいどんな原理なのかはわからないが、一人で二人分考えられるのは都合が良すぎるのであった。
その日の午後八時。
夕飯を食べ終えた二人は、恵介の部屋に集合し、今日の成果を話し合った。
「とりあえず、『ナカツエ』って名字の家は市内に一軒しか無いことがわかった。漢字は、中大兄皇子の『中』に、津田梅子の『津』、江戸川乱歩の『江』で『中津江』だ」
「あのさ……人の名前の漢字を説明するのに、人の名前出しすぎ。そっちの漢字思い出すので精一杯だったわ。まぁ、わかったからいいけどさ」
「住所もわかったから、あとはどうやって調べるかだな」
「やっぱり、ここは探偵にでもお願いしとく? ほら、浮気調査とか称して『うちの夫と中津江の嫁が関係を持ってそうだ』なんて言って。そうすれば、子供の情報を含めて、中津江家のこともわかるんじゃない?」
「そう、だな。何の情報も無いし、もちろん対象の写真も持ってないし……でも、そんな人の調査なんてしてくれるのか?
あぁ、でも、中津江って名前珍しいから、そこは名字だけでいけるか。でも、やっぱり、後々にそういう動きがあったってバレないか?」
「探偵だから、そういう個人情報とか、事情とかは守ってくれるんじゃない? それに、電話だけで、しかも匿名で依頼できるかもしれないよ」
「わかった。じゃあ、どうする? どっちの浮気調査にする? 別に、俺でもいいけど」
「うーん……中津江家の親、どっちを攻めるか、だね。どっちかというと、母親の方が安全かもね。
だって、いじめっこの親なんてどうせロクでもない奴らでしょ? もしも接触する必要が出てきたら、男の方だとガラ悪そうだし、暴力なんかで訴えてきたら太刀打ちできないし」
「わかった。じゃあ、俺が浮気してるってことで。俺が中津江家のことを調べてれば、都合良く、何か怪しい行動してるって思われるかもしれないしな」
「じゃあ、決まりだね。明日、市内の探偵事務所を調べてみて、電話かメールか……わかんないけど、依頼してみるわ。
――あなた、くれぐれも怪しい行動をするように気を付けてよね!」
「……あの、さ。さっきからずっと……恵子、だよな?」
「ん? そうだけど……あぁ」
恵子は、夫の言わんとすることがわかった。
日中ずっとKと喋っていたせいか、きっと、発言がそっち寄りになっているのであろう。
「ほら、キャラ変えなきゃだし、慣れるために日常から、ね? 敵を欺くために、まずは味方から、って言うでしょ」
「そうか、お前も頑張ってるんだな。よし、中津江家のことは探偵に頼ることにしよう。
次は――というか、これから実行すること、必要なことを俺なりに考えてみた。挙げてみるから、過不足あれば教えてくれ」
『十月一日以降、恵子が変装して学校に行く』
『いじめられる』
『カメラをどこかに仕込んで、いじめの様子を撮影する』
『撮影した動画を投稿する』
『百万人以上に視聴される』
『動画を証拠にして、いじめっこに制裁を加える』
『いじめっこが死ぬほど反省する』
『俺たち、死ぬ』
夫が淡々と、端的に挙げた内容。
全てがうまくいくためには、死ぬ気でやらなければならないだろう。
でも、死ぬ気でやるだけでいいのなら、簡単なこと。
だって、『死ぬ気』じゃなくて、『死ぬ』のだから。




