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いじめられてみた  作者: ケト
いじめられてみた
10/65

10話 記念動画(四)

 モノを袋に入れ終わると、満足顔の三人によるお別れの挨拶が始まった。


「じゃあ、また借りていくからな」

「貸すなんて言ってない……だって、前に持っていったやつだって返してくれてないし……」

「だって、返してって言われてないし。しかもお前、学校来なくなったから返せないじゃん。くれたもんだと思ってたけど?」

「あげてないし、貸してない……無理矢理持っていったんだ…」

「うるさいな。借りるって言ってんだよ。な、貸すよな? うん、て言っときゃ良いんだよ」

 

 正面に映っていたペンギンの手が、画面いっぱいに大きくなった。

 その直後、主観映像が大きく揺れた。どうやら、ミタ君が後ろに突き飛ばされたようだ。


「おい、手ぇ出すなよ。面倒臭いから」

「別に、このくらい良いだろ。傷がつかなけりゃわかんないって。――じゃ、借りていくからな。止めないんだから、良いってことだろ? じゃあな」



 ペンギンのその言葉を最後に、三人は袋を手に部屋を出ていった。

 

 ミタ君は三人の後をゆっくりと追いながら、


「貸してない……前も、今も、盗まれたんだ……泥棒――」


 呟くようなその声は、階段を降りる三人の背中には届いていないようだった。


「じゃあな。また半年くらい経ったら貸りに来るわ。学校には来なくていいからさ、ゲームとか買っといてくれ」


 ガキ大将が最後にそう言うと、三人は玄関のドアを開け、外へと出ていった。


 ドアが閉まり、外の光が消える――


 玄関に背を向けると、映像は階段を上がり、ミタ君の部屋の前を素通りする。

 先ほど鍵がかかっていた部屋の前に立つと、どこからか鍵を取った右手が鍵を開けた。


 

 ――部屋の中には、家具と呼べるものが一切置かれていなかった。

 部屋の中央、フローリングの床にはパソコンが一台。その横には、猫だろうか――毛並みがやけにリアルな被り物のようなものが一つ置かれている。


 ミタ君の手が被り物へと伸びると、少しの後に、その手はパソコンを開き起動させる。


 

 次の瞬間、動画の画面表示が切り替わった。

 四つに分割されていた画面が、ただの一画面にへと変わる。

 そこには、ミタ君――いや、リアルな猫の被り物を被った人物が映し出された。

 そして、その人物は少し籠った声で話し始めた。


「いやぁ……ひどい目に合いましたね。イエーイ、いじめられるゼ! ――と思って、途中までは内心ニヤニヤしてたんですけど……。

 自分からいじめられにいったにもかかわらず、かなり精神的にきてます。というのが今の心境です。


 シナリオどおりのいじめって感じで、やらせと思われても仕方がありませんね、これ。

 でも、本当の本当に、一切のやらせはありません! これだけは断言します。ていうか、信じてください、お願いします!


 さて。今回の映像を観て気分が悪くなった人も多いんじゃないでしょうか。

 ケッチャンも、少し甘く見ていたかもしれませんね。

 もしかしたら、殴る蹴るの暴力の方がまだマシ――そう思うほどでした。


 大成功ってプラカードでも出そうと思ってたんですけど……さすがのケッチャンも、この展開では無理ですね。苦笑い、です。


 

 ふぅっ……と、大きなため息を一つ。

 はい、立ち直りましたよ! 早っ!


 さて。実は、今回のいじめですが。四月に本物のミタ君がいじめられたときと同じやり口です。

 四月のことは本人に聞いたんですけどね。

 だから、今回最も確率が高いと考えていた、想定済みの展開いじめなんです。

 

 でも一つ、どうしても心配なことがありました。

 ケッチャンといじめっこが家に入るところを、近所の人に見られていないか、です。

 だって、ミタ一家は今ごろ世界旅行に行ってるんですから。


 両隣の家にも、旅行の前日にミタパパがきちんと挨拶しているし。もしも見られたら、この企画は失敗なのです。

 でも――結構リスク高いですよね? いじめられる確率より、家に入るところを見られる確率の方がはるかに高そうだと思いませんか?


 

 ――なんちゃって。不安材料は全て、この半年の準備期間で取り除きました。


 実は、ここは本物のミタ家ではありません。ミタ家から少し離れたところにある、似たような家です。


 だって、半年前に一回だけ行ったクラスメートの家の位置とか、見た目なんか、はっきり覚えてるとは思えないですよね。

 もしもいじめっこが近所に住んでたらバレそうですけど、そこも問題ありません。

 高校で初めて会った三人なので、学区が違うし、家も結構離れてるのです。


 ということで。本当のミタ家からは約一キロメートル離れた、全然別の家。なので、近所の人に見られてもバレません。



 じゃあ、ここは誰の家なのか――もちろん、ケッチャンの家ですよ。ニコっ!

 この買い物が一番高かった。これだけでウン千万……ってのは冗談で、ここは借りてます。


 ちょうど良いタイミングで売家になってたんですよね。

 売主に交渉して、ちょっと割高でも良いから貸して! ってお願いしたんです。

 だから、安くはないけど、買うよりはるかに安くつきました。

 

 前の住人は、この家に住んだ途端に良くないことが続いたらしくて――買って一年もしないうちに出てっちゃったんだって……。

 いわくつきですね。まぁ、ケッチャンは借りただけで実際には住んでないのでわかりませんが。

 ミタ家と同じような家具やら服やら装飾品やらを置かせてもらって、本番に使っただけのただの箱モノなのです。


 ――言っておきますが。この家に関して、ケッチャンは何もしてませんからね?

 ま、まさか、どこからか『いわく』を入手して、家の壁にベターっと貼りつけたなんて――え、『いわく』って物理的に貼れるものなの?




 ――さて、本編動画もそろそろ終了です。

 楽しんでもらえ……る内容ではないですよね。どよーんってなってしまいましたかね。


 ごめんなさい。一週間後、来週のこの時間まで、どよーんのまま我慢してください。

 必ずや、そのどよーんを晴らしてみせますから!


 では、タイトルだけでも告知しておきましょうかね。

 来週のタイトル発表とともに、この動画を終わることにします。


 それでは、また来週お会いしましょう。

 

 来週は『対処してみた』です!

 バヒバヒ~!」

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