20話 対処してみた(逃げる2)
……自殺? でも、どうせ『フリ』なんでしょ?
って、みなさんそう思いますよね。
でもね、本気なんです。半端な覚悟でいじめられてませんから。
実は今回も、生配信の時間を設定しています。
八十八分です。末広がりで良い数字ですね! ……終わっちゃいますけど。
そして、現在の経過時間は予定どおり六十九分。実は一分だけ遅れている……ボソッ。
残りは約二十分です。
これから、ケッチャンは最後の言葉を残して、自殺します。
ちょっと、画面の角度を変えますね。
見えますか? 天井にロープがぶら下がっています。先っぽには丸い輪っかができています。あと、足元には椅子を置いてあります。
いかにも、な状況ですね。
ちょっと、ロープに手でぶら下がってみますよ。
……ほら、すごい丈夫です。これならイケますね。
でもね、さすがに首を吊るところを配信するなんてできません。
ですので、画面の二か所に真っ黒いぼかしをかけます。
はい、かけました。こんな感じです。
一つはロープの輪っか付近。当然ですが、首にロープがかかるところ、そしてケッチャンの苦悶の表情はお見せできません。
もう一つは、足元、椅子の下付近。もしかしたら何か体液が垂れてしまうかもしれませんね。
見たくないでしょうし、何より恥ずかしいので。
一旦ぼかしを消しますよ。
それでは、ここで最後の言葉を残します。
この配信を観てくださっている皆さん。
前回の『いじめられてみた』、今回の『対処してみた』はいかがでしたか?
いじめは昔からある問題ですが、無くなりません。
何十年、何百年――何千年前からかもしれませんかね? 奴隷だって、いじめみたいなものでしょうから。
そう、無くならないんです。
無くそうとしても無駄なんです。いじめっこに何を言っても無駄なんですから。
じゃあ、どうすれば良いか。
戦争のことを考えますか。
これも昔から、完全には無くなっていません。
無くそうとはしています。でも完全に無くすことはできないとわかっているので、各国は『防衛』の策をとっています。
武力、兵器を持つことで、もしも戦争が起きたときには自分の国への攻撃を防ぐ。そして、守るためです。
いじめも同じように、無くならないものと捉えるべきです。
だから、『防ぐ』『守る』ことを考えるしかないのではないでしょうか。
このことを踏まえて、ケッチャンは四者、
『いじめ被害者』
『いじめ加害者』
『どちらでもない人、あるいはどちらにもなり得る人』
『国』
に対してお願いをして、人生を終えることとします。
稚拙な話であることは自分でもよくわかっています。
期待するのは、これをきっかけに、頭の良い人、アイデアの浮かぶ人達が議論して、より良い方法、手段を出してくれることです。
――まずは『国』に対して。
いじめは無くならない、だから『防ぐ』『守る』ことをしてください。
いじめが見えないところで起こるなら、見えるようにしてください。あおり運転対策にドライブレコーダーをつける車が増えていますよね?
同じように、レコーダーを体につける人が増えたらいいんじゃないですか?
カメラを付けた人をわざわざいじめないでしょう? あからさまなカメラにすれば、邪魔そうだけど盗撮目的では使えなさそうですしね。
あと、いじめが起きているのがわからないなら、把握してください。
いじめが原因の自殺が起きたら、その学校で調査をしますよね?
あれを全国一斉に、国勢調査みたいにやったらいいんじゃないですか? 既にやっているかもしれませんが。
そして、いじめの事実を把握したら、被害者を守ってください。
カウンセリングとか、心を守るのもいいですが、できれば『直接的に守る』ことを望みます。
大袈裟に言うと、ボディーガードをつけるとか、弁護士をつけるとか。
台風の進路予測と同じで、空振りでもいいじゃないですか。備えあれば憂いなし。
いじめっことその予備軍をビビらせるだけでも効果があるかもしれません。
――次に、『どちらでもない人、あるいはどちらにもなり得る人』に対して。
いじめっこにはならないでください、とは言いません。不可能なので。
だから、被害者になる前に、防ぐ、あるいは守る準備をしてください。
いざというときのために証拠をつくる、と言い換えてもいいかもしれません。
――そして、『いじめ加害者』に対して。
いじめるな、なんて言っても絶対にわからないでしょうから言いません。
言えるのは一つだけ。
『震えて眠れ』デス。
法の範囲内ではありますが、犯罪者は罰せられるべきです。
この配信、うぬぼれですが、きっと多くの人に観られることでしょう。
きっと、小さいことかもしれませんが、何かが起こることでしょう。
多くの加害者、もとい犯罪者に対して、何らかの制裁がなされることでしょう。
身を守りますか?
声を出す?
訴える?
逃げる?
まぁ、犯罪者には『逃げる』しかないですね。ご愁傷さまです。
でもきっと、死刑にはなりませんから、死ぬことにはならないので、そこは安心ですね。
はい、もう一度。『震えて眠れ』デス。
――最後に、『いじめ被害者』に対して。
ケッチャンは自分から、しかも一時のいじめを受けただけの、被害者もどきです。
こんなやつに『頑張れ!』とか『こうしたほうがいいよ!』なんて言われても、『いや、お前が頑張れよ!』で終わりでしょう。
だから、言いません。
代わりに、出来ることが一つだけあります。
ケッチャンが代わりに死にます。
だから、みなさん、死なないでください。
――残り十分ちょっとです。
ここで、ケッチャンに五分間だけください。
体内のものを全て排出するのと、心の準備をします。
画面を一旦、暗くしますが、異常ではありませんので。
五分経ったら映像を戻します。そこからはもう、説明はありません。
こんな、素性もわからないやつの薄っぺらい言葉なんて、きっと聞く耳をもたないでしょう。
これから自殺をしたとしても、たいした影響力が無いかもしれません。
でも、ただ死ぬわけにはいきません。
ですので、残りの人生をすべてつぎ込み、一世一代の芝居をして終わりたいと思います。
わたしは、いじめ被害者です。
いじめを受けて、精神的な痛みに耐えきれなかった。
自殺という選択肢しか出来なかった。
そんな、一人の、男子高校生です。
今までご視聴くださったみなさん。もしかしたら視聴回数が十回くらいのときから観てくれているなんて人もいるかもしれませんね。
今まで、本当にありがとうございました。
それでは、お別れです。バヒバヒ」
画面が暗転した。
画面上に5分00秒00と表示され、カウントダウンが始まった。




