14話 対処してみた(声を出す1)
今回、全部の対処をやってみたので、三部構成となっています。
とは言え、最後の『逃げる』を除くとほぼ音声のみですが。
映像があったとしても、どうせほとんどにぼかしがかかるでしょうし、あんまり関係ないですけどね。
はい。それでは『声を出す』からです。
まずは、いじめられた後に親に相談するところから始めたいんですが――今回の場合、ケッチャンには相談する親がおりません!
『ねぇ、ミタパパ』
『なんだい、ミタ?』
と、一人二役の、迫真の演技を披露しても良いのですが……誰も、いい年こいたおっさんの独り言なんて聞きたくないですよね。いい年こいたおっさんではありませんが。
なので、親への相談があった体で進めます。
ちなみに行動した日時ですが、十月二日金曜日の、午後七時三十五分です。
そう、いじめられた日の夜なのです。
鉄は熱いうちに打て、鉄板が熱いうちに喰え、って言いますからね。
ミタ君の迅速な報告により、ミタパパは即座に担任の先生に電話をしたのでした。という設定ですよ。
今回は電話の音声のみなので、声は編集していません。
でも、当然ですが固有名詞のところは編集してます。ケッチャンお得意の仮称に置き換えていますので、お楽しみに。
ちなみに、先生の名前は愛着が持てるように『てっちゃん』にしてます。ティーチャーっぽいでしょ?
あと、聞き取りづらいところもあるかもしれないので、画面には字幕表示もしますよ。
と、いうことで。ケッチャンは右下で大人しく、小さくなってますね。
それでは聴いてください。『声を出す』です。ドーゾ!」
――呼び出し音が鳴っている。一回、二回、三、四、五、六、ガチャ。
「はい、もしもし?」
「あ、もしもし、八手三田高校の、てっちゃんの携帯電話でしょうか?」
「はい、てっちゃんですが……」
「わたくし、てっちゃんにお世話になっているミタの父、ミタパパと申します」
「はい、あぁ、昨日の朝連絡くださった、お父様ですね? ミタ君、今日は学校に来てくれました。ホッとしましたよ」
「はい、おかげさまで。それで、学校でのことなんですが、ミタの様子はどうでしたか?」
「えっと、わたしは今日はホームルームでしか教室に顔を出せなかったのですが……少なくとも、そこでは特に変わりはなかったかと思いますが。何かありましたか?」
「はい。どうやら……いじめ、にあったようで……」
「えっ!? いじめ、ですか? それは、本当ですか? 今日のことですか?」
「はい。わたしが仕事から家に帰ったところ、ミタが部屋から出てこなくて。中に入ってみたら、ミタの部屋にあったゲームとか、漫画とか、いろいろ無くなっているのに気が付きました。
それで、聞いてみたんです。そしたら、クラスメート三人に盗られたって……」
「三人、ですか……その、三人が誰か、なんてのはわかるんでしょうか?」
「はい。あ、いや、顔はわかるんですが……何しろミタもまだ学校に行った時間が少なくて、名前がわからないらしいんです。でも、間違いなく同じクラスだとは言っています」
「そうですか。問題は、その……ミタ君を疑うつもりなんて無いんですよ? でも、本当に……」
「本当に、盗られたのか? ですよね。そこは間違いありません。そして、盗った人物も明らかです」
「えっと、どういうことでしょうか? それは、ミタ君の証言で、ということでしょうか」
「はい。証言と、証拠ですね」
「証拠、ですって? それは一体……」
「実は、四月から不登校になった原因も、今日とほとんど同じことをされたから、だったらしいんです。
ただ、そのことをミタから聞けたのは、不登校が始まってから一か月も経ってからでした。何より、証拠も無くて……そのときは何もできなかったんです。
でも、今回ようやく立ち直って、学校に行くことが出来るようになったんです。それで、もしもの、万が一のために――家の中に、カメラを設置していたんです」
「なっ――てことは、そこに全部映っている、と?」
「そういうことです。カメラはミタの部屋の他にも数か所に設置していましたし、音声も拾っています。ですので、十分な証拠になると思いますが」
「そう、ですか……わかりました。では、どうしましょうか?
えっと、今は七時……四十二分ですね。わたしがそちらに伺いましょうか? 映像を見ながらだと、今後の話もしやすいかと」
「いえ……息子が今、ちょっと精神が不安定なもので。できれば電話で――えっと、てっちゃんは自宅にパソコンをお持ちですか?」
「えぇ、ありますが」
「できれば、メールか何かで動画データを送りたいんですが。さっき、カメラの映像データをわたしのパソコンにコピーしたので。
画質はそんなに良くないんですが、その分、容量もあまり大きくなくて。
その、証拠となる部分だけ切り取ればさらに容量も小さくなりますので、送ることはできると思うんです」
「そうですか。では、こちらからデータを受け取るメールを送りますね。そこに添付して返信もらいたいので、メールアドレスを教えていただけますか?」
「わかりました。全て半角で、『mitapapa-to-mitamanma-lovelove@……』です」
「――確認しますね。『mitapapa-to-mitamanma-lovelove@……』ですね? ……えっと……いや、何でもないです」
「では、メールが届いたらすぐに返信しますので。てっちゃんから電話をいただけますか?」
「はい、わかりました。それでは、また」
「はい、では一旦、失礼します」