15話 対処してみた(声を出す2)
しばしの沈黙の後、ケッチャンと担任の先生のやりとりが再開した。
「もしもし、ミタ君のお父様でしょうか。担任のてっちゃんです」
「はい、ミタです」
「映像のデータですが、ファイルが三つ、ですね? 今、再生して確認を始めたところです。
えっと、ミタ部屋っていうファイルが、ミタ君の部屋のものです、よね? その映像から観始めたのですが……そうですね、この三人は間違いなく、わたしのクラスの生徒です。
信じたくは無かったんですが――これを観てしまったら、事実としか言えませんね。まずは、わたしからうちの教頭に報告をしたいと思います」
「はい。こんな週末の夜分に申し訳ありませんが、お願いします。あと、すみません、勝手なお願いなんですが。
できれば、また月曜日からミタを学校に行かせたいんです。なので、本当に申し訳ないのですが……日曜日までに、何らかの結果がほしいかと」
「そう、ですか……大至急で対応は進めます。ただ、もしかしたら教育委員会とかも関係するかもしれないですし、土日に対応できるかどうかは……」
「でも、緊急時の連絡体制がありますよね? もちろん、可能な範囲で構いませんので、対応をお願いします」
「わかりました。確約はできませんが、できることはやりたいと思います。
もし、何かありましたら連絡したいと思いますが、この番号にかけても構いませんか?」
「はい。あと、その……映像で全てを証言できると思っています。本当はミタにも証言はさせたいとも思ってはいるのですが、こんな状態なので――できれば、その映像だけで対応していただけると助かります。
本当に、こんな時間に申し訳ありません。よろしくお願いいたします」
「いえいえ、とんでもないです。では、何かありましたら連絡させていただきますので。失礼いたします」
「はい、失礼いたします」
二人のやりとりが終わると、右下に小さくなっていた画面が全画面表示へと変わった。
「今のが十月二日金曜日、夜の電話のやりとりです。
今回は大真面目でしたので、突っ込みどころなんて一つも……え? なんか、メールアドレスが変だった?
あぁ、なるほど。でもね、このメールアドレス、編集無しの本物です!
あのシリアスな展開に、まさかのあのアドレス!? 先生もちょっと、何か言いかけましたね。
あと、証拠として先生に送ったカメラ映像ですが。眼鏡で撮影した主観映像だと変に疑われそうなので、家の中に仕掛けたカメラ映像だけを送りました。
ちなみに、ケッチャンが借りた家に仕掛けたカメラなので、余罪には入りません!
『声を出す』はもう少し続きます。
次は十月四日、日曜日の午前九時。先生からの電話です。ドーゾ!」
「もしもし、ミタ君のお父様でしょうか? ミタ君の担任のてっちゃんです」
「はい、ミタです。先日は遅い時間に申し訳ありませんでした」
「いえ。こちらこそ、金曜日から少し時間が経ってしまい申し訳ありません。ようやく対応方針が決まりましたので、お知らせさせていただきます。
昨日、土曜日にですね、会議を行いました。教育委員会の数名と、うちの高校の校長、教頭、わたし、そして映像に映っていた三人の生徒とその両親を交えて、です。
まず、提供いただいた映像を全員で視聴したところ、ミタ君の部屋からゲーム機などを持っていった、ということについて、ほぼ全員の合意が得られました。
そして、会議の結果ですが――加害者の生徒三人には、一か月の停学処分を言い渡すことになりました」
「そうですか。一か月、ですか……」
「はい。一応、うちの高校は進学校ということもあって、停学期間が長いと成績に響いてしまう、という意見が出まして……。
あと、ミタ君の部屋から持って行った物は、前回分もあわせて全てお返しすることになりました」
「……物については、わたしの家の住所に郵送させてください。できれば、相手方とは顔を合わせたくないので」
「クラスの住所録に登録されている住所でよろしかったですか?」
「あ、えっと、すみません。タイミングを逃してしまっていたんですが、ちょっと間違いがあったみたいです。今から言う住所にしてもらえますか?
住所は、市のあとからですが――真剣卍町、超矢倍番地のゴーゴ号! です」
「――わかりました。では、当事者からはそちらの住所に送るよう手配しますので。それで、ミタ君は月曜日から学校に来れそうですか?」
「そこなんですが……今日、先生からいただいた電話の内容をミタに伝えれば、安心はすると思います。
ただ、精神的なショックがかなり大きかったみたいで……まだ立ち直れていないんです。
今後のことも含めて、ミタと話をして、どうするかわかり次第、てっちゃんに連絡したいと思います」
「わかりました。学校側は、できる限りミタ君が学校に来やすい環境を整えたいと思っていますので。それでは、連絡をお待ちしています」
「わかりました。では、失礼いたします」
――またも、画面右下で大人しくしていたケッチャンが全面に表示される。
「はい。結果は停学一か月と盗品の返品でした。どう、なんでしょう……長いような、短いような。
でも、進学校にいて停学処分を受けるようなことがあれば、良い大学には間違いなく行けませんよね。
長い目でみると、それ相応の罰なのではないじゃないでしょうか。
あと、ミタ君――というかケッチャンなんですけど、今後の話ですが。
月曜日から登校なんて……絶対にしたくありまっせーん!
なので、月曜日の朝にもう一回、担任の先生に電話しておきました。先生も理解してくれましたよ。
学校に通わなくて済んでホッとしているケッチャンなのでした。
はい、これで『声を出す』は終わりです。
ちなみに今回、警察には被害届けを出していません。
そっちは、ケッチャンがミタパパに扮して表舞台に立たないといけなそうなので、やめときました。
では、講評に移ります。
今回は確実な証拠があったので、うまくいきましたね。
親と担任がちゃんと対応してくれるか、というところも大きいですけど。
今回の行動を一つのマニュアルのように使ってもらえると、いじめられた甲斐があったというものです。
世のいじめられっこ達よ『声を出せ!』デス。
よし、決まった!
……えっ? そういうのはいらない? 手厳しい!
あと、最後に。今回ネット上で個人情報が漏れたのは、この三人が停学処分となって、月曜日から学校に来なくなったからです。
クラスメートから噂が広まったんでしょうね。
前回の動画を観た人からしたら、タイムリーすぎる停学ですもんね。
そりゃ、『あいつらじゃね?』ってなっちゃいますよね。
想定していた、というのはそういうことです。
――と、いうことで。
次は『訴える』ですよ!