34話 聞き取り結果(二)
富久山がまず話をしたのは、木村沙妃への聞き取り結果だった。
ここには、特に重要と考えられる出来事が二つあるのだという。
「一つ目は『五月十五日に行われた、某有名男性アイドルグループの全国ツアー、その二日後の出来事』。二つ目は『中津江大悟の浮気調査』だ」
まるで小説のような説明を始めた富久山。
さっきまで離れた場所で弁当を食べていた片平も、いつの間にか御手洗の隣に座り、話を聞いていた。
「木村沙妃――何度も言うことになるから『元嫁』と呼ぶことにする。
元嫁は二年ほど前から、とあるKPOPの男性アイドルグループにぞっこんで、オフィシャルファンクラブにも入会しているらしい」
ぞっこん……? 片山よりも上を行きそうな昭和言語使いが現れた。
御手洗は、自分の中の昭和アンテナの受信レベルをMAXに設定したのだった。
「SNS上のつぶやきも、このグループに関するものがほとんど。他にも、コアなファンとの情報交換や意見交換をしていたようだ。
そんな中、四月中旬頃らしいが、『ケト』というユーザーにフォローされたのだという。
元嫁がぞっこんのアイドルに対するすさまじい熱量が伝わり、さらには共感できることが多いことがわかると、すぐにフォロー返しをしたそうだ」
ケトとは、Kが子猫につけた名前と同じではないか――片眉を上げて反応する片山と御手洗をよそに、富久山の話は続いた。
「相互フォローの後は、個人的なメッセージのやりとりもするようになった。そんな、ある日のこと――」
ケトから、
『代わりに全国ツアーに行ってもらえないか』
というメッセージが送られてきたのだという。
この全国ツアーのチケット、四か月前の予約開始後、ものの数分で完売したようだ。
元嫁は予約できずに涙を飲んだ一人だったらしい。
いつも一緒に行動する友人の都合が急に悪くなった。自分一人でツアーに行くのも悪いし、感想を語り合えないのもつまらない。
そんな理由で、元嫁に譲りたいのだという。
なんとなく怪しいという思いが消せない中、ケトからは、譲るための条件が二つ示された。
一つは『もう一人、自分がチケットを譲る人物がいる。その人と一緒に楽しんでくること』。
もう一つは『自分が予約したホテルに宿泊すること』。
せっかくなら、心から楽しんでくれる人に譲りたいし、気の合う同士でツアー後に感想を朝まで語りあってもらいたい。
あと、この日で期限が切れるポイントを使い切りたいから、泊まってくれるなら宿泊費はこちらで持つ――という補足もあったようだ。
「――当然、それは元嫁にとってはどちらも好条件。快く承諾したのだという」
なんという奇特な人がいるのだろう。
そんな素直な思いと、こんなうまい話があるものか、という疑い。
御手洗の頭には二つの思いが浮かんだが、天秤にかけたなら、きっと疑いの方が重いだろう。
「そして、ツアー当日のこと――」
片道三時間半かけて会場入りした元嫁は、グッズを一通り買い揃えると、自分の席に着いた。
ケトからチケットを譲り受けたというもう一人の人物は、既に隣の席に座っていた。
元嫁は、その人物が女性であると思い込んでいた。
だが、そこにいたのは、おそらく二十代前半くらい。スラリと背の高い男性であったという。
片桐と名乗ったその男は、元嫁の好み、どストライクであったらしい。
そのせいもあってか、最高に楽しい時間を過ごしたようだ。
ツアーが終わり、予約されたホテルに到着した二人。
ここで、予想外のことが判明する。
予約された部屋が二つだとばかり思っていたが、なんと二人部屋だったのだという。
しかも、ツアーの影響で、他に空き部屋は無い。
きっと、他のホテルにも空きは無いだろう。
それに、どうせ、語り尽くせば同じ部屋で朝を迎えていただろう。
諦めた二人は、同じ部屋に入ったのだった。
中ではベッドが二つに分けられており、そこは安心したという。
その後、一度外に出て近くのファミリーレストランで夕食をとった。
そこでも二時間語り合い、ホテルの部屋に戻ると、ツアーの感想や、お互いの話したいことをとことん語り合った。
思った通り、気が付いたら朝になっていたという。
「――元嫁曰く、さすがに、初めはちょっとドキドキした。だが、結局は何も起きなかったらしい。
実際のところはわからないし、そこは今回の事件とは関係してこないだろうから、深くは聞いていない」
元嫁と片桐の顔がわからない御手洗。
話に入りやすくなるよう、その二人には、自分が好きな演技派女優と、相棒の安積の姿を重ねていた。
富久山の語りが上手いのか、続きが気になる。
「次の日のこと――」
片桐と観光を楽しむと、元嫁は東に三時間半、片桐は西に三時間半と、それぞれ正反対の同じ距離に帰ったのだった。
片桐とのメッセージのやりとりは今でも続いているものの、その後、会うことは一度も無かったそうだ。
そして、帰宅してから二日後の五月十七日。
中津江夫婦の離婚を決定付ける、ある出来事が起こった。




