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7. 美少女エルフアイタナ、ティントで一番感じる。



 死体の処理を二軍以下に任せたオレたちは、猿神を討伐したことを、全員でギルドに報告しにいった。


 報告なら一人でやればいいんだが、こうやってわざわざゾロゾロと皆で行くのは、自分たちの権威を示し、ギルドにいる連中から拍手をもらうためらしい。

 多様性の庭ダイバーシティ・ガーデンに入ってから、こう言う無駄なことばかり覚えちまってるな......。


「それじゃ、一旦解散としよう。午後六時にホームに集合。その後、皆でレストランに行こう」


 そして、セフランがパンと手を打った。


 やっと無駄な時間が終わった。魔物と戦いにいくか、闘技場で決闘でもしに行くか......決闘の方は、最近避けられてんだよな。


「......ついてくんなよ、ライラ」


 オレは、オレの後をついてこようとするライラに言った。ライラは、猫耳をピクリと揺らす。


「ついていくわけないじゃないわ。妹はいつだって姉について来るものよ。それで、どこにいくつもり? 私が先導してあげる」


「......はぁ」


 こいつと話してると、本当に疲れる。

 だいたい姉っつったって、三ヶ月先に、違う腹から出てきただけだろ。それで偉ぶるなっつう話だ。オレの方が強えんだし。


 しかし、撒こうにも、獣人のこいつは、オレの匂いを嗅ぎつけて後を追って来るから厄介だ。


 気分が悪くなるくらい香水をふりかけたらこいつも追いにくくなるが、こいつのために気分が悪くなるってのも、不快な話だ。


 ......こいつがいると、受けられるクエストの範囲も広がるし、仕方ねぇな。


「......邪魔すんなよ」


「わかったわ!」


「こら、アイタナ。ちょっと待ちぃ」


 すると、ダーリヤが褐色の手でオレの肩をつかんだ。オレは苛立って振り返る。


「なんだよ、説教はもう十分受けたぞ」


「ちゃうちゃう、あんた、また胸がデカなったやろ」


「ちょっと! アイタナをエロい目で見ないでって言ったでしょ!」


 ライラが馬鹿でかい声で言うと、ダーリヤがライラの頭に平手打ちを食らわせる。


「アホ! 人前で言いな言うたやろ!......ドレスやドレス」


 そして、オレに視線を戻す。


「もう前のドレス、サイズ合わんやろ。今から見繕いに行くで」


「はぁ?」


 なんだそれ、なんでわざわざそんなことのために、時間を使わないといけないんだ。


「......いつもの格好でいいだろ」


「いつものって......アンタまさか、あのボロッボロのタンクトップと半パンじゃないやろうな!?」


「あ? そうだけど?」


「アホか! あんな格好、思春期の男の子やったら見ただけで○通してまうわ!」 


「そうよ! というか、ホームであの格好でうろつくのもやめてちょうだい! ヤンなんか、あの長い前髪からチラチラエロい目で見てるのよ! 絶対に駄目!」


「ぶふっ!?!?」


 酒を片手にこちらに聞き耳を立てていたヤンが、吹き出し咳き込んだ。

 そして、「ま、魔剣が、エロい格好をする女はエロい目で見られたがっていると言っている」とかブツブツ訳のわからんことを言って、ささっと去って行った。


「ね、それだったら、ドレスと一緒にアイタナちゃんの私服も買いに行かない? 最近、すごくいいお店できたんだー」


 すると、オレの手柄を奪った弓隊のリーダー、ドワーフのナディアが会話に入って来た。

 こいつはドワーフのくせに、この団の中で一番”女”っぽいので、一番苦手だ。


「おっ、それはええな。うちももっと男受けのええ服欲しかったんや」


「あ、私も、アイタナとペアルックしたかったの!」


「それ絶対可愛い!」 


 なにやら女三人できゃっきゃ言い始めやがった。ほら、ナディアがいると、こういうなんかきもい空気になる。


「よっしゃ......それじゃ、ドゲロウとマグヌス、荷物持ちとして連れてったる!」


 ダーリヤが、残りの弓隊ドワーフ二人に言う。二人はなぜか、嫌そうなふりをした。


「えっ、俺たちっすか!? 俺、この後女の子とデートなんで、ちょっと行けないっすね〜」


 マグヌスが整った髭を撫でると、


「......儂も気乗りせん。人混みは苦手だ」


 ずんぐりしたトゲロウも合わせる。


「何言うてんの。どうせあんたら、大好きなナディアの私服見たくてたまらんくせに」


「「ぶふっ!?!?!?」」


 二人のドワーフが、同時に吹き出した。


「もぉ〜、ダーリヤさん、あたしたちはそんなんじゃないって〜」


 ナディアは、笑って言う。そして二人の間に入ると、ぴょんと跳ね上がって二人と肩を組む。


「あたしたちはズッ友なんだから! ね、二人とも!」


「「............はい」」


 一切邪心のない笑みを向けられた二人が、異様に落ち込む。


「......さすが、【矢倉サークルの姫】。これを素でやってるんだから恐ろしいわ」


 ライラがポツリと呟く。

 ライラが言うに、この二人はナディアのことが好きらしい。好きなら、ズッ友? って言われたら嬉しいもんじゃねぇのか?


 ......ま、死ぬほど興味もねぇが。


 さて、逃げるか、と思った時、視線を感じる。そちらを向くと、長髪の男が、じっとこちらを見ていた。


 その長髪の男は、周りにいた連中に声をかけ、こちらに歩み寄ってくる。『直感』が発動しないってことは、どっかで認識したか、相当弱いか......覚えがねぇから後者だな。


「久しぶりだな、アイタナ、ライラ」


 ん、会ってたみたいだ......いや、ライラも不思議そうな顔をしてる。


「あら、あなた......えーっと、どちら様?」


「サヴァンだ!! お前たちと冒険者学院で学業をともにした、お前たちを抑え主席で卒業したサヴァンだ!!」


「......ああ、あの貴族の子。お久しぶり」


 ライラは思い出したようだが、オレには全く覚えがない。

 オレは、パパを超える冒険者になること以外に興味がないから、雑魚のことなんてすぐに忘れてしまう。てことは、結局こいつは弱いってことだ。


「ああ、アンタがうちに入るサヴァンくんか」


 すると、ダーリヤがこんなことを言い出した。は? なんで雑魚がうちのパーティにはいんだよ。


「......はい。ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。正式に決まったことでもないことで、S級パーティの方々にお時間をいただくのも何かと思い、今日の食事会でご挨拶させていただこうと思っていたんです」


「おお、丁寧な子やね。この子らと同い年やろ? 爪の垢飲ませたいわー」


「ははは、いえいえ」


「ああ、サヴァン君!」


 すると、なにやら大人連中とゴソゴソ喋っていたセフランが、笑いながらこちらにやって来る。ああ、本気でうっとおしい。


 セフランのやろうも加われると、逃げにくくなる。こいつ、ワープ魔法とか言うしょうもないの、使えるからな。


 そう思いながら、逃げの動線を確認するため冒険者ギルドの出口の方を見る。ちょうど、二人の男女が......えっ。

 

「ッッッッッッッッッッッ!?!?!?!?!?!?」


 なんだ、今の......!?!? 『直感』スキルが発動したのは間違いないが、なんだ、この感覚!?!? こんなに感じたの、初めてだぞ!?!?

 

 あり得ない。こんなに強い『直感』、今まで感じたことがない......何かの勘違いじゃないか?

 ......いや、今の体に電流が走るような感覚は、間違いなく『強者』を見つけたときの『直感』だ。


 オレは、『直感』の原因であろう男を観察した。身長は170cm、体重は60kgほどの、オレンジ頭のヒューマン。

 別段体格も良くなく、身につけている装備も、そこら辺で放り投げられてそうな貧相なものだ。


「......ちょっとアイタナ、大丈夫?」


「おい、あいつって......」


 その男を指差す人差し指が震えているのに気がつき、慌てて下げる。


「......彼がどうした」


 すると、ライラの代わりに、長髪の男が、ムッと顔を顰めて言う。


「知ってん、のか」


「......知ってるも何も、サヴァン団の元団員だ」


「え、元団員!?」


 オレの代わりに、セフランが驚きの声をあげる。


「ということは、彼、やめちゃったのかい!?」


「......はい。自分には、多様性の庭の団員になれるという名誉は、あまりに重すぎると」


「そう、か、それは残念。彼みたいな特殊な冒険者、ぜひともうちに入って欲しかったんだけど。うちの研究部も欲しがっていたし」


「......すみません、私も残るよう言ったんですが」


「おい、だから何もんだ」


 二人の会話を遮って聞く。するとダーリヤが「こら、それが人に物を聞く態度か」とぺしんとオレの頭を叩いてから、続ける。


「あの子はティントくんっていう冒険者。ある意味、あんたよりも有名な子やで」


「......有名? 強いのか?」


「いや、むしろ逆や」


 ダーリヤはかぶりを振る。


「あの子の二つ名は【神敵ゴッド・エネミー】。長いこと冒険者やってるけど、いまだにレベルが上がらずレベルゼロのままなんや......ティントくんの気持ちもわかるで。むしろ、サヴァンくんのパーティにいれただけでも、奇跡みたいなもんやしな」


「......弱者を助けるのは、貴族の務めですから」


「おお、ノースリーブ・オッパイちゅうやつやな、ガハハ」


「......ノブレス・オブリージュだよ、ダーリヤ」


「......猫の私に鳥肌立たせないでよ」


 ......レベルゼロ? そんな馬鹿な話が、あってたまるか。先ほどあいつに感じた『直感』は......ドラゴンや幻獣などと比べても劣らない......どころか、圧倒的に上だったんだぞ。


 スキル出現前に認識していたパパ相手への直感は、感じたことがないから比較ができねぇ。


 つまり、あいつがパパ級の可能性も、ある......。

 

 その二人組は、クエストの受注を終えたのか、受付嬢に背を向け、ゆっくりとギルドの出口へと歩を進める。


「そんなことより、アイタナ、今日は食事会に来るんだろうな? 私の父もお前に会いたいと」


「追うぞ」


「えっ?」


 オレは長髪男の言葉を遮って、ライラに言った。ライラは赤茶色の目をまん丸にした。オレはライラの腕を掴む。


「ティントを追う。ついてこい」


「......はっ、はぁい! どこまでもついていきます!」


「姉は妹についていかないって話、どうなったんや......てこら、ドレスはどうすんねーん!」


 ダーリヤの声を背中に受けながら、オレはオレンジ頭のティントと、ボロマントの女を追った。


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