28話 K班(二)
「まず聞き取りをしたのは、富田家の近隣住人だ。
平日の午前中ということもあり、在宅していて、聞き取りも出来たのは富田家の北隣の住人だけだった。
なお、この後の聞き取り全てに共通するんだが。富田一家を容疑者扱いしている、などと勘違いされないように、事前に聞き取りの目的を丁寧に説明している。まぁ、最善の注意を払っている、ってことだ」
画面には、住人への聞き取りで得られた情報が、箇条書きで表示される。
『八月頃――富田家の防犯工事』
『九月三十日――前日挨拶』
『十月一日――出発見送り』
「まず、一つ目。八月のお盆明けに突然、富田家の周囲が足場で囲われると、外壁工事が始まった。
たまたま玄関先で富田恵子と対面した住人が、そのときに会話をしたらしい。
富田恵子からは『防犯会社のキャンペーンの一環』との説明を受けたそうだ。
その住人からは、施工会社が近隣住人への挨拶周りをした際に配ったタオル、あと、現場代理人の名刺を貸してもらった。
施工したのは佐藤建築という、市内の建築会社だ。この情報はリストに追加しておいてくれ」
頷くと、御手洗は手元のデータの、防犯工事欄に会社名を追記した。
「二つ目。前日の夜、富田大介が近隣住人への挨拶まわりをしたようだ。
世界各地を巡り、帰るのは半年後の三月中旬頃になるということ。セキュリティや維持管理がしっかりされるため、近隣への迷惑はかからないと思う、ということを告げたのだという。
そして、三つ目。出発当日の午前七時半くらいにも、富田大介の訪問があったそうだ。
タクシーの運転手が大きな荷物を積み込むのを、息子の恵介が手伝っている様子も伺えたらしい。
なお、妻の恵子は駅で済ませる用事があり、一足先に出発したらしいな。
その後は、大介と恵介がタクシーに乗り込み、駅方面に向かうのを見送ったという」
画面は、次の聞き取り結果へと移った。
聞き取り相手の名前は『星辰夫・優子』、そして先ほどと同様に、聞き取りで得られた情報が箇条書きで表示された。
世界旅行の旅程だろうか、主に地名が記されている。
『新幹線で東京駅』
『夢の国リゾート』
『沖縄など、約十日間の国内旅行の後、飛行機・船・電車で世界各地を巡る』
「次に聞き取りをしたのは、富田恵子の両親だ。『星』は富田恵子の旧姓。前日にアポをとり、午後一時半に海津市の自宅を訪れた。
娘夫婦と最後に会ったのは、八月のお盆期間。娘の恵子とその夫の大介が日帰りで帰省し、そのときに世界旅行について、主には旅程の話をしたようだ。
その時点で判明している、ざっくりとした予定を聞いたのだという。
世界旅行とは言っても、はじめの十日間くらいは国内を巡るらしい。
まずは氷山駅から新幹線で東京へと向かい、千葉県にある某有名テーマパーク『夢の国リゾート』に行くと言っていたという。
その後は、飛行機あるいはフェリーで沖縄などを巡ったら、飛行機・船・電車で世界各地を回るのだという。
本当にざっくりとした旅程であるが、どこに行くかよくわからないのも、ドキドキして楽しい、とも言っていたという。
なお、旅行は数組でのツアーではなく、富田家だけの旅行。通訳兼案内人として二週間おきくらいに現地の人間がつけられる予定だったらしい」
その他、大介の仕事のこと、恵介の学校のことも話をしていたようだ。
だか、特に捜査対象となるような情報は得られなかったらしい。
この報告から、リストの世界旅行欄に、その時点の旅程を追加した。
次に、画面には聞き取り相手の『富田久男・和江』という名前と、得られた情報が表示された。
『防犯会社のキャンペーン広告』
『連絡手段』
『絵ハガキ』
「次は、富田大介の両親。午後四時過ぎに、福須磨市の自宅を訪れた」
先ほどの海津市は、氷山市から西に約六十キロメートル、この福須磨市は氷山市から北に約六十キロメートルに位置している。
どうやら、先行捜査班の二人は、昨日だけで車での移動を約二百五十km――おそらく六時間の運転をしたのだろう。にも関わらず、昨日帰ったときには疲れた様子を微塵も見せなかった。
さすがは警部補達。体も頑丈である、と改めて感心する御手洗だった。
「ここでの情報も三つ。これまでに出た情報は除外している。
先ほどの星家と同様お盆に、息子夫婦が日帰りで帰省したときの情報だ。
一つ目は、息子の大介が持参した世界旅行のキャンペーン内容が書かれたチラシ。実家に置いて帰ったらしく、今回はそれを借りることができた」
チラシには、
『モニター募集中。半年間の世界旅行に行ってみませんか?』
という謳い文句。
動画に登場したものと同じだ。動画と異なる点は、そこに大手防犯会社の名前が書かれていること。
御手洗は、防犯会社のキャンペーン欄に、会社名を追記した。
「二つ目。これは、世界旅行に発った後の連絡手段について。
今のご時世、手続きをすれば海外でも携帯電話での通話やメールができるのだが、息子の大介は、『環境を変えること、旅行を最大限楽しむこと』を理由に、携帯電話は持っていかないと言っていたようだ。
ただし、安否を知らせる必要があるからと、『落ち着いたら手紙でも送る』とも言っていたという。
そして実際に、十一月三日、旅行から約一か月後に、絵ハガキが届いたのだという」
画面には、絵ハガキの両面を撮影した写真が表示された。
切手と消印をみるに、フランス……だろうか? 描かれたエッフェル塔と思われる絵の下には、
『パリに来ました。置き引きにあってしまい、写真は送れませんが、毎日三人元気に楽しく過ごしています』
と、メッセージが手書きで記されている。
「どうやら、フランスのパリから送られたものらしい。おそらく、現地で購入した絵ハガキだろう。
筆跡については、息子の大介のものに違いないだろう、と言っていた。
参考に、今年の正月に届いたという年賀状も撮影させてもらった。
年末年始には実家に帰ることができなかったらしく、新年の挨拶として年賀状だけが届いたのだ、と話していた」
次の画面では、パリからの絵ハガキに記された筆跡と、年賀状の筆跡を拡大表示で比較していた。
あまり癖の無い字ではあるが、なんとなく同じようには見える。
「以上が、昨日の聞き取り結果だ。じゃあ、次は、動画確認班だな。
今の報告内容での追加情報を反映できたら、報告をしてくれ」
先行捜査班の報告中、必要な情報の追記を終えていた御手洗。すぐに自分のパソコンとディスプレイを接続し、報告データを映し出す。
そして、報告を始めた。




