46話 四月十三日(一)
四月十三日、月曜日の午前七時。
朝御飯を食べ終えた二人は、恵介の部屋に集合した。
こんな状況でも仕事に行かなければならない夫と、今日やるべきことを確認するためであった。
ちなみに息子の恵介は、土曜日に夫が入手した業務用の冷凍庫に入り、永遠の眠りに就きながらの参加だ。
「俺は、仕事の合間をみて『ヤマベ』と『ナカツエ』の住所を調べてみるよ」
「あなた、本当に大丈夫? 私なんて半分ぶっ壊れてるくらいだし……仕事なんて、手につくの?」
「大丈夫かと言われたら大丈夫じゃないけど……まぁ、やるしかないだろ。もともと気さくな性格でもないし、黙々とやってみるよ。
もしかしたら『何かありました?』なんて聞かれるかもしれないけど――そのときは『息子が引きこもりになって……』って言えばいいだろうし」
「冷凍庫に――だけど、嘘は言ってないもんね。そっか、私も『テンションおかしいけど、何かあった? ついに壊れた?』って聞かれたら、そう答えようかな。
あと、ちなみに、私は今日も動画のネタを考えるからね」
「あぁ。ところで、一回目に何をやるかは決まりそうか?」
「うん、そのことでちょっと相談。ネタというか、演じ方なんだけど。
今までの恵介のケッチャンだと、面白くないってわけじゃないんだけど……登録者を増やすのは難しいと思うの。
テンションあげるとか、キャラを変えないとダメだと思う。でも、わたしが急にキャラ変えたら『中の人変わった?』『壊れた?』って思われちゃうよね?」
「そうだな……これまで、たかだか十人くらいにしか観られてないけど――今後のことを考えると、そういったちょっとした違和感とか、イレギュラーなことは全て潰しておきたいよな」
「そう、だから『何か月後に、とある企画をやります!』『より多くの人に観てもらいたいから、登録者数十万人を目指して、新たな気持ちで頑張ります!』とか宣言すればいいかなって思ってるんだ。
最初は『登録者数十万人になったら記念企画やります!』でもいいかなとも思ったんだけど……でも、数を決めちゃうと、もしかしたら達成できない可能性もあり得るし。逆に、私が凄すぎて二週目くらいで達成しちゃって、準備が追い付かない可能性もあるしね」
「……そうだな。じゃあやっぱり、そんな宣言するためにも、登校する時期は決めておいた方がいいかもな。俺たちの寿命のこともあるし」
「リミットは年度内――だよね。進級してクラスが変わったら、いじめっこともお別れになるかもしれないし。まぁ、そこまで時間かける気は無いけど。
登録者を増やすのは、頑張るとして。あとは、私の体型――美巨乳を隠すためには『冬服』っていう条件が重要。それだと、夏服になる前――六月末まで。それか、夏服が冬服に変わってからだと、十月以降になるね」
「例えば六月末までに頑張って準備を終えたとする。登校して、もしもいじめられなかったら……夏服に変わっちゃうよな。
それだと、また冬服になるまで待つことになる。それを考えると――準備期間も多くとれるし、十月以降の方が現実的か?」
「うん、わたしもそう思う。じゃあ、とりあえず登校するのは『半年後、十月一日』ってことにしようか」
「よし。余命半年ってことで、頑張るか!」
登校する時期が決まったところで、夫が通勤する時間となった。
部屋を出ようとドアノブに手をかけたところで、夫はふと何かを思い出したのか、振り返った。
「そうだ、大事なことを忘れてた。今日、恵介が学校休むってこと、学校に連絡しないとな。
――どうする? 息子が学校に行きたくないって言ってる、って理由はさすがに早いよな」
「そうね。体調不良をズルズル引きずって、いい具合に恵介の休みが経常化したら、引きこもりの話をしよっか。じゃあ、学校には私から電話しとくよ」
「よろしく。じゃあ、行ってくる――」
玄関まで下りて夫を見送ると、息子の部屋に戻り、一回目の動画のシナリオを考えることにする。
動画の投稿は金曜日の夜にするとして――夫に編集してもらう時間を考えると、木曜日の夜までには動画を撮り終える必要がある。
今日が月曜日だから、まだまだ時間には余裕があるとも考えられるが……今後、新しいケッチャンを演じていくため、そして登録者を増やすための大事な回となるのだ。
考え過ぎるくらいで丁度いいだろう。
とりあえず、始まり方は今までの息子のケッチャンと同じく『こんばんわー! ケッチャンです』でいいだろう。
あとは、視聴者に少しでも興味をもってもらえるような、記憶に残るような台詞、しゃべり方……か。
面白いことを考えるのは得意な方だ。自分ではそう思っている。
ただし、考えたとしても披露するのは身内くらいで、不特定多数の、顔も見えない人に披露する自分の姿を想像できない。
ましてや、お芝居はもちろん、人前でのスピーチなども特にした経験が無かった。
あまり面白くないとはいえ、息子はよくも自分が喋る動画を撮って、しかも投稿なんてしたものだ、と改めて感心した。
息子のことを考えたからだろうか――Kが口を乗っ取り、喋り始めた。




