41話 『自白してみた』へと続く
振り返りから現実へと戻った御手洗は、デスクの引き出しからあるモノを取り出した。
リアルな猫の被り物――それは、富田家から持ち出した、Kが被っていたと考えられるモノであった。
鑑識の結果、毛髪や皮脂など、個人情報を特定できるようなものは何も付着していなかったという。
おそらく、被り物の下に、さらに何かを被っていたのでは――というのが、鑑識の見解。
用の無くなったその被り物を、持ち出した御手洗が責任を持って引き取ったのであった。
御手洗は、その被り物を見ながら考えていた。
Kが最後の動画で語っていた目的は、果たして達成されたのであろうか。
そして、Kはなぜ、富田一家を殺害する必要があったのか。
前者については、いじめ問題という大きな捉え方をすれば、まだまだ達成されていないと言える。
だが、今回の件だけを捉えるのであれば別だろう。
いじめの事実を大多数の人間に伝え、議論させ、いじめ加害者が『震えて眠る』ような環境げつくられた。
制裁を下すことができた、とも言えるだろう。
これは御手洗の勝手な推測であるが。
Kの犯行は、中津江将太の監禁事件をもって幕を閉じたのではないだろうか――
だが、以前に自分の勘が大きく外れたことを思い出し、すぐに思い直すことにする。
後者、富田一家を殺害した理由だが。
考えられないことはない。だが、どの理由も、殺害する理由としてはいまいちであると感じるのだ。
まず考えられるのは、中津江将太を富田家に閉じ込めるために、邪魔になる住人を排除した、というもの。
だが、これはそもそも、本当に世界旅行へと旅立たせれば良かっただけだ。
これまでKがしてきた準備を見るに、金銭不足は理由にならないであろう。
あとは、いじめ加害者の一人、中津江将太への制裁のため、という考え。
中津江将太が富田家の、鍵がかかった部屋を覗き見たあの光景――少年のトラウマになり続けることは違いない。
少年の心に生涯癒えることのない傷を負わせるため――あの部屋の状態をつくるため、殺害したのだろうか。
少年から聞いた情報では、富田恵介は首吊りの状態で殺害されていたのだという。
いじめに堪えきれずに己の命を絶った――そんな状況を、いじめ加害者に見せつけたかったのであろうか。
そして、同じく少年からの情報、部屋が極寒だったのでは、というもの。
おそらく、遺体の腐食を遅らせ、首吊りの状態を極力長く維持させるためだろう。
エアコンを最低温度に設定していたのではないか、と推察された。
なお、最後の動画でのKの自殺。
それが本当だったのか、という疑問も解決されていない。
そもそも、Kが本当に自殺したのであれば、その遺体を富田家のあの部屋に吊り下げれば良かったのでは? という疑問も追加で出てくるのだ。
この疑問からは『本当は自殺していないから、別の、そして本当のいじめ被害者の首吊り死体が必要となった』という推測も出てくる。
一方で、Kの自殺映像が十月二十三日、そして中津江将太が部屋を覗き見たのが十一月七日。
二週間も経過した遺体は、吊り下げるのには使えなかったため、とも考えられるのだった。
Kが起こしたこの事件。
考えれば考えるほど、様々な疑問、そして推測が浮かび上がるのであった。
御手洗は、これ以上考えることを止めた。
切りがいいところで業務を終えると、早めに帰宅することにした。
その日の夜。
十一月十三日の金曜日、午後十時半。
自宅のパソコンを起動させると、動画配信サイトにアクセスしてみる。
もしかしたらKの動画が追加されているかもしれない、という御手洗の勘はまた外れたようだった。
Kが最後に配信した二本の動画の視聴回数を見ると、未だに増え続けているようだった。
御手洗は、最後の、十月二十三日の動画に対する視聴者コメントを眺めてみることにした。
以前見たときには、『Kの考えに賛同、あるいは反対する意思を表示するもの』『動画の続きを期待するもの』『Kの素性を推理するもの』など、様々なコメントが書かれていた。
Kが指名手配された今、コメントの内容には、何か変化が起きているだろうか。
まず、今現在のコメントが思ったよりも多いことに気付いた。
指名手配されたから……にしても、今さらこの動画コメント欄を使うだろうか。
コメントをいくつか見るとすぐ、異変に気付く。
コメントに偏り――というよりも、皆同じような内容を書いているのだ。
どれも、とあるコメントへのコメントらしい。
それは『マジかW』『見てみるわ』『本人のやつかな』といったもの。
中にはそのコメントをしたユーザー名を含めたコメント、『八手さん、サンキュー!』といったものもあった。
御手洗が知る八手という名前は、建築会社に防犯工事を依頼した人物。
そして、中津江将太の両親が離婚するきっかけとなる浮気調査をした人物と同じ名前である。
Kか、あるいは協力者であると思われる人物であるが……その名前は、対外的には公表されていないはずである。
ただの偶然だろうか……?
コメントを流し見していくが、コメントへのコメントが多すぎるせいか、目的のものはなかなか見つからない。
――と、ようやく、八手という人物のコメントを見つけた。
コメントは、昨日の午後三時十五分に書かれたもののようだ。
『これって、Kが投稿した小説じゃない?』
コメントには、その小説の投稿先であろうか、アドレスが貼り付けられていた。
御手洗は、アドレスをクリックせず、まずはアドレスの一部をコピーして検索をかけてみた。
作品数九十万以上、登録者数ニニ〇万人以上、小説閲覧数月間二十五億PV以上と謳う、とある小説投稿サイトがヒットした。
安全なアドレスであると判断した御手洗は、八手のコメントのアドレスをクリックする。
小説投稿サイトに投稿された、とある小説のページが開かれた。
ページには『自白してみた』というタイトルと、『作者:ケト』という表示。
スクロールすると、数話に分けて投稿されていることがわかる。
投稿された日時は、最初に投稿されたものが、一昨日の十一月十一日、午後九時半。
そして、最後に投稿されたものは、昨日の十一月十二日、午後三時であった。
当てにならない御手洗の勘が、これは本物だと言っている。
もしかしたら、逮捕に繋がる手掛かりが書かれているかもしれない。
そんな淡い期待を胸に、御手洗は一話目をクリックした。
そのタイトルは『四月十日』であった。




