18話 対処してみた(訴える3)
「話が終わったところで申し訳ありません。一つだけ、確認させてもらえますか? 監督責任のこともあるので。
プライベートなこととは存じますが、奥さまはいらっしゃらないのですか?」
「……二か月前に離婚しました。原因は、相手の不倫です。だから、親権はわたしが持っています……って、おい、ペンギン?」
「母さんのことなんて関係あんのかよ。プライベートなことだってわかってんなら、そんなこと聞くんじゃねぇよ。
だいたい、何で金なんて払う必要あんだよ。だって、借りたものは返しただろ?
学校来ない理由なんて、元々、ただ学校行きたくないだけかもしれないだろ。
不登校だとか被害者ぶってるけど、学校行かないで、家でゲームばっかやってんだろうが。
俺らだって、引きこもらないようにゲーム持ち出してやったって、そう言ってやってもいいんだぞ。
実際、あいつの母親も、ゲーム無い方がいいのかなってぼやいてたって、そう聞いたしよ。
俺らのせいにばっかすんじゃねえよ。だいたい、いじめられるやつが悪いんだよ」
「……続きは裁判所など、ちゃんとした場所で話しましょうか。こちらとしては、そちら側にそのような不利な発言をしてもらったほうが有難いのですが。残念ながら録音もされていませんしね。
では、これで失礼させていただきます。これ、わたしの名刺ですので。
長い付き合いになってしまうかもしれませんが、よろしくお願いします。では――」
静寂の中、フローリングをスリッパで歩く音だけが響いた。
暫くすると『ガチャン』というドアを開けるような音の後に、録音機の音声は途絶えた。
今度こそ終わりなのだろう。
ケッチャンが再度、全面に表示された。
「はい、以上です! ――おっかしいなー。録音を止めたはずなのに、間違えて違うボタンでも押しちゃったかな……?
すぐポケットに入れちゃったから、全く気付きませんでした。テヘペロ。
――どうでした? ペンギン親子、なかなかヤンチャだったでしょ?
まっっっっったく反省してないですよね。反省どころか、悪いことは何一つしてまっせーん! って主張してましたね。
そして、最後のペンギンの捨て台詞――ケッチャンがこの世で一番嫌いなヤツです。
『いじめられるやつが悪い』
これ言う人、本当にいるんですね。
観てくれている人の中にも、もしかしたらペンギンと同意見の方もいるかもしれません。
でも、敢えてもう一度、さらに強調して言います。
この世で一番、大っ嫌いな言葉です。
だってこれ、相手の気持ちを一切理解できない、する気の無い、いじめる側の人間しか言わない言葉ですから。
……気分が悪くなった人、本当にごめんなさい。
みんなのどよーんを晴らすのが今回の目的だったんですけどね。
じゃあ、いち早く晴らすためにも、この話題は一旦置いときますね。
ドスーン、ドガガガーン! あらま、あまりに重すぎて、置いたら床抜けちゃいました!
――では、『訴える』の講評に移ります。
今回は、映像証拠による事実をもって法的に訴えることにしました。
実際には、法的な手続きは取っていませんが。いじめっこの親に、一人当たり五百万円の損害賠償請求をする、ということを伝えただけです。
さて、金額的にはどうだと思いますか?
いじめられた末の不登校――という結果ではありますが、精神的苦痛は定量的な評価が難しいですよね。
なので、この請求どおりにいくか、あるいはもっととれるか……? それはケッチャンにはわかりません。
でも、まさかこれがゼロ円になることはないでしょう。
とは言え、金額の大きさなんて全く気にはしていません。
だって、罪の大きさを――いじめは犯罪だということを知ってもらいたい。それだけなんですから。
悪いことをしているのに気付かない人、人の心の痛みがわからない人。
そんな人に対しては、何を言っても無駄なことはわかってます。
今回のペンギン親子は、まさに典型的な、そんな人たちでしたね。
じゃあ、そんな人に対して、何をどうしたら良いのか。
わかりましたね? 証拠を持って、法的に訴えましょう! 以上!
いやぁ、何て簡単なことなのでしょう。
……え? 訴えた後が恐い? そもそも訴えること自体が恐い?
そう、ですね。正直に言いましょう。
ケッチャンも、ペンギン親子の前では震えてました。
音声だけでは伝わらないかもしれませんが、あの父親、メチャクチャ威圧的でした!
でもね、ケッチャンの場合、怒りで震えてたんですよ。
この人たちには何を言っても無駄。でも、途中からは逆に面白くなってきて、笑いを堪えるのに震えてましたけどね。
だって、そうでしょう? こっちはハナから訴える気でいるんです。訴える準備は万端なんです。
威圧的な態度が恐い? 仕返しが恐い?
それこそ、訴える材料が増えるだけじゃないですか。
証拠を得るのは難しいかもしれません。
でも、こんなやり方もあるんだと、そう思ってくれた方が一人でもいれば幸いです。スーパーサイワイマンです。
――それでは、次が最後の行動となります。
対処してみた、最後を飾るのは『逃げる』デス!