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いじめられてみた  作者: ケト
捜査されてみた
37/65

37話 聞き取り結果(五)

「あぁ、そういえば――中津江なかつえ大悟だいごのことを話してなかったな。こっちも、話の流れで元旦那もとだんなと呼ぶとする。

 元旦那への聞き取りでは、二つのことがわかった。うち一つは、新たな情報というか、既出の情報の上書きだが――」


 まず、ひとつ目。

 元旦那は、元嫁の浮気調査を誰にも依頼していなかった。

 元旦那が浮気をしていたこと、家にその浮気相手を度々連れ込んでいたこと、元嫁との離婚を望んでいたこと――これらは事実だと、認めていた。

 だが、具体的に離婚を迫るようなことは考えていなかったらしい。


 そして、ふたつ目。

 十一月八日の夜、元旦那が息子の行方不明者届を署に提出した際のこと。


『六日の夜に、息子が友達の家に遊びに行くと言って家を出たきり帰ってこない』


 この証言が誤りだったことが判明した。


「――実際は、元旦那はその夜、例の浮気相手と飲み歩いた後、二人でホテルに宿泊。帰宅したのは翌日、七日の午前十一時頃だったという」

「なんだってそんな嘘を。息子の失踪に関わる重要な情報でしょうに」

「まぁ、女癖が悪いってやつだな。届出したとき、署の窓口にいたのが若い女の子だったから、つい違うことを言ってしまったんだと」

「最低な男ですね。まぁそんなことはいいとして。とりあえず言えることは、中津江将太を最後に見たのが、『六日の夜に、父親が』ではない、ということですね」

「あぁ。六日の放課後、家に帰る途中まで一緒にいた友人の、阿部あべ陽斗はると山部やまべ陽翔はるとが最後に会った人物。そして、別れた時間は午後五時頃だったという」


「じゃあ、中津江将太が連れ去られたと考えられる時間は……友人と別れた午後五時から、翌日父親が帰った午前十一時頃までの間。

 そして、連れ去られた場所は、友人と別れた場所から家までの道のり――あるいは家の中、もしくは翌日の外出先、ということですかね」 

「そうだな。そして、それが、元旦那への聞き取りで得られた中で、最も大きいもの。『家の中で連れ去られた可能性』が出たことだ。

 そしてここで、仮説に戻るとするが。

『中津江将太が、家の中で連れ去られた』とすると、犯人がする準備、そして連れ去る手段は?」


 富久山ふくやまは、またも推理もののドラマのシナリオを語るかのように、自身の仮説を続けた。


 

 ――まず、準備について。

 一つ、玄関から『普通に』家の中に入れるようにすること。

 一つ、その時間にターゲット一人だけが家にいる状態をつくること。


 次に、手段について。

 夜遅く、中津江将太が寝た時間を見計らい、父親が帰ってきたのを装って家に入る。

 何らかの手段で気を失わせて、連れ去る。


「家に普通に入るには……あぁ、そうか。カメラを設置するために借りた鍵ですか?」

「あぁ。元嫁なんだが、例の五月十七日、離婚を決定付けた日以降は、慌ただしかったらしい。

 鍵を返してもらうのをすっかりと忘れていたようだ。離婚後にふと思い出したが、今さら他人の家の鍵などどうでもいいと思ったらしい」

「夫婦を離婚させたことで、元嫁は確実に中津江家にはいない。元旦那が夜遊びに出れば、家には少年一人しかいない状態、ということか……。

 連れ去る手段は――まぁ、何かで眠らせるとか、でしょうかね。父親が帰ったと思って油断しているところなら、犯行もしやすかったでしょうし」


「あぁ。中津江将太が『何者かに連れ去られた』ことがわかり、そして『連れ去った手段』の仮説が立てられた。

 次に、連れ去った人物だが――」



 これまでの聞き取りで登場した、Kと関係のありそうな人物は、『ケト』と『八手やつで』の二人。

 『ケト』はKが子猫につけた名前と同じ。

 そして『八手』だが――こちらの関係は確実と言えるものではないが、Kの動画『やってみた』の『やって』とも読めるのだ。

 

 そして、連れ去るための準備。

 これらが最後の二本の動画を配信する以前にされていることが、手掛かりの一つと考えられる。


 これまで容疑者として挙げられていたのは、Kの他、いじめ加害者を恨む人物、あるいは模倣犯など、動画に影響された人物が含まれていた。


「――だが、この仮説からは、『KあるいはKの協力者』以外は、容疑者から外れることが言えるだろう」

「ここまではわかりました……。でも、富久山警部が『富田家の中に何かがある』と考えたのは? Kが関わっているとわかったから――それだけではないですよね?」


「これまでの聞き取り結果、そして得られた情報から立てた仮説。なんとなく、違和感を感じないか?」

「まぁ、なんとなく……というか、ずっと感じていたんですが。仮説を立てやすい手掛かりが次々と得られているな、と。富久山警部の話し方が整理されていて、そして上手すぎただけかもしれませんが」

「そうだな……例えば、これまで出てきた人物名、わざわざKの関係者と疑われるものにしなくてもよくないか?」


 富久山の問い掛けに、御手洗みたらいも思い当たることが多く、頷いた。


 まずは、その名前だ。

 ケト、八手など、わざわざKを連想させない、全く別の名前を使えば良かったのではないか。


 そして、手掛かりがわざわざ多く残されていること。

 例えば、五月十七日の夫婦喧嘩の映像だ。夫婦喧嘩の後に、元嫁は映像の入ったDVDを持ち帰らなかったらしい。

 それが、元嫁が実家に帰った後、実家にも届いたのだという。

 元嫁も見返したくないであろうデータを、わざわざ送る必要があったのか……。



「つまり、手掛かりをわざと残していた……? Kあるいは協力者の犯行であるという仮説が立てられるために……?」

「もしそうだとしたら――犯人は、中津江将太をどこに隠すと思う?」

「これまでの情報に出てきた場所。しかも、怪しいと考えられている場所ということですか? つまり、空き家か、富田家のどちらか……?」

「そう。元々、富田家が怪しい、という考えはあった。だが、さっき聞いた情報――防犯工事に九九九万円もかけたというもの。これが富田家が怪しい、という決定的な手掛かりになった。

 だから、もしも空き家に何も無かったら、富田家の中に何かある――いや、中津江将太が監禁されている可能性が極めて高い」



 富久山の説明が終わると、隣で聞いていた片平の携帯電話が鳴った。

 どうやら、不動産会社への聞き取りをしている大槻おおつき警部補からのようだ。


 絶妙なタイミングでかかってきた電話に、もしかしてカメラでも仕掛けられているのでは? 部屋の会話を見聞きしていたのでは?

 ――などと思った御手洗は、つい、部屋を見回してしまったのだった。

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