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いじめられてみた  作者: ケト
捜査されてみた
34/65

34話 聞き取り結果(二)

 富久山ふくやまがまず話をしたのは、木村きむら沙妃さきへの聞き取り結果だった。

 ここには、特に重要と考えられる出来事が二つあるのだという。


「一つ目は『五月十五日に行われた、某有名男性アイドルグループの全国ツアー、その二日後の出来事』。二つ目は『中津江なかつえ大悟だいごの浮気調査』だ」


 まるで小説のような説明を始めた富久山。

 さっきまで離れた場所で弁当を食べていた片平かたひらも、いつの間にか御手洗みたらいの隣に座り、話を聞いていた。


「木村沙妃――何度も言うことになるから『元嫁もとよめ』と呼ぶことにする。

 元嫁は二年ほど前から、とあるKPOPの男性アイドルグループにぞっこんで、オフィシャルファンクラブにも入会しているらしい」

 

 ぞっこん……? 片山よりも上を行きそうな昭和言語使いが現れた。

 御手洗は、自分の中の昭和アンテナの受信レベルをMAXに設定したのだった。


「SNS上のつぶやきも、このグループに関するものがほとんど。他にも、コアなファンとの情報交換や意見交換をしていたようだ。

 そんな中、四月中旬頃らしいが、『ケト』というユーザーにフォローされたのだという。

 元嫁がぞっこんのアイドルに対するすさまじい熱量が伝わり、さらには共感できることが多いことがわかると、すぐにフォロー返しをしたそうだ」

 

 ケトとは、Kが子猫につけた名前と同じではないか――片眉を上げて反応する片山と御手洗をよそに、富久山の話は続いた。


「相互フォローの後は、個人的なメッセージのやりとりもするようになった。そんな、ある日のこと――」


 ケトから、

『代わりに全国ツアーに行ってもらえないか』

 というメッセージが送られてきたのだという。

 この全国ツアーのチケット、四か月前の予約開始後、ものの数分で完売したようだ。

 元嫁は予約できずに涙を飲んだ一人だったらしい。

 いつも一緒に行動する友人の都合が急に悪くなった。自分一人でツアーに行くのも悪いし、感想を語り合えないのもつまらない。

 そんな理由で、元嫁に譲りたいのだという。


 なんとなく怪しいという思いが消せない中、ケトからは、譲るための条件が二つ示された。


 一つは『もう一人、自分がチケットを譲る人物がいる。その人と一緒に楽しんでくること』。

 もう一つは『自分が予約したホテルに宿泊すること』。


 せっかくなら、心から楽しんでくれる人に譲りたいし、気の合う同士でツアー後に感想を朝まで語りあってもらいたい。

 あと、この日で期限が切れるポイントを使い切りたいから、泊まってくれるなら宿泊費はこちらで持つ――という補足もあったようだ。


「――当然、それは元嫁にとってはどちらも好条件。快く承諾したのだという」


 なんという奇特な人がいるのだろう。

 そんな素直な思いと、こんなうまい話があるものか、という疑い。

 御手洗の頭には二つの思いが浮かんだが、天秤にかけたなら、きっと疑いの方が重いだろう。



「そして、ツアー当日のこと――」


 片道三時間半かけて会場入りした元嫁は、グッズを一通り買い揃えると、自分の席に着いた。

 ケトからチケットを譲り受けたというもう一人の人物は、既に隣の席に座っていた。


 元嫁は、その人物が女性であると思い込んでいた。

 だが、そこにいたのは、おそらく二十代前半くらい。スラリと背の高い男性であったという。

 片桐かたぎりと名乗ったその男は、元嫁の好み、どストライクであったらしい。

 そのせいもあってか、最高に楽しい時間を過ごしたようだ。


 ツアーが終わり、予約されたホテルに到着した二人。

 ここで、予想外のことが判明する。


 予約された部屋が二つだとばかり思っていたが、なんと二人部屋だったのだという。

 しかも、ツアーの影響で、他に空き部屋は無い。


 きっと、他のホテルにも空きは無いだろう。 

 それに、どうせ、語り尽くせば同じ部屋で朝を迎えていただろう。

 諦めた二人は、同じ部屋に入ったのだった。

 中ではベッドが二つに分けられており、そこは安心したという。



 その後、一度外に出て近くのファミリーレストランで夕食をとった。

 そこでも二時間語り合い、ホテルの部屋に戻ると、ツアーの感想や、お互いの話したいことをとことん語り合った。

 思った通り、気が付いたら朝になっていたという。


「――元嫁曰く、さすがに、初めはちょっとドキドキした。だが、結局は何も起きなかったらしい。

 実際のところはわからないし、そこは今回の事件とは関係してこないだろうから、深くは聞いていない」


 元嫁と片桐の顔がわからない御手洗。

 話に入りやすくなるよう、その二人には、自分が好きな演技派女優と、相棒の安積あさかの姿を重ねていた。

 富久山の語りが上手いのか、続きが気になる。

 

「次の日のこと――」


 片桐と観光を楽しむと、元嫁は東に三時間半、片桐は西に三時間半と、それぞれ正反対の同じ距離に帰ったのだった。

 片桐とのメッセージのやりとりは今でも続いているものの、その後、会うことは一度も無かったそうだ。


 そして、帰宅してから二日後の五月十七日。

 中津江夫婦の離婚を決定付ける、ある出来事が起こった。

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