38話 富田家(一)
携帯電話を耳に当て、片平は、富久山に視線を送っていた。
顎で「結果を聞いておけ」と指示をすると、富久山は自分の携帯電話を取り出す。
結果によっては、すぐに本部長に電話するというサインであろう。
それを見た御手洗も、すぐさま鍵屋に電話できるよう準備をする。
「――はい。隣に富久山警部がいるので、聞いたまま伝えますよ。えぇ――はい――空き家には――何も無かった、ですね!」
結果を聞くや否や、御手洗と富久山それぞれが電話を始める。
まず、御手洗。鍵屋に、事前に知らせていた富田家の住所へと直ちに向かうよう指示した。
そして、富久山。本部長へと結果を報告すると、直後にゴーサインが出たようだ。
電話を切ると、すぐさま部屋にいた六人に指示をする。
その場には、富久山を含む捜索班四人が揃っていた。
そのうち二人には、連絡調整のため部屋に待機するよう指示。
まだ電話中の片平には「行くぞ」と促しつつ、電話の相手――聞き取りに出ている二人には、富田家へと直行するよう指示させた。
富久山、片平、御手洗、捜索班の一人である河津は、全速力で車に乗り込むと、富田家へと急行した。
午後三時半。
四人が現場に着くと、先に到着していた大槻と安積、そして鍵屋が会話をしていた。
富久山は、安積と河津の二人に「家の正面と背後の路上に車を配備して、車内に待機」と指示。
家の敷地内、裏手の二角には、大槻と片平の二人を配置した。
残る富久山と御手洗が、鍵屋と共に玄関へと 向かう。
早速、玄関の施錠の確認を始めた鍵屋に、富久山が問い掛ける。
「どのくらいで解錠できそうだ?」
「穴を開けていいなら、数分で開きますよ」
鍵屋の素っ気なくも心強い回答に、富久山は間髪いれず、穴を開けることへの許可を出した。
鍵屋は、工具箱からドリルを取り出すと、鍵穴のすぐ近くに穴を開け始める。
清閑な住宅街に、金属の擦れる音が響く。
ものの一分もかからずに穴が開くと、鍵屋はドリルを工具箱に戻し、別の工具を取り出し始める。
そのとき、僅かではあるが、御手洗の耳に何かが聞こえた。
それがドアの内側からだと気付くと、鍵屋の邪魔にならないよう、ドアに耳を付ける。
内側からは何者かが戸を叩く音。そして、「助けて」という声が聞こえた。
防音性がかなり高いのか、耳を付けてやっと聞こえる程度。
中の人物も、おそらくだが、ドリルの音で外の様子に気付いたに違いない。
中に閉じ込められている人物がいることがわかり、気が逸る警察官二人。
そんな二人を余所に、鍵屋は落ち着き払い、精確な作業を続けていた。
鍵付近に聴診器のようなものを付けると、何かの音を聞きながら、何やら細い工具で鍵穴をいじり始める。
たかだか三分程度の作業時間。
だが、二人にとっては、ひどく長く感じられる時間だった。
「開きました」
待ち侘びた台詞とともに、鍵屋は工具を片付け始める。
富久山は、鍵屋に礼を言うと、署に請求書を出すよう伝える。
そして、速やかにこの場を離れるよう指示した。
富久山が、玄関のドアノブに手をかけた。
中から働く力があったのか――富久山がドアを引く力を込める前に、勢いよくドアが開かれる。
ドアが開いた直後――御手洗が見たのは、中から勢いよく飛び出す裸足の少年。
ドアが開いた瞬間――御手洗が聞いたのは、『カチッ』という無機質で小さな音。
そして、すぐあとに続いた『ボンッ!』という、衝撃を感じるほどの大きな音であった。




