30話 K班(四)
「――Kの話に登場するアニメとかキャラクターって、古いと思うんですよね。僕と相棒は二人とも平成生まれなんですけど、ピンと来ないものがほとんどで、ネットで検索してようやくわかりました。
――なので、Kは昭和生まれではないか。というのが、僕らの考えです」
「でも、昔のアニメを観る手段は今の方が格段に多いだろう? 昭和アニメのオタクって線もありえるんじゃないか」
「それにしても、表現だって、いちいち古いような気がするんですよね」
「まぁ、確かに。俺ら世代がドンピシャな感じもするな。仮に昭和のアニメをリアルタイムで観ていたと考えると――四十歳前後くらいか?
とりあえず、今後Kと直接接触した人への聞き取りで、ある程度の人物像が浮かび上がることを期待しよう。
ただ、もしも、これまでとは全く違う人物像が浮かび上がったら――『動画に関わっているのが、K一人だけではない』という線も考える必要があるな」
確かに、特殊メイクの線を考えるよりも、『富田恵介に扮した人物』と『弁護士に扮した人物』が別であると考える方が現実的であろう。
それは理解しているつもりの御手洗だが……どこか、疑問を持ってしまう。
ケッチャンネルのファンだから、というのもあるかもしれない。なんとなくたが、『Kは、嘘だけはついていない』と思うのだ。
ただし、勿論何の確証も無い。完全に御手洗の勘であるため、誰にも言えないことなのだが。
次に、Kが直接接触したと考えられる人物について整理を始める。
「まずは、富田恵介に扮した際の接触者ですね。
『中津江将太』
『阿部陽斗』
『山部陽翔』
いじめっこと称された三人が挙げられます」
「中津江将太の両親、その他二人の少年本人とその両親には、既に捜索班が聞き取りをしているようだな」
「しかし、どうでもいいんですけど――『はると』って名前、人気ありますよね。ここでも三分の二ですよ?
スーパーとかで、どこかの親が子供に『はる』とか『はると』って呼び掛けるのをよく耳にしますしね」
「……本当、どうでもいいな。まぁ、でも、乗っかってやるとすれば。お前の相棒の名前『安積翔太』の『翔』って漢字の方が、今も昔も人気なんじゃないか?」
「あぁ、ですよね。自分の名前、別に嫌いではないんですけど……正直、『翔』に憧れを抱いたこともありますよ」
「まぁ、どうでもいい話は置いといて――」
「その『置いといて』って、Kもよく言ってましたよね。それ、昭和のギャグか何かですか?」
「ん? ……えっ!?」
自身が異世代からの転生者だと認識し、何とも言えない表情をする片平――は、置いておくことにして。
御手洗は、話を次の接触者へと移す。
「他にKと接触したと考えられるのは、当然、富田一家ですね。ただ、富田一家は世界旅行へと旅立ってしまったので。聞き取りするには、まずは足取りを追うことになりますが」
富田一家の足取りで、今わかっている情報としては、十月一日に新幹線で東京に向かい、夢の国リゾートに行ったこと。
その後は、フェリー等で沖縄に行ったこと。
そして、絵ハガキの消印から、十一月一日にはフランスにいたこと、だ。
十月一日の、夢の国周辺のホテル宿泊者を調査すること、十月二日の沖縄行きのフェリーの乗客を調べること自体は可能であろう。
ただし、正直、その後の足取りを追うのは難しいと思われる。
「足取りを追う労力に比べて、聞き取りの成果がそこまで大きいという保証もないですよね」
「そうだな。富田一家の足取りを追うのは、一旦置いておこう」
片平は、何かモノを横に置くような仕草と共に、またも異世代言語を使ったことには気づいていない様子。
面倒臭いため触れないでおこうと、御手洗は次々と話題を振る。
「あと、Kが直接関わったと考えられることですが。『防犯会社のキャンペーン』『防犯工事』『空き家の賃貸契約』の三つでしょうか。
まず、キャンペーンですが。富田大介の両親から借りたチラシから、某大手防犯会社の名前が挙がりましたね」
「おそらくだが、その防犯会社が実施したキャンペーンとは考えにくいだろう。Kが動画のためだけにつくりあげたものである可能性の方が高そうだ。一応は当たってみるがな」
「次に、工事についてですが。隣人からの情報により、施工会社が明らかとなりましたね。おそらく、発注をかけたのも、工事費を支払ったのも、K本人であると思われます。
でも……本当の名前や住所を使っているとは考えにくいですね。何か手がかりがあるかもしれませんから、聞き取る価値はあるでしょうけど」
「そして最後、現時点で期待が持たれるのが、Kが借りたとされる『空き家の賃貸手続き』だな」
「はい。賃貸契約をするには、住民票や身分証明書などの書類を提出する必要がありますからね。Kの情報が得られる可能性が最も高いと思われます。
さらに、もし現在まで契約中であれば、その物件にKに繋がる何かが残されているかもしれない。もしかしたら、Kの遺体がある、なんて可能性もあり得ます」
これらのことから、『Kが賃貸契約した空き家』の捜査が最優先事項となっていたのだった。
捜査班は今日、富田家周辺の住宅を管理する全ての不動産会社を訪れ、四月以降に賃貸契約がされた空き家について、聞き取りを開始している。
「あと、Kが購入したと考えられるものですが。メモしたもの自体は多かったんですけど、ある特定の場所とか時期にしか買えない、というものはほとんどありませんでした」
「そのようだな。あったとしても、Kの所在が氷山市であるとは限らない、というのが大きな問題だがな。
わかるのは、いじめの舞台が氷山市の氷山高校だったというだけ。Kが動画配信の拠点としていた部屋は、動画からの情報だけでは全くわからないし、それこそ海外なんて可能性もあるからな」
「流暢な日本語を喋ってましたけどね。異世代……じゃなくて、昭和言語でしたけど。
ところで、ふと気になったんですが。海外に元号ってあるんですか?」
「何で今、ふと、そんなことが気になるんだよ。昔は中国とかにあったんじゃないか?
たしか『いんしゅうしんかんぼくのふね』って覚え方だっけ? 今は日本にしか無いらしいけどな」
「へぇー」
ぼくのふね、は元素記号のやつですよ。そうツッコミかけた御手洗。
だが、元素記号も略せば元号だな――などとも思い、とりあえず後半に披露された知識に、ボタンを押す仕草をして応えた。
もしかしたらこの仕草も『平成中期の反応』と言われる日も近そうだ。
平成時代と言われるのは全然マシ――そう思い込むことにした御手洗。
次は『Kが発言した情報』の話題を振るのだった。




