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いじめられてみた  作者: ケト
捜査されてみた
23/65

23話 捜査本部(二)

 十一月十一日水曜日、午前十時半。

 氷山ひやま警察署刑事課の御手洗みたらい慎吾しんごは、第一回捜査本部会議で配布された資料に、改めて目を通していた。


 本部設置の背景を説明するこの資料。設置の次の日に準備されたにしては、よくまとめられていた。

 もともと、いじめの舞台が氷山高校であったことは、動画の直後に確認がとれていた。

 また、いじめ被害者と称された富田家に火炎瓶が投げられた事件も、氷山市で起こった事件だったのだ。

 捜査本部を設置するまではいかなくとも、警戒体制が敷かれた上で、既に何らかの捜査がされていたのであろう。



 午前九時から十時までに行われた第一回会議では、本部設置の経緯のほか、今後の方針について説明があった。


 任務の最優先事項は、当然であるが行方のわからなくなった中津江将太の捜索があげられた。

 少年の自宅周辺をくまなく捜索するとともに、関係者への聞きとりを行う。本部の半数である四名がこの任務に充てられた。

 また、この捜査に大きく関連するものとして、Kの素性捜査が次の優先事項とされた。こちらには御手洗を含む、残りの四名が充てられた。


 第二回会議は二日後、十三日の金曜日に設定され、各班での捜査状況を報告することとなった。

  

  

 ――会議後のこと。

 Kの素性捜査を担当する四名で打合せがされた。

 その結果、班の中でも任務を二つ設定し、それぞれ二名ずつ分けることになった。


 最後に配信された二本の動画から得られた情報をもとに、関係する人やモノから素性を辿る――いわば先行捜査をする二名。

 御手洗を含む残りの二名は、Kが過去に配信した動画全てに目を通し、捜査対象とする情報を追加する任務にあたる。


 動画の中に出てきたモノ、発言の中に出てきた場所やモノ、関係したとされる人物など。全ての情報を洗い出すのが目的だ。

 その後は、洗い出された情報を先行捜査班と共有し、捜査に合流する。



 捜査本部の一角。

 御手洗に与えられた作業スペースでノートパソコンを開くと、動画配信サイトにログインする。


 動画検索をする前から、おすすめ動画欄には既に『ケッチャンネル』が表示されていた。

 ケッチャンネルを開くと『35本の動画』とある。

 配信日を確認してみると、開始されたのは今年の一月三十一日、金曜日。その後は、毎週あるいは隔週の金曜日に配信されていたようだ。


 カレンダーで、初回配信から最後の配信までの金曜日を数えてみると、その数は三十九回。

 つまり、四回は毎週の配信がされなかった、ということ。


 間隔が二週間空いたのは、三月十三日、四月十日、七月十日、十月九日であった。

 それは、『配信しなかった』のか『配信できなかった』のか。

 いずれにせよ、何か手がかりになるかもしれないと思い、メモに追加する。



 次に、チャンネル登録者数を確認した。

 十月十六日の生配信で十万人突破を発表したその数は、この三週間で実に百倍の一千万人を超えていた。

 実は、御手洗もこの一千万人――いや、十万人のときより以前の登録者だった。


 あれは七月くらいだったろうか。何気なく観た動画、たしか『面白い名前を考えてみた』だったか。

 Kのトークと、ゆっくりボイスのキャラとのかけあいが面白く、チャンネル登録後は欠かさず視聴していたのだった。


 今回の捜査本部設置の際、上司からは『本部任命に係る要件』を聞かされていた。

 要件と言っても、満たす必要があるというものではない。満たしていると、なお望ましい、という推奨事項とのことだった。


 あげられた要件は『氷山市在住』『独身』『Kの動画を観たことがある』の三つ。

 本部が氷山市に設置されること、おそらく休日が無くなることはわかるとして。

 Kに関する何かしらの情報、あるいは印象を持つ者を推奨する、ということか。


 御手洗は、今年度巡査部長になったばかりの二十九歳独身。氷山警察署のすぐ近く、賃貸アパートに住んでおり、ケッチャンネルのファン。

 全ての推奨事項に合致している御手洗が任命されたのは、必至だったのだろう。

 あと、何となくだが……ミタライという名前が『やってみた』とか『ミタ君』に近い――というのは考え過ぎだろう。




 支給されたヘッドフォンを装着すると、まずは一番最初に配信された動画から観ることにする。

 御手洗にとっても、七月までの動画は初見。

 タイトルは『人気のウエハース開封してみた』というものだった。



「こんばんわー! ケッチャンです」


 御手洗が知る、そして最後の二本の動画とも変わらない台詞から始まった。

 画面には、リアルな猫の被り物を被った人物が映し出されている。

 カメラの角度もほぼ同じだと感じる。おそらくノートパソコンの内蔵カメラではないかと思われた。


 画面に見えるのは、その人物の鳩尾みぞおちから上半身、そして背後には真っ白な壁面のみ。

 猫の被り物は首の根元までを覆い、大きめのグレーのパーカーは、その体型の一切の推測を拒んでいる。

 さらには白い薄手の手袋をつけており、肌の露出は一切無かった。

 

 台詞は同じだが、発する声は、御手洗の知るものと違うように感じた。

 籠った声のせいで、人物の特定が難しいのは変わりない。

 それでも、どこかテンションと声の高さが違う――低い? ように思えた。

 初めての配信であり、場慣れてしていないからだろうか? 

 そう思いつつ、念のためメモに追加し、続きを観る。



 御手洗も耳にしたことがある、某人気スマホRPG。

 登場するキャラクターのカードが同封されたウエハースを十個買い、それを開封するだけ、という内容だった。

 はじめにラインナップを確認すると、Kが狙うキャラクターを発表。手袋のまま開封を始める。


 狙いのキャラは出なかったらしい。

 悔しがる素振りもあったが、それでも全体としては満足のいくカードが得られたようだ。


 最後には、

『次回は、開封したウエハースをいろいろな方法で食べてみた! を配信します』

 と予告があり、第一回配信は終了した。

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