33話 聞き取り結果(一)
「まずは、中津江将太を除く、いじめ加害者と称される少年二人への聞き取り結果から話そう。
昨日、俺が聞き取りをしたのは、阿部陽斗の方だった。
停学処分も終わり、登校を再開したと聞いていたが――その日は平日の午後一時過ぎにも関わらず、自宅にいたようだ」
「動画以降は、中津江家までとはいかないでしょうが、いたずらや脅迫まがいの電話、メッセージなんかが多かったことでしょう。
そんな中で、いじめ加害者と称された三人のうち一人が失踪したんだすから。身の危険を感じるのは当然ですね」
「あぁ。明らかに何かに怯えている目だった。それが、俺が警察官であるとわかった瞬間、何かにすがるような輝く目に変わったからな。
両親によると、中津江将太が失踪した翌日の十一月九日、月曜日だな。その日から、学校への登校はおろか、部屋からもほとんど出なくなったらしい」
「聞き取りできる精神状態だったんですか?」
「結果、聞き取りはできたんだが――とても正常とは言えないだろう。
最初に口を開いたのがその少年からで、その言葉が『お願いします、助けてください!』だったからな」
富久山は、手元のパソコンを操作すると、とある画像を表示させた。
「これは、阿部陽斗、山部陽翔、そして中津江将太の三人によるグループトークの画面を撮影したものだ。
十一月八日、午後十一時。中津江将太から送信された二件のメッセージ、そして一枚の画像を最後に、そのやりとりは終わっている」
御手洗は、画面に顔を近づけ、表示された二件のメッセージを見た。
ポップな吹き出しの中には、『次はお前らだ』『安心しろ、殺しはしない』という物騒な文字が表示されている。
富久山の操作により、今度は添付されていた画像データが拡大表示された。
写っているのは、どこかのリビングだろうか。そこには三人掛けのソファが置かれている。
そして、そのソファに目を閉じて横になっているのは――どうやら、メッセージの送信者である中津江将太のようだ。
寝ているのか、気を失っているのか。はたまた、生きているのか死んでいるのか。それは、画像からは判断し難い。
また、もう一つ、ソファの上には何かが置かれていることに気が付いた。
それは、リアルな猫の被り物だった。
「中津江将太の行方不明届けが提出されたのが、八日の午後七時頃のこと。メッセージが送信されたのがその後、十一時だから……友人の二人にも、失踪したという情報は伝わっていたでしょうね。
そこで、失踪したはずの本人から、しかも犯行予告めいたメッセージ――さらには、こんな画像まで送られたら……Kの言うとおり『震えて眠れ』というか、眠れませんよね」
「中津江将太を連れ去った何者かが、少年の携帯電話で写真を撮り、メッセージを送った。
そして、この被り物。動画でKが被っていたモノと同じだと思われるが、どう思う?」
「はい。動画で嫌というほど観たので、これは間違いなくKが被っていたモノと同じです。
ただ、この被り物……割と手に入りやすいモノらしいんですよね。だから、同じモノとは言えますが、Kのモノとは断定できない。
これだけでは、Kによる犯行とは言えないですね……」
「そうだな。ここでわかったのは、あくまでも『中津江将太が何者かに連れ去られた』ということだけだ」
パソコンの画面が、少年が写る画像から元の報告書データへと戻された。
報告書を表示してはいるものの、富久山は断片的な情報だけを確認するだけで、ほとんどの情報は頭に入っているようである。
情報をアウトプットしながら、さらに頭の中を整理しているようにも見える。
「そして次に、動画でKが扮したとされる二人の人物について。いずれにも接触している少年二人に、その外見、特徴の聞き取りをした結果だ」
実際にいじめられるために扮したのが『富田恵介』。
そして、損害賠償請求のことを加害者に伝えるために扮したのが『弁護士』であった。
「まず、富田恵介に扮した人物のことだが。聞き取りした二人とも同じ意見で、『まさに富田恵介本人だと思った』という。
身長は一六五センチメートルくらい。顔はマスクと眼鏡、そして前髪で隠されており、見える範囲が狭かったようだ。
それでも、四月に数回見た本物の富田恵介と、目のあたり、そして雰囲気もほとんど同じだったと思う、と言っていた」
数回しか会っていないとは言っても、そのうち二回は、富田恵介の家までの道中を一緒に歩いているのだ。
身長や雰囲気の情報は信じても良いのではないか。
何より、午前中に片平と推定した身長とほぼ同じだったのだ。
「そして次に、弁護士に扮した人物のこと。こちらも二人、概ね同じような特徴を言っており、『四十歳前後の男性』『身長は一七五センチメートルくらい』『富田恵介ではあり得ない』というものだ。
年が近いということで、念のためだが、富田恵介の父親の写真を見せてみた。まぁ、当然だが、全く違う印象だったみたいだがな」
「つまり、富田恵介に扮した人物と、弁護士に扮した人物は、別の人間……」
「そう考えられるな。ちなみに動画を配信していたKだが――動画から推定される身長、何よりも最後の自殺映像から、富田恵介に扮した方の人物、と考えていいだろう。
そして、Kとは別の人物が存在し、動画に大きく関わっている。その人物は、ほぼ間違いなくKの協力者だろう」
K単独の行動である、という御手洗の勘は外れたようだ。
口に出さないでおいて良かった。
御手洗は一瞬だけそう思うと、その『勘』をハンマー投げのように彼方へと放り投げ、すぐに忘れ去ったのだった。
富久山は一息吐くと、手元の缶コーヒーを一口飲み、話を続けた。
「次は、中津江将太の父親である中津江大悟。そして、その中津江大悟の元妻である木村沙妃への聞き取り結果だ。
まず始めに言っておくが――今から話す内容の大部分が、中津江大悟、木村沙妃の離婚に関することだ。
本来なら他人の離婚原因なんて聞いても仕方がないことだろう。
だが、この離婚が今から三か月前の、八月五日のこと。
Kの動画準備期間中に起きた出来事である以上、調べる必要があった――ということをわかった上で聞いてもらいたい」




