32話 富田家(二)
「次に、実際にここで直接話をしたという契約者のことを聞きたいのですが」
「えっと、それは八手さんのことですか? それとも、富田さんのことですか?」
「富田さん? ……ここでは八手さんと話をされたのではないのですか?」
「ここで話をした相手は、富田さんです。契約者の八手さんから、家の所有者である富田さんと直接話をしてほしい、と言われましてね」
結局、Kの情報は得られそうにないのか――そんな落胆をする御手洗を横目に、片平はバッグから写真を取り出すと、亀田に見せた。
「あぁ、富田さんの写真ですね。ここで話をしたのは、この方に間違いないです」
冷静な聞き取りをする片平に、ただただ畏敬の目を向ける御手洗。
だだ、ふと気になったことがあり、亀田に別の質問を振る。
「ちなみに、工事費はいくらくらいだったんでしょうか」
「――九九九万円ですね。一応、一千万円という予算の上限があったらしいんですが。見積でギリギリだったときの富田さんの笑顔が印象的でしたからね。よく覚えてますよ」
工事の相場がよくわからない御手洗だが、それでも高いと感じてしまう。
果たして、家主が不在の住宅を守るためだけに、これだけの工事をする必要があったのだろうか――そんな疑問を抱いた。
と同時に、『富田家の中に何かがある』という疑いはさらに強くなったのだった。
いくつか質問をした後に、亀田に礼を言い、話を切り上げる。
富田家へと向かう車中で、御手洗がその疑いについて語ると、片平も同じことを考えていたようだった。
「富田家を頑丈にした最大の目的。それは家への侵入を防ぐため。つまり、家の中に何かを隠している――」
「はい。今、一番安全な場所が富田家と言っても良いのではないでしょうか」
「安全とは言ってもだな。今一番注目されている家でもあるから、自由に出入りできないんだぞ?」
「家の外でやるべきことは、捜査本部設置前に全て済ませているのではないでしょうか。家に潜むのであれば、これほどにお金を惜しまない人物ですから、半年くらい中に籠る準備もしているでしょう」
「それで――今、富田家に向かう理由は?」
「メーターを確認したいと思ったんです。水道と、あと電気の」
「動いていれば中に人がいる可能性がある――か。でもな、残念だが。富田家は常に『適正な維持管理』がされているんだ。そのためには、水も電気も惜しみなく使用され続けているだろうな」
「……あ」
「どうする? 行くの止めるか?」
「い、一度、家を見てみたいと思ったんですよね……あはは。家の前を通って、車窓から眺めて帰りましょう」
十二時四十五分。
捜査本部へ戻ると、捜索班の富久山警部が一人、パソコンを眺めながら弁当を食べていた。
渋い表情の富久山に聞き取りの結果を尋ねられた片平は、『Kの素性に関する情報が得られなかったこと』『明らかとなった工事費用から、富田家の中に何かがある可能性が高まったこと』を報告する。
「そうか……もし、Kが借りたとされる空き家に何も無かったら、すぐにでも富田家に入る必要があるかもな。
わかった。今から本部長に連絡して状況報告をする。空き家の捜査結果によっては、すぐにゴーサインが出る可能性もあるから、二人は家に入る手段を整えておいてくれ」
急な展開に、二人は富田家の防犯事情を整理した。
玄関のドアは、銀行の金庫並みに厳重。
全ての窓には、外からは開けることのできない超頑丈な雨戸が付いている。
建築会社への聞き取りから、マスターキーを含む全ての鍵を、家の所有者である富田一家が持っている、ということも判明していた。
よって、家に入る手段としては、『何とかして玄関のドアの鍵を開ける』か『家の一部を破壊する』が挙げられる。
だが、どう考えてもとるべき手段は前者だろう。
片平から鍵屋の手配を頼まれた御手洗は、過去の事件で鍵開けを依頼したことがある鍵屋に連絡をとった。
まずは『金庫並みに厳重なドアを開けることが可能か』を確認する。
鍵屋から『確約はできないが、鍵が最近つけられたものなら開けられる可能性が高い』という回答を聞くや否や、鍵屋の予定を確保したのであった。
時刻は午後一時半になったばかり。
空き家捜査班が戻るまでは、まだ幾分の時間があるだろうと思われる。
現在の捜索状況を確認するため、御手洗は富久山警部に話しかけた。
片平も、部屋の隅で弁当を食べながら、『耳で聞いてる』という素振りを見せる。
「富田家に入る決断がやけに早いと感じましたが、捜索の進捗と何か関係があるんですか?」
「あぁ、そうだな。もしも、だが――中津江将太の失踪が、何者かが連れ去ったものだと考える。
連れ去るのが目的であった場合、犯人が準備するのは、『少年を連れ去る方法』そして『監禁する場所』だろう。
そして今日の午前中までの聞き取りから、少年を連れ去ったと思われる方法と、その方法をとることができた人物――つまり『犯人と思われる人物』が浮かび上がった。
そして、その人物が犯人であった場合、監禁場所は富田家である可能性が極めて高いと思われる」
富久山はそう言うと、
『中津江将太を除く、いじめ加害者と称される少年二人』
『中津江将太の父親である中津江大悟』
『中津江大悟の元妻である木村沙妃』
四人への聞き取り結果。
そして『KあるいはKの協力者による犯行の可能性』について言及した。




