29話 K班(三)
「――以上が、動画確認から得られた情報となります。明らかに捜査対象とならないものは、既にリストから除外しています。
我々二人だけでは判断できないもの、特に最後の二本の動画から得られた情報は、ほぼ全てを挙げています」
御手洗が報告を終えると、まずは最優先事項が決められた。
次には、これまでの班分けが白紙となり、今度は捜査班と情報整理班の二班に分かれることに。
最優先事項は『Kが賃貸契約した空き家』の捜査に決まる。
班分けは、まずは捜査班が警察本部の大槻警部補と安積巡査の二人。
そして、情報整理班は氷山警察署の片平警部補と御手洗が担当することになった。
本部に残った情報整理班二人。
まずは、現在のリストからKの素性特定につながるものを整理することにする。
「第一に、Kの外見を特定できる情報――というか、本人の素顔が映ってる映像があるな」
「そうですね。最後の動画の、一番最後に映し出された『Kの自殺映像』。それと、いじめ現場を撮影した『監視カメラの映像』。
この二つの映像に映っている人物が、K本人であると考えられます」
御手洗は、動画映像から切り取った画像を、ディスプレイに映し出す。
ちなみに!これらの画像は既にプリントされ、本部に設置されているホワイトボードに大きく貼られている。
だが、画面で観た方が解像度が高く、格段に見やすい。
ただし、画像が鮮明であるのにも関わらず、何度見ても人物像が掴めない。そんな、悩ましい画像だった。
死を覚悟したその顔は真っ白く、その表情は喜怒哀楽のどれにも当てはまらないように思えるのだった。
「いじめ被害者に扮した、とK自らが言っていた。だから、この顔は『富田恵介』に近いものだろう――って、普通は思うよな」
片山の呟きを聞くと、御手洗はパソコンを操作し、動画の画像と富田恵介の画像とを横に並べる。
富田恵介の画像は、片平が富田一家の情報を報告したときに使われていたもの。富田大介の両親に提供してもらった写真のスキャン画像である。
「先入観があるせいか、なんとなく似ているような……全く似ていないような。
見る人によって意見が分かれそうですよね。顔認証ソフトを使えば、どれだけ一致しているのかわかるかもしれませんが……果たして数値化したところで意味があるのか、わからないですけど」
「この動画の画像だけどな――実は、富田大介と恵子の両親に聞き取りしたときに、見てもらったんだ。
先入観無しに見てもらうために、『この顔に見覚えは?』とだけ言って。
結果、四人の最初の反応は全て同じだったんだが、どうだったと思う?」
この話の流れ。そして勿体振るということは、期待に添えるような結果ではなかったのだろう。
御手洗はそう予測しつつ、答えを待った。
「四人とも『孫に似ている』と言っていた」
似てるんかいっ!
と、心の中で突っ込みを入れる御手洗だが、悟られないよう冷静に意見する。
「じゃあ、やっぱり、Kは富田恵介の顔をつくったのでしょうか」
「まぁ、似せてきたのは間違いないだろう。マスクをつけること前提で、見える範囲だけをいじった――って言ってたからな。少なくとも、目だけは整形でもしたんじゃないか」
「……目だけで、そんなにいけるもんですかね」
そう言いつつと御手洗は、マスクをつけメイクをするだけで、とある芸能人に似せる――という、一時期テレビによく出ていた人物を思い出した。
今回の場合は高校一年生の男子なので、メイクなどをしたら普通はバレそうだが。
ただし、プロ級の特殊メイクならば、もしかしたらいけるのでは、とも思った。
次に御手洗は、いじめ現場の監視カメラ映像を再生した。
映像データは、捜索班が氷山高校への聞き取りをした際に、担任の先生から提供を受けたものだ。
映像は三種類あり、富田恵介の部屋、富田大介と恵子の寝室、そして、玄関を映すもの。
御手洗が再生したのは、玄関の映像。家へと入った四人を、唯一真っ正面から映し出しているのだ。
他二つの映像は、いじめ現場の証拠としては十分だが、いじめ被害者に扮するKの顔はほとんど映っていなかったのである。
カメラを設置した本人が、意図的に映らないようにした、とも考えられるが。
「真っ正面からの映像ですけど――顔にはマスク、髪の毛は目にかかるくらい長い。しかも、眼鏡をかけているせいか、ほとんどわからないですね」
結局、わかったのは、最後の動画で晒したKの素顔は間違いなく富田恵介に似ている、ということ。
顔以外の情報としては、いじめ加害者と称される三人と比べると、やや身長が低い、ということだった。
本物の富田恵介の身長は、中学三年生のときの身体測定の結果が一六三センチメートル。
前回の測定からおよそ一年が経過しているが、大きく変わっていたとしても二、三センチの伸びであろう。
よって、現在は一六五センチメートルくらいの身長であると推測された。
当然、富田恵介に扮したKの身長も、それに近いものであると考えられる。
もしもKが成人男性であれば、接触した人からすると『平均身長より少し低い』という印象を受けるのではないだろうか。
御手洗はここで、ふと覚えた疑問を口にした。
「登校したのが十月二日。そして、自殺したのが十月二十三日。この間、Kは富田恵介に扮した姿のままだったのでしょうか」
「この後には、今度は弁護士に扮していじめ加害者の家に行ってるよな。
ちょっと前に、テレビ番組で特殊メイクだかマスクだかで別の人物に成りすますっていうドッキリ番組があったろ?
マスクと眼鏡でもかけてれば、それで案外いけるのかもしれないな」
それは、先ほど御手洗も同じことを考えた。
でも、果たして身長は誤魔化せるものではないだろう。
それなら、Kが扮したという弁護士のおよその身長でもわかれば、それが富田恵介に扮したKと同一人物かどうか、判断する材料となる。
片平にそのことを話すと、次に御手洗は、動画から浮かび上がる人物像について、昨夜相棒と話し合った内容を話してみることにした。




