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続編のない短編達。

幼馴染に告白されて付き合いだしたと思ったら、三日後に双子の弟に寝とられて、気づいたら拾われていた件

作者: 池中織奈

「私と付き合ってほしいの」

「え?」

「私、静稀のことが好きなの」

「……俺も」



 ――そんな会話を幼馴染の、夏菜としたのはつい三日前のことである。

 幼馴染の夏菜とは、昔からの仲であり、俺は夏菜に惹かれていた。



 そしてそのことは双子の弟である水稀には伝えられなかった。というのも俺と同じ顔をしている水稀が夏菜のことを好きだと言うのを知っていたから。

 伝えにくいな……と思って、伝えていなかった。



 そもそも双子で、同じ顔をしているとはいっても俺と水稀は仲が良いわけでもない。水稀は友人が多く、明るい性格で、大して俺は一人で過ごすことが好きで、あまり関わることもない。両親が共働きで家にいないことも多いので、俺が料理などをしている。ただ一緒に食事をすることはあまりないけれど。


 そうして俺は夏菜と付き合い始めた。

 夏菜は俺とも水稀とも仲良かった。俺たちの家にもよくやってきていた。俺と水稀の仲はそれなりだけど、夏菜は俺とも水稀とも仲良かったと言えるだろう。



 それでだ、本日凄く驚くことを言われた。



 俺たちの通っている高校は、夏休みに入っていた。

 俺はバイトに勤しみ、その合間に夏菜と会っていた。水稀は友達と遊んだりしていたみたいだ。

 



 それでだ。

 俺が家にいない間にも、俺の家に夏菜は来ていたらしい。

 


「――ごめんね。静稀。私、水稀と付き合うわ」

「静稀、夏菜は俺のものだ」



 バイトから帰ってきたらそんなことを言われた。

 正直えぇ……って感じであった。ショックを受けた。加えてどうやら俺がバイトにいっている間に、夏菜と水稀は身体の関係まで持っていたらしい。……一番意味が分からないのは夏菜である。俺に告白してきたのも夏菜だし、俺という恋人がいながら身体の関係を水稀と持ったのも意味が分からないし。



 俺はショックで家を飛び出した。

 丁度その日は雨だったけれど、そういうのを気にせず雨に打たれる。

 ……家に帰って三日間だけの恋人であり幼馴染である存在が、双子の弟と付き合っている様子を見せつけられると思うと、正直どうしたらいいのか分からない。



 そうやってしばらく雨に打たれていたら――、



「椎原君?」



 声をかけられた。



 振り向いてそこにいたのは、クラスメイトである赤阪だった。

 赤阪は眼鏡をかけた、いつも本を読んでいる少女である。




「赤阪……」

「んー、何かあった?」



 そう言いながら赤阪は俺の上に傘を差しだす。




「……えっと」

「答えにくい? 家に帰るなら送るけど」

「えっと、ちょっとしばらく帰りたくないっていうか」

「ふーん。じゃあうちの家くる?」

「え?」



 雨に濡れていて、それでいて帰りたくないと言った俺を放っておけないと赤阪はいった。

 そしてそのまま俺は手をひかれて、赤阪の家に連れていかれた。



 正直挨拶ぐらいしか交わしたことのないクラスメイトの家にいきなりお邪魔している展開に心がついて行っていない。

 夏菜が水稀と付き合いだしたことも含めて、なんでこうなっているのだろう?? という気持ちで一杯だ。




「お風呂入っておいで」



 ……クラスメイトとはいえ、雨に濡れていたのをみかけたとはいえ、一人暮らしの家に連れて帰って風呂に入れるなんて大丈夫なのだろうか。赤阪の危機管理能力が心配になった。


 でも押し切られてお風呂に入った。

 お風呂から上がって、着替えを借してくれた。お風呂からでた俺にホットミルクを渡してくれる。温かい。







「椎原君、聞いていいか分からないけどいい? どうして雨の中打たれてたの?」

「あー……ちょっとあんまり他言はしてほしくないんだけど……、俺が凄く情けない話なんだけどさ……」



 そう言って俺が夏菜に三日前に付き合おうと言われたこと、そしてアルバイトにいっている間に水稀と夏菜が付き合うことになったということ、ショックを受けて雨に打たれていたこと――。



 それらを話した。

 本当に情けない話だ。付き合い始めて三日で彼女を寝取られるなんて。恋人がいながらその恋人の双子の弟と関係を持った夏菜も意味が分からないけれど、俺にもっと魅力があったら――ってそういう気持ちもある。





 一連のことを話した俺。そしてそんな俺の頭に急に赤阪が手を伸ばしてくる。



「ショックだったね。あの二人、そんなことをしたのね。なんて酷い真似を……。椎原君は何も悪くないよ。いい子いい子」

「え」

「もっと泣いていいんだよ? ショックなんだよね? 思いっきり泣いた方がきっとすっきりするよ」



 そんな優しい言葉を言われて、頭を撫でられて、俺は不覚にも泣いてしまった。

 ……あまりかかわりのない相手だからこそ、こういう事情を語れたし、泣けたのかもしれない。

 それに赤阪があまりにも優しい笑みを浮かべてくれていて、どうしようもなく話しやすい。そういう雰囲気があったからだろう。





「ごめん。赤阪。急に泣いて」

「ううん。全然いいよ。それにしても三輪さんと椎原君の弟がいるなら家に居にくくない? 私、此処で一人暮らししているから、居にくいならうちにいなよ」

「え、いや……流石にそれは……」

「遠慮なんていらないよ! ゲームの相手も欲しかったし、全然楽しそうだしね」




 その後、おいでおいでと何度も何度も誘われ、そしてその日は夜遅いからとそのまま押し切られて泊まることになった。



 ――にこやかに笑う赤阪の善意に甘えて、結局俺はそれから赤阪の家にお邪魔することになる。



「あー。美味しい!! 椎原君って料理上手だよね」

「……お世話になっているから」



 そして俺はお邪魔させてもらっている代わりに、料理を作ったり掃除をしたりすることになるのだった。

 

 赤阪とゲームをしたり、一緒に料理を食べたり、夏休みの宿題をしたり――、夏菜と水稀に会わずに過ごすのが楽しくて、夏菜と水稀のことのショックはなくなっていた。





 ――幼馴染に告白されて付き合いだしたと思ったら、三日後に双子の弟に寝とられて、気づいたら拾われていた件

 (拾われてお世話になって、のんびりと過ごす日々が穏やかで、案外ダメージを受けていない)








なんとなく書いてみたものです。ちょっと中途半端かもですが、現代のこういう話ももっと色々書いてみたいなぁと思ってます。


椎原静稀しのはらしずき

双子の兄の方。一人で過ごすのが好き。夏菜と付き合い始めるも、三日後に双子の弟に寝とられてしまう。家事が得意。


椎原水稀しのはらみずき

双子の弟の方。社交的で友達も多い。夏菜の事が好きだったので、静稀がアルバイトの隙に手を出した。


三輪夏菜みわなつな

静稀と水稀の幼馴染。静稀に告白したけれど、わずか三日後に水稀に靡いていた。


赤阪あかさか

静稀のクラスメイト。眼鏡をかけた読書好き少女。放っておけずに静稀を家に連れて帰った。一人暮らし

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