26話 動画調査(三)
――三十二回目の動画は、九月二十五日に配信されたもの。
十月十六日の生配信の中で『前々回の動画の視聴回数が五百万回を超えた』と言っていた、当時の視聴回数ナンバーワンの動画であったようだ。
タイトルは『実写漫画化を勧めてみた』というもの。
動画の右下、登録者数カウンターには『95234人(モウチョイ!)』と表示されている。
いつもと変わらない挨拶で始まると、すぐに本題へと移る。
「突然ですが、みなさん――漫画の実写映画化って、どう思いますか?
大ヒットする映画もありますけど、中には『キャラクターのイメージと違う!』とか『顔は似てるんだけど、声とか体型が違う!』とか、がっかりすることも多々ありますよね。
好きな漫画ほど、どうしても自分の中のイメージと比べてしまいます。
そこで、ケッチャンが今日お勧めするのが『漫画の実写漫画化』デス!
なんじゃそりゃ!? ですよね。
簡単に言うと、漫画を実写で漫画化するのです。
だから、なんじゃそりゃ!? ですよね。
漫画の吹き出しと台詞は漫画のままに、キャラクターとか背景、モノを実写化――『台詞付きの写真集』みたいなイメージでしょうか。
これなら、見た目と雰囲気がキャラクターにそっくりな人を見つけて、漫画と同じポーズで写真を撮るだけで済みます。
演技も声も、動きすら関係ありませんね。
モノとか背景は、できれば似た場所とかモノでの撮影が良いでしょうけど……これは合成の方が断然良いかもしれませんね。
例えば、スポーツ系とかアクション系の漫画だと、顔がいくら似ていても運動神経が良くないと格好悪いですよね。
ワイヤーアクションなんて、吊られてる感が強くてなんだかアレですし。
でもでも、写真ならポーズをとるだけでイケますよね!
――というわけで、実写漫画化をお勧めします!
ぜひ、どこかの、えぇと――出版社? お願いします!」
動画の中では、御手洗も観たことのある実写映画が一事例として使われた。
映画のワンシーンを切り取って、元の漫画のコマに貼り付けただけのもの。
サンプルは一ページだけであったが、なんとなく面白そうで、確かに人気漫画の一話分とかあったら見てみたいと思った。
なお、動画の最後には、
「全ページカラーだから分厚くなるし、値段も張りそうデスね……」
しっかりとデメリットにも、小さい声だが言及していたのだった。
次は十月二日、三十三回目の動画。
次の週は動画配信がされなかったことから、生配信前、最後の動画だ。
この動画のタイトルは『猫を飼ってみた』で、その名のとおり、飼った猫をお披露目するというもの。
猫の種類はチンチラシルバー。ちょっとつぶれた顔がブサ可愛く、歩く様子はまるでモコモコしたぬいぐるみのようだった。
リアルな猫の被り物を被った人物が、リアル猫を愛でる――という、何とも言えない不思議な光景を見せつけられた御手洗。
何となくだが、これまでとは趣が異なると感じていた。
結局最後は子猫頼りかよ、というコメントも多かった回である。
それでも、この回をもって登録者数が目標の十万人を突破したのは、言うまでもない事実なのだが。
ちなみに、猫の性別はメスで、『ケト』と名付けられていた。
おそらくペットショップで買ったであろう『子猫(種類はチンチラシルバー)』を購入リストに追記し、動画を停止する。
生配信された二本の動画を残し、全て堪能――いや、調査し終えた御手洗。
隣で調査中の相棒のパソコン画面には、ぬいぐるみのような子猫が歩いている様子が映し出されていた。
御手洗より数分遅いくらい、ほぼ同じ進度で観ていたようだ。
ちなみに相棒の顔を見ると、ニヤニヤしながら、最高の癒しタイムを満喫しているようだった。
相棒の癒しタイムが終わると、一旦、お互いがとったメモの付き合わせをした。
表現が違うだけで、モノとしてはほぼ同じ内容のようだ。
メモされたモノは、
『漫画約200冊(電子書籍か)』
『動画編集ソフト』
『業務用冷凍庫』
『ウォーターサーバー』
『ドライブレコーダー』
『超小型カメラ』
『監視カメラ』
『子猫、チンチラシルバー』
これらは全て、購入したと思われるモノ。
その他、発言からは素性や場所の特定にあたるような情報は一切得られなかった。
思ったよりも収穫が無く、ただ動画を楽しんだだけでは――と思われそうだが。情報が無いことがわかったのも重要な情報なのだ、と思い張ることにする。
なお、超小型カメラと監視カメラは、生配信前の二回の動画で登場したモノだった。
おそらくたが、生配信の企画用として使う前に事前に試したのではないか、と推測された。
時刻は午後四時過ぎ。
残る十月十六日と二十三日の動画は、二本合わせて二時間強の再生時間だ。
休憩も含めれば、観終わるのは午後七時くらいだろうか。
ちなみに、先行捜査班の今日の捜査対象は、動画でいじめ被害者と称されたミタ一家――富田家の、関係者への聞き取りであった。
事前の調べでは、富田家は父親の大介、母親の恵子、そして長男の恵介の三人家族。
午前中に近隣の住人、そして午後には父方と母方の両方の実家への聞き取りをする予定だった。
実家はどちらも県内ではあるが、それぞれ片道一時間ほどかかる距離にあるため、帰りはおそらく午後七時を過ぎるであろう。
残り二本。再生時間が長いのは勿論のこと、最も情報量が多いのも間違いない。
御手洗は立ち上がり大きく背伸びをすると、「よし、やるか!」と、自身と相棒に言葉を掛け、パソコンに向かい合ったのだった。




